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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
ワールドカウント24
63/413

3.6.02


 眼を開けると、霧が立ち込める朝だった。

 幽霊でも、出てきそうな薄気味悪い朝。


 アルクとトールスは寝ていた。

 焚火が消えかけている。

 アルクはマントにくるまっている。

 トールスは草地に寝そべり、寒そうにイビキをかいていた。


 鍋の底にこびり付いているパンのカケラを摘まむ。

 口に入れようと思ったが、酷く血生臭い獣臭だったのでやめておく。


 適当に薪木を拾い、石炉に放り込む。

 息を吹くと、焚火の火の勢いが戻る。


 熱を持つ前に鍋を持ち上げて、川原へ行く。

 冷たい水で鍋を洗う。

 この鍋は、ウガーラ村についたらガロムに返す。


 戻ると、起き上がろうとしていたアルクと目が合う。

「おはようございます」


 何か言いたそうだが、オレから視線を外してトールスの方を向いた。

「居眠りですね。まったく……」


 洗った鍋をズタ袋に入れる。

 腰を下ろして、革水筒のキャップを開けた。

 パンの匂いがするこの酒は、栄養ドリンクも兼ねている。

 朝食替わりとして呑んでも、充分、腹にたまる。


「トールス、起きてください。出発しますよ」

 アルクがトールスのカラダを揺すっている。


「お……おう。交代か」

「あなたの番でしたが、あなたは寝ていましたよ」


 少し打合せをしておこう。

 トールスを見て、うんざりした顔をしているアルクに話しかける。


「ウガーラ村には、昼前に到着する。

 その先は、別行動でもかまわないか? オレは、これを返しに知人に会いに行く」


 ズタ袋を指さして、アルクに言った。


「もちろん、かまいません。私たちは、少々荒っぽいことになるかもしれませんし。ソウジが、金型の件にクビを突っ込むのも、オススメしません」


 少し間を置いて、アルクが続けた。


「ただし……抜け駆けはダメですよ?」


 アルクの訓練されたような笑み。

 それでいい。

 わかりやすい表情のほうが、オレにはありがたい。




 オレ達は、野営地を後にし、森の道へと入った。

 あとはこの道を行くだけだ。


 クマが出ないかと警戒しながら歩く。

 思ったよりも早く、森の先にウガーラ村が見えてきた。


 昼になるよりも、だいぶ早く村に到着した。

 予定通り、村の入り口で、オレ達は別れた。


 オレは独り、ガロムの家へ。


 家の前で、娘のフィーダが、なにやら手作業をしている。

 オレに気が付いたフィーダが、声をかけようとしている。


 オレは、フィーダを凝視し、唇に人差し指をあてた。

 「渡し人」と呼ばれたくなかった。

 アルクか、トールスのどちらかが、オレの後をつけている可能性がある。


 首をかしげているフィーダに近づく。


「ガロムは中か?」

「うん。ソウジだけ? とーちゃんは?」


「カタセ村で仕事をしている。まだしばらくかかるだろう」

「そっか」


「ガロムに挨拶してくる。またあとでな」

「うん」


 ガロムの家の扉を開ける。

 クマ肉の匂いは抜けていたが、カビとホコリの匂いが溢れてくる。


 入ると、厨房。

 ガロムが、キャベツを刻んでいた。


「ガロム」

 名を呼ぶと、ガロムが手を止めて、顔を向けた。

「おや、ソウジ。もう帰ってきたのかい。ガスコスは?」


 扉を閉めて、ガロムにこれまでの経緯を簡単に説明した。


 ガスコスが怪我をしてカタセ村で療養していること。

 命の危険はなく、回復に向かっていること。


 ガロムは少し怪訝な顔をしたが、ガスコスが無事だと聞くと、普段通りの顔に戻った。


「それと、先にこれを届けに来た」


 ズタ袋の中身をガロムに渡す。

 鍋と、襲ってきた盗賊達の遺品。もとい戦利品。


 それから、ふたりの旅人、アルクとトールスに関する話をした。

 金型の事は話さず、この村の知人に会いたいというので案内をした。

 とだけ。


 ただし、彼らには、渡し人だと知られたくないので、オレのことをそう呼ぶなと念を押した。


 その話が終わってから、ガロムに質問する。


「この村で、最近増えた住人はいるか?」

「う~ん……いたかねぇ……」


 ガロムが、しばらく考える。


「ああ、新しい住人ってわけじゃないけど、ひとりいるよ。

 先月くらいかねぇ、セクティオさんとこの娘さん」


「娘……?」


「王都から、旦那さんを連れて帰ってきててさ。

 なんでも、職人の旦那さんが腕を怪我して? 

 仕事ができなくなったとか? 

 ほんで、喰えなくなったんで、旦那さんと子供を連れて、実家に帰ってきとるよ」


 アルクの話とは、だいぶ違うな……

 その旦那が、金型の持ち主だろうか。


「セクティオの家はどこにある?」


「どうしたんだい? なんか揉めごとかい?」

「まぁそんなとこだ。悪いようにするつもりはない。場所を教えてくれ」



 ガロムから、セクティオの家の場所を聞く。


 オレは裏口からガロムの家を出た。

 それから小走りで、セクティオの家へと向かう。


 別にオレがどうしようってわけじゃない。


 アルク達がオレに話していない事情。

 先に真実を知っておきたい。



 身の安全の確保。それだけだ。



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