表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
ワールドカウント23
6/413

2.2 - 盗賊


 どれだけ歩いただろうか。


 時計が無いので分からないが、1時間かそれ以上か。

 川幅も広くなり、対岸まで30メートルはありそうだ。


 少し前から、微かな煙の匂いを感じていた。

 お盆の日に、どこからともなく嗅ぐような、なにかを燃やしている匂いだ。


 歩みを進めていると、途切れた葦の隙間から、それが見えた。


 煙だ。


 風にあおられて、上空へと拡散している。

 出所は、葦や低木に阻まれていて、確認できない。

 だが、あの煙の元で、なにかが燻っている。あるいは燃えている。


 葦伝いに、煙の方へと近づく。

 なにかが焼かれている匂いが強くなる。

 近づくほどに、吐き気が強くなる匂いだった。

 焦げてダメになりかけているシチューのような匂いだ。


 さらに葦をかきわけて進んでいくと、話し声が聞こえ始めた。

 誰かいる。複数だ。

 ときおり、笑い声も混じっている。


 膝を落とし、声のする方へ。

 目立たぬように、ゆっくりと葦を除けて、少しずつ歩を進める。


 葦の途切れる手前で足を止めた。


 男が3人。

 それと大型の犬が1匹。

 リードを付けていない犬が、すこし距離を置いて、カラダを丸めている。

 見た目は、ゴールデンレトリバーに似ているが、少し違う。


 3人の男は焚火を囲んで、なにか談笑していた。

 2人は座り、焚火を挟んだ向かいに、川を背にして腕組みする男。


 聞き耳をたてたが、無駄だった。

 話している言葉が分からない。英語とも違う。


 日本人ではないだろうが、判別できない。

 3人とも、剃ったことが無さそうなほどの髭を生やしていた。

 眼と鼻は見えるが、口も顎もヒゲに覆われており、ぼさぼさの髪を前髪から集めて後ろで結っている。


 まぁ、ひとまずオレはホッとした。

 ヒトが居た。


 あとは、あの3人が、敵なのか、味方なのか。


 3人は、薄汚れた白っぽい肌着に、毛皮のベストを羽織っている。

 腕組みの男の腰には両刃の西洋剣が吊り下がっていた。

 刃渡りは60センチ程度だろうか。

 ここからでもわかるほどの刃こぼれが目立つ。

 酷いボロ剣だ。

 拾ったのか、あるいは、使い込んでいるのか。


 確実になったのは、ここが法治国家でも、日本でもないということだろう。

 あれでは確実に、銃刀法違反だ。


 座っている2人は、どちらも手斧を傍らに置いている。

 言葉は分からないが、そのトーンは、無駄に大きく威圧的で、笑い声は妙な怒りを誘う。


 あれは良くない連中だ。

 3人の雰囲気は、若いギャングの下っ端が、夜の公園あたりで談笑している姿に酷似している。

 顔見知りじゃなければ大抵はケンカになる。

 おまけに、3対1なら、間違いなくやつらの方から仕掛けてくる。


 あれは、友好的な連中ではないだろう。


 だが……


 あいつらは、靴を履いている。

 毛皮のベストを着ている。

 座っている男が手に持っているのは、水筒だろうか。

 今後のことを考えると、あれらは必要だ。欲しい。

 そして、なによりも惹かれるのは武器だ。


 最良なのは、彼らが友好的で、彼らの寝床か集落に案内してもらうことだろう。


 しかし、3対1だ。

 奇襲をかけて、先に独りを落とせば可能性は有る。

 友好的に話しかける猶予はない。

 彼らとのファーストコンタクトは、奇襲だ。


 最も厄介なのは、あの犬だ。

 愛玩犬だとは思えない。あれは猟犬。良くて番犬。


 あ……


 しまった……


 犬と眼が合った。


 時を置かず「ワフッ」と、その場で一つ吠える。

 3人が、犬に注目したかと思うと、犬は、こちらに駆け出した。


 オレは、近くにあった、棒きれを左手で逆手に掴む。

 犬の体長は1メートル強。

 心の準備も敵対意思もないオレに、殺意の籠った眼光を飛ばすと、弾けるように加速した。


 考える間もなく、犬が近づく。

 オレは腰を落とす。


 距離が詰まり、犬が跳ねた。


 跳ねた直後に、棒きれを首の高さに構える。

 犬系の動物は、まず首を狙ってくる。


 突き出した棒きれを見た犬の頭が空中で左下に沈む。

 右手をフックのように回し、空中でもたついた犬の頭を引っ掴む。

 そのまま頭を、左後ろにそらしながら、棒きれを犬の背中に突き刺した。


 左耳に響く犬の悲鳴。

 バタバタと転がり、のたうち回っているような音が背後から聞こえる。


 3人の男たちは、オレを見て眼を丸くしていた。

 棒きれは半分折れて無くなっていた。

 犬に刺さったままだろう。


 どうする……逃げるか。

 逃げる。

 いや、逃げるべきだ。

 状況的に、オレの方が速く走れるはずだ。


 奇襲は完全に破綻した。

 ここから先は正面戦。

 見れば体格は3人ともオレよりデカく、肉付きも良い。


 あと1、2秒で、手に武器を取り、こちらに向かってくるだろう。


 逃げよう。

 と、重心を変えたとき。


 右脚の太ももに、牙が食い込んだ。

 眼が血走った、よだれまみれの犬が、オレの脚に噛みついていた。


 痛みが襲う前に、噛みつく犬の頭を掴む。

 そのまま、親指と中指を犬の眼に突っ込んだ。


 シッポを踏まれたときのような悲鳴を上げて、犬がのけぞった。

 掴んだ頭を放すと同時に脚から激痛。

 犬は前脚をバタバタとさせながら、転げまわった。


 男たちの方を見る。

 ボロ剣の男がすでに間合いに入っていた。


 男は左耳の辺りに切っ先を引き寄せ、袈裟斬りの態勢に入っている。

 切れ味が悪そうな剣だ。


 振り始めた剣に、右手を出した。

 手元まで届かない。

 刃こぼれする剣の刃を素手で掴みにいく。


 甘かった。

 手のひらに載ったのは、金属バットで叩かれるような衝撃。

 剣は、そこで止まったが、オレの手と手首が半分切り離されている。


 そのあと、男の拳がオレの顔面に直撃した。


 ゴンと、鈍い音。頭が揺らされ視界がゆがむ。


 なんだ……

 けっこう強えぇ……


 右膝が崩れ落ちたが、どうにか片膝の態勢で堪えた。


「ウーラ、アラウェーダ、アラウガーラ」


 男が何か喋っている。


「わかんねーよ」

 喋ると口の中に痛み。

 奥歯が何本か欠けたようだ。

 鉄の味がする唾液が、じわっと広がっていく。


「ハビダラ、ウーラ、アラウェーダ」


 それを口の中でこねくり回し、ブッ、と、男のベストに吹き飛ばした。


 男はオレの髪の毛を掴み、上を向かせて、オレの顔を眺める。


「デンゴラバ」


 フッ……フフフ……フハハハッ。


 臭ぇ……

 この男、この状況でも嫌気がさすほどに、めちゃくちゃに臭ぇ。


 たまらず薄笑いを浮かべた。

 もう、笑うしかできない。


「おまえくせぇんだ……」

 言葉の途中で、男のつま先が、オレのみぞおちに突き刺さった。


 息ができない。


 そのあと、掴んだ髪の毛を引っ張り、オレの頭を地面に叩きつけた。


 微かに感じる土の匂い。

 ここがどこかは知らないが、土の匂いは、うちの近所と同じだ。


 男が振りかぶっている気配が分かる。


 死ぬのか。


 死ぬんだろうな。


 ……あれ


 ……おれ、何しにここに来たんだっけ?


 後頭部に固いものが触れる感触。




 ……ごめん……みき



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ