3.6.04
ガロムの家へ戻る。
厨房には、次男のルボンスが居た。
ガスコスの弟だ。
「よう、ソウジ。何日ぶりだぁ?
話は、ガロムから聞いてるよ。にしても、あいかわらず……ムスッとした顔してやがんなぁ」
「ルボンス、この辺りに小川はあるか? 灯巫子が出そうな小川だ」
「おう。あるぜ。この村には井戸が1個しかねぇからな。沢山欲しいときは、小川で汲む。フィーダが灯巫子を見たって騒いでたのも、その小川だ」
「どこだ?」
「西にいったところだ。今の時間なら、太陽を追い掛けりゃ、小川に突き当たる」
「ありがとう」
「今からいくのか? 暗くなる前に戻れよ。村が近いとはいえ、夜の森は危ねぇからな」
「ああ、気を付けるよ」
ガロムの家を出て、夕陽の方へとつながる道を辿る。
尾行されている感じはない。
だが、心の準備だけは、しておこう。
数分歩くと、小川のせせらぎが聞こえ始めた。
道を外れ、音のする方へと森に踏み入る。
小川はすぐに見えた。
川幅は、十数メートル。
緩やかに流れる川だった。
深いところは分からないが、ぱっと見た感じでは浅い。
歩いても渡れそうな小川だ。
立ち止まり、上流から下流へと視線を流す。
イェシカの言葉を思い浮かべる。
……小川の真ん中で、お花のある場所……
中州だろうか。花が咲く程度の広さの中州。
見渡す限り、そのようなものは見えない。
どんな花か聞いておけばよかった。
上流か、下流か、どちらへ行こうか。
オレは基本、博打はしない。
確信がある方。それはどっちだ?
もう一度、ゆっくりと川を見渡す。
夕陽は、真正面。
花が咲く条件。
陽が当たる場所。
上流は、森が濃い。
下流も大して変わらない。
灯巫子が現れる条件。
大人があまり寄り付かない場所。
村から最短距離のここでは無いだろう。
他に手掛かりは……
イェシカの家。
方角的に下流の方が近い。
オレは、下流に向かって歩き始めた。
少女の脚でも、森を抜けずに辿り着けそうな場所。
どこか小道か、森の切れ目が無いか。
それを探しながら、下流へと進む。
歩いて数分。
森が途絶え、小道が見えている。
花は咲いているが、中州は無い。
さらに下流へ。
どれだけ歩いたか。
陽は、傾き続けている。
小川が二手に分かれていた。
一方は、土が抉られている。
誰かが掘った用水路のようにも見える。
抉られた土のくぼみに、川の水が流れ込んでいた。
そして、水が分岐するその先端。
面積は広くない。
自然に生まれた、小ぶりの花壇。
小さな黄色い花が、そこに群生していた。
花には詳しくない。
盃を広げたような黄色い花びらが並んでいる。
泥の中から精一杯に首を伸ばし、ツヤツヤと夕陽を跳ね返していた。
川を渡り、花へと近づく。
流れは緩やかで、深くもない。
少し冷たいが、子供の脚でも渡れるだろう。
近づくと、すぐに見つけた。
花たちに守られるように、四角い印鑑のようなものが置かれていた。
夕陽にあたる女性の横顔が、暖かな淡い光を反射していた。
右手を伸ばして、それを拾う。
やはり金型だ。表面に鉄コインと同じ意匠が掘られている。
その瞬間だった。
風を切り裂く音が耳元を掠めた。
同時に、金型を持った右腕に、何かが刺さった。
オレの右腕を、枝が突き抜けた。
矢が貫通していた。




