3.7.03
病院からの帰り道。
『会議室、決まったから。みきさんも来てるよ』
夕方。まゆからメッセージ。
言われた場所へ行くと、大手チェーンのインターネットカフェだった。
そこのカラオケブース。
良いアイディアだ。
複数人用の個室で、防音。
カラオケボックスと違い、酔っ払いが部屋に押しかけることも無い。
部屋に入ると、未希はマンガを読んでいて、まゆは自分のノートパソコンをいじっている。
「あ、おにいちゃん来た。何か飲む?」
「もう、調子はいいのか、未希」
「うん。みきもはやくログインしたいから、デバイス使えるようにして」
無茶を言う……
「オレのメモリアは、本当に地獄だ。昨日も殺されそうだった」
「ソウジが失敗したら、
みきさん消滅しちゃうかも……
絶対に死んだらダメ」
「おにいちゃん、回廊は開けられそう?」
「2人の老人を見つけることはできた。3人目はこれからだ」
「老人……なんか、地味。ファンタジーじゃない」
ほっとけ。
「未希」
「ん?なぁに」
「6ヶ月間、なにしてた?」
「う~ん、お料理したり、英語と、ドイツ語を習ったり。あと、魔法の練習とか」
「魔法……すごい……どうやるの?」
魔法という単語に喰いついたのは、まゆだ。
「魔法はね、思考するの。
お願い? するのかな?」
「呪文は無いの?」
「うん、世界にお願いするだけ」
「今、ここでは、魔法は使えないのか」
「う~ん……ムリみたい。
でもね、みきは才能あるんだって。
噴水のおじさんが言ってた」
「……だれそれ」
「噴水のおじさんはドイツ人でね。
いろいろ教えてくれるんだよ。
ドイツ語も、噴水おじさんから習ってるよ」
「別のプレイヤーか」
「そう。みんなからは、
噴水おじさんて呼ばれてる」
「プレイヤーは何人くらいいるんだ?」
「う~ん、みきのエレメントだけでも3千人くらい? わからないよ」
そんなに居るのか……
「みきさんの、得意な魔法はなに?」
「お花を咲かせる魔法」
「え……」
まゆは、未希の回答が、少し残念そうだ。
それにしても、魔法か……
「オレにも、使えるのか? 魔法は?」
「刻印が無いとだめなんだって。
みきにはなぜか最初から刻印があって、
すぐにできたよ」
「どうすれば使えるんだ?」
「さっき言ったじゃん、世界にお願いするの」
「花を咲かせる魔法は、どうお願いしたんだ」
「お庭に種を撒いて、お花を咲かせてくださいって、お願いした」
「そしたら?」
「お花が咲いた」
未希は、教師として不向きだった。
「なにか、言葉とか、道具とかが必要なのか?」
「ううん、なんにも必要ないよ。心の中でお願いするだけ」
「メモリアでも使えるのか?」
「うん、使えるよ。
みきのメモリアのおうちは、お花畑だよ。
あと、ジャガイモも植えた」
「ジャガイモ?」
「じゃがバターが食べたいのに、ジャガイモが無いから、魔法でつくったの」
「みきさん……すごい……」
まぁ、あとで、試してみるか……
あ……
「すまん、ログインデバイスをアパートに置いてきた」
「……ソウジ……つかえない」
まゆが、オレを睨む。
視線を外すと、未希も呆れた表情でオレを見ていた。
ポケットからタバコを出す。
「ここ禁煙!」
2人が声を合わせた。
仕方なくタバコを戻す。
「今日は、作戦会議だろ。なんの作戦だ」
まゆが、ノートパソコンを回転させて画面を見せる。
だが、オレに見せられても、さっぱりわからない。
まゆが、言った。
「……エスコート・デバイス」
「また、新しいカタカナか」
「みきさんか、ソウジが、
エスコートデバイスをとってきてくれれば、
わたしも行ける」
「えへへ。次は行こうね。3人で」
「行けるのか? 3人で?」
「うん。行けるよ。
エスコートデバイスが手に入れば」
未希が屈託の無い笑顔で言った。
家では見せない表情だった。
「3人で、ニフィル・ロードをクリアしよう」
「まてまて、エスコートデバイスとはなんだ?」
これは、未希よりも、まゆのほうが詳しかった。
「ゲームをクリアすると、クリアしたプレイヤーのデバイスが2つに増える」
「それが、ログインデバイスのように使えるのか」
「1人の人間が、同じカウントに2回入ることはできない。
別の誰かに渡して、ニフィル・ロードに誘う」
未希がクリアすると、未希のデバイスが2つに増える。
増えたデバイスを、まゆに渡せば、まゆも次からニフィル・ロードへ行けるようになる。
と、言うことらしい。
ゲームのクリアについては、まゆも、知らなかった。
未希もクリアしたことがなく、解らないという。
ログインして中のプレイヤーに聞けば分かるのかもしれないが、ログインできるのは、オレのデバイスだけだった。
そして今日は、オレがデバイスを持ってこなかった。
そもそも、オレの状況は、他のプレイヤーに会えるような段階ではない。
「……明日は土曜日だから、お昼でもいいよ」
まゆの一言で、続きは明日になった。
だが、オレは明日、仕事がある。
仕事が終わったら、またここに来ると約束して、今日はお開きになった。
「メシでも食ってくか」
と、誘ったが、未希は家に帰って食べると言った。
まゆも「じゃあ、私も帰る」と言って帰った。
帰り道。
独りで、中華料理屋に入りメシを食う。
そして、アパートに戻った。
あとがき#6
~未希~
おにいちゃん……
なんかすごい苦労してるみたいなんだけど……
みきのメモリアと違いすぎてて。
もしかして、違うゲームやってない?
(続く)




