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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
ワールドカウント23
7/414

2.3


 小さい頃の未希の夢を見た。


 オレの母親に手を引かれた未希が、玄関に立っていた。


「総司、今日から一緒に住む未希ちゃんよ。何度か遊んだことあるから知ってるでしょ?」


 小奇麗な青いワンピースの背中に、ピカピカの赤いランドセル。

 それとは対照的に、くたびれた老犬のように疲れ、諦めきった顔。

 落とした視線は、床ではなく、その途中にある何かを見ているようだ。


「みきちゃん……いらっしゃい」

 声を掛けたが、向けられたのは地蔵のような眼。

 唇が動くが、なにも聞こえてこない。

 どうにか声を拾おうとしたら、後頭部に何かが突き刺さった。



 オレは飛び起きて、肺に空気を送り込んだ。


 何度か荒い呼吸を繰り返し、右手でみぞおちをさする。

 千切れかけていたはずの右の手首は、なんともなかった。


 犬に噛まれた太腿にも痛みはなく、昨日から履いているチノパンに戻っている。

 少しずつ平静が戻ると、自分のカラダが放つ汗臭い匂いが鼻についた。

 なんだったんだ。夢だったのか。


 立ち上がろうとすると、左手から黒いものが、ぽとりと床に落ちた。

 あの電子機器だ。


 画面を見ると白い文字。

『 World Count 24 / Login Recharge 29 』


 ログインリチャージ29?

 ワールドカウントがひとつ繰り上がり、右端の29の数字だけが点滅していた。


 スマホを取り出し、日付と時計を見る。

 土曜の9時30分。


 あれだけの夢を見たはずだが、母親が出かけてから、10分も経っていなかった。

 念のため後頭部にも触れてみたが、やはりなんともない。


 電子機器を持ったまま立ち上がる。

 ポケットから、タバコを取り出すと、ようやく安堵がこみあげてきた。

 頭は混乱したままだが、オレは生きている。

 やっとタバコが吸える。


 窓を開けて、タバコに火を点けた。

 湿り気を含んだ風が吹いてくる。

 今は晴れているが、遠い空は、灰色の雲に覆われていた。

 ふぅっと、時間をかけて最初の煙を吐き出した。

 オレを見て驚いたスズメが、慌てて飛び去っていく。


 それにしても、酷い夢だった。考えを整理しようにも、混乱しすぎていた。

 あれが夢だったと割り切っていいものなのかどうか。


 タバコを咥え、スマホを取り出す。

 電話をかける。

 通話先は、達郎という男。

 この辺りのギャングを仕切る後輩だ。


 2コールで達郎の声。

「あ、どうも達郎です。お久しぶりです総司さん」

 達郎の早口だが、低く沈んだ声。


「おまえの知り合いに、パソコンとか電子機器に詳しいやつ居たよな」


「えーと……あ、1日中パソコンいじってるストームのことですかね」

「調べてほしいものがある。今から、写真送るから、そいつに頼んでくれないか」

「わかりました。ちょっと変な奴ですけど、連絡はすぐにつきます」


「わるいな。頼む」

 通話を切って、電子機器を撮影し、SNSで達郎に送った。


 すぐに達郎からメッセージが戻る。

『写真をすぐに、ストームに回します』


 ストームってなんだよ。

 ふたつ名か何かか。


 達郎は、オレの1コ下で、知り合って4年くらい。

 あの頃の達郎は高校にも行かず、地元ギャングの最年少幹部という立場で威張り散らしていた。

 最初の出会いは険悪だったが、何度か叩き潰したら、オレを慕うようになった。

 いまでは、そのギャングを束ねるリーダー格に出世し、ガキどもの社会ではとにかく顔が広い。


 スマホをポケットに戻し、窓の下の外壁でタバコをもみ消す。

 吸い殻どこに捨てようか。

 未希は、タバコを嫌がる。


 電子機器を机の上に置いて、吸い殻をつまんだまま未希の部屋を出た。


 階段を降りてダイニングに行くと、テーブルの上に、皿に載ったおにぎりが2つ。

 それを見て、猛烈な空腹を思い出した。


 カラダはそうでもないが、精神が疲れた。

 まずはシャワーだ。


 オレは浴室に向かった。




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