3.6.09
念のためだ。
アルクに1つ質問した。
「アルク。シユフの好物は何だ? 3つ、答えろ」
「へ? なぜでしょう?」
「大事なことだ。小声で3つ、答えてくれ」
「そうですねぇ……
居酒屋で2人でよく食べたシカ肉のシチュー。
あとは、揚げたての魚のパイですね。
あれは私も好物です。
それと……
シユフの家でよく出された大麦のポタージュ。
もう、食べられませんが、
彼の庭で育てた香草が添えられていましたね」
「シユフ。先ほどの女性は、シユフの妻か」
「え、あ、はい」
「ここへ呼んできてくれないか」
「わかりました」
シユフが戸を開けて部屋を出る。
すぐに、女性を連れて戻ってきた。
「すまないが、シユフの好きな食べ物はなにかな。
教えてくれないか?」
「え?」
女性が、シユフの顔を見る。
シユフが、こくりと頷いた。
「そうねぇ……緑野菜の大麦のポタージュかしら?」
「そうか。ありがとう」
妻の最初の回答で、この部屋の緊張が溶けた。
堪えきれなかったのか、アルクが声を出して笑った。
それを見て、シユフも笑う。
妻は2人を、訝しそうに眺めている。
「合格……のようですね? ソウジ?」
「ああ、合格だ。金型の場所まで案内しよう」
それから、オレはアルクを伴い、川が二手に分かれる場所へと案内した。
そのすぐ近くの木。
落ち葉を払うと、金型がそこに落ちていた。
それを拾い、泥を払う。
そして、川辺で待つアルクに金型を投げる。
「オレを殺すか?」
「まさか。
言ったでしょう。わたしびと様は国の賓客です。
そして私は、王国に仕える者。
あなたは生き返るのでしょうが、
私は首をはねられて終わりです」
「そうだったな」
「それで、これからどうしますか?」
「一度、カタセ村に戻りたい。
スピカへ向かうのは、その後で構わないか?」
「もちろん構いません。今すぐ向かいますか?」
「いや……野営は面倒だ。
明日の朝に出発して、
陽が暮れる前にカタセ村まで行こう。
スピカへ発つのは、その翌日だ」
「やはりあなたとは、話も行動も合理的で早い」
「泊るところはあるのか」
「昨日はシユフの家に泊めてもらいました。今夜も、そうしますよ」
それから、オレ達は村に戻る。
アルクは、シユフの所へ。
オレは、ガロムの家へ。
太陽の位置は、昼を過ぎていた。
ガロムにあと1日泊めてくれと頼んだあと、
「なにか手伝うことはないか」
と聞く。
夕方まで、水汲みや、荷運びを手伝い、夕食をご馳走になる。
「明日、カタセ村に戻る。ガスコスに何か伝言はあるか?」
と、ガロムに聞く。
「はよ帰ってこいと言っとくれ。男手が足りんわい」
「わかった。必ず伝える」
その夜。
借りた藁のベッドに横になる。
アルクを完全に信用したわけではないが、ガロム達に危害が及ぶ可能性は低いだろう。
それをする意味も理由もない。
『 ELAPSED 01:21 』
やっと、ログアウトできる。
今回は、長い旅だった。
しかし未希を救出する43時間は、まだまだ遠い。
明日は、カタセ村へ帰還する。
だが、それは、ニフィル・ロードでの話だ。
今夜は、ここでログアウトだ。
ふと、思った。
43時間よりも早く未希を救出したらどうなるんだ?
……どうでもいいか。
あとで、まゆにでも、聞いてみよう。
そもそも、辿り着く前に、いつ死んでもおかしくない。
今回は、何度死にかけた……?
いや……過ぎた話だ。
それこそ、もう、どうでもいい事だった。
『 Logout 』
文字をタップする。
すぐに光に包まれた。
オレは、ログアウトした。




