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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
ワールドカウント24
65/425

3.6.04


 ガロムの家へ戻る。

 厨房には、次男のルボンスが居た。

 ガスコスの弟だ。


「よう、ソウジ。何日ぶりだぁ?

 話は、ガロムから聞いてるよ。にしても、あいかわらず……ムスッとした顔してやがんなぁ」


「ルボンス、この辺りに小川はあるか? 灯巫子が出そうな小川だ」


「おう。あるぜ。この村には井戸が1個しかねぇからな。沢山欲しいときは、小川で汲む。フィーダが灯巫子を見たって騒いでたのも、その小川だ」


「どこだ?」

「西にいったところだ。今の時間なら、太陽を追い掛けりゃ、小川に突き当たる」


「ありがとう」

「今からいくのか? 暗くなる前に戻れよ。村が近いとはいえ、夜の森は危ねぇからな」


「ああ、気を付けるよ」


 ガロムの家を出て、夕陽の方へとつながる道を辿る。

 尾行されている感じはない。

 だが、心の準備だけは、しておこう。


 数分歩くと、小川のせせらぎが聞こえ始めた。

 道を外れ、音のする方へと森に踏み入る。


 小川はすぐに見えた。

 川幅は、十数メートル。

 緩やかに流れる川だった。

 深いところは分からないが、ぱっと見た感じでは浅い。

 歩いても渡れそうな小川だ。


 立ち止まり、上流から下流へと視線を流す。

 イェシカの言葉を思い浮かべる。


 ……小川の真ん中で、お花のある場所……


 中州だろうか。花が咲く程度の広さの中州。

 見渡す限り、そのようなものは見えない。

 どんな花か聞いておけばよかった。


 上流か、下流か、どちらへ行こうか。


 オレは基本、博打はしない。

 確信がある方。それはどっちだ?


 もう一度、ゆっくりと川を見渡す。

 夕陽は、真正面。

 花が咲く条件。

 陽が当たる場所。


 上流は、森が濃い。

 下流も大して変わらない。


 灯巫子が現れる条件。

 大人があまり寄り付かない場所。

 村から最短距離のここでは無いだろう。


 他に手掛かりは……


 イェシカの家。

 方角的に下流の方が近い。


 オレは、下流に向かって歩き始めた。


 少女の脚でも、森を抜けずに辿り着けそうな場所。


 どこか小道か、森の切れ目が無いか。

 それを探しながら、下流へと進む。


 歩いて数分。

 森が途絶え、小道が見えている。

 花は咲いているが、中州は無い。



 さらに下流へ。


 どれだけ歩いたか。

 陽は、傾き続けている。


 小川が二手に分かれていた。

 一方は、土が抉られている。

 誰かが掘った用水路のようにも見える。

 抉られた土のくぼみに、川の水が流れ込んでいた。


 そして、水が分岐するその先端。

 面積は広くない。

 自然に生まれた、小ぶりの花壇。

 小さな黄色い花が、そこに群生していた。


 花には詳しくない。


 さかずきを広げたような黄色い花びらが並んでいる。

 泥の中から精一杯に首を伸ばし、ツヤツヤと夕陽を跳ね返していた。


 川を渡り、花へと近づく。

 流れは緩やかで、深くもない。

 少し冷たいが、子供の脚でも渡れるだろう。


 近づくと、すぐに見つけた。


 花たちに守られるように、四角い印鑑のようなものが置かれていた。

 夕陽にあたる女性の横顔が、暖かな淡い光を反射していた。


 右手を伸ばして、それを拾う。

 やはり金型だ。表面に鉄コインと同じ意匠が掘られている。


 その瞬間だった。

 風を切り裂く音が耳元を掠めた。


 同時に、金型を持った右腕に、何かが刺さった。


 オレの右腕を、枝が突き抜けた。



 矢が貫通していた。




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