3.6.02
目が覚めると、霧が立ち込める朝だった。
幽霊でも、出てきそうな薄気味悪い朝。
2人は寝ていた。
焚火が消えかけている。
アルクはマントにくるまっている。
トールスは草地に寝そべり、寒そうにイビキをかいていた。
鍋の底にこびり付いているパンのカケラを摘まむ。
口に入れようと思ったが、酷く血生臭い獣臭だったので止めておく。
適当に薪木を拾い、石炉に放り込む。
息を吹くと、焚火がまた燃えだした。
熱を持つ前に鍋を持ち上げて、川原へ行く。
そして、冷たい水で鍋を洗う。
この鍋は、ウガーラ村についたら、ガロムに返そう。
戻ると、起き上がろうとしていたアルクと目が合う。
「おはようございます」
何か言いたそうだが、視線を外して今度はトールスを見た。
「居眠りですね。まったく……」
洗った鍋をズタ袋に入れる。
腰を下ろして、革水筒のキャップを開けた。
パンの匂いがするこの酒は、栄養ドリンクも兼ねている。
朝食替わりとして呑んでも、充分、腹にたまる。
「トールス、起きてください。出発しますよ」
アルクがトールスのカラダを揺すっている。
「お……おう。交代か」
「あなたの番でしたが、あなたは寝ていましたよ」
少し打合せをしておこう。
トールスを見て、うんざりした顔をしているアルクに話し掛ける。
「ウガーラ村には、昼前に到着する。
その先は、別行動でもかまわないか?
オレは、これを返しに知人に会いに行く」
ズタ袋を指さして、アルクに言った。
「もちろん、かまいません。
私たちは、少々荒っぽいことになるかもしれませんし。
ソウジが、金型の件にクビを突っ込むのも、オススメしません」
少し間を置いて、アルクが続けた。
「ただし……抜け駆けはダメですよ?」
アルクの良く訓練された笑み。
目の奥には、血も涙も無さそうだ。
オレ達は、野営地を後にし、森の道へと入った。
あとはこの森の道を行くだけだ。
クマが出ないかと警戒しながら歩いていると、思ったよりも早く、森の先にウガーラ村が見えてきた。
昼になるよりも、だいぶ早く、オレ達は村に到着した。
予定通り、村に入る前に、オレ達は別行動のために別れた。
オレは独り、ガロムの家へ。
家の前で、娘のフィーダが、なにやら手作業をしている。
オレに気が付いた、フィーダが声を掛けようとした。
オレは、フィーダを凝視し、唇に人差し指をあてた。
「渡し人」と呼ばれたくなかった。
アルクか、トールスのどちらかが、オレの後を付けている可能性がある。
首をかしげているフィーダに近づく。
「ガロムは中か?」
「うん。ソウジだけ? とーちゃんは?」
「カタセ村で仕事をしている。まだしばらくかかるだろう」
「そっか」
「ガロムに挨拶してくる。またあとでな」
「うん」
オレは、扉を開けて、ガロムの家へ。
もう、クマ肉の匂いは抜けていて、カビとホコリの匂いが溢れてくる。
入ると、厨房。
ガロムは、そこで、キャベツを刻んでいた。
「ガロム」
名を呼ぶと、ガロムが手を止めて、顔を向けた。
「おや、ソウジ。もう帰ってきたのかい。ガスコスは?」
扉を閉めて、ガロムにこれまでの経緯を簡単に説明した。
ガスコスが怪我をしてカタセ村で療養していること。
命の危険はなく、回復に向かっていること。
ガロムは少し怪訝な顔をしたが、ガスコスが無事だと聞くと、普段通りの顔に戻った。
「それと、先にこれを届けに来た」
ズタ袋の中身をガロムに渡す。
鍋と、襲ってきた盗賊達の遺品。もとい戦利品。
それから、2人の旅人、アルクとトールスに関する話をした。
金型の事は話さず、この村の知人に会いたいというので案内をした。
とだけ。
ただし、彼らには、渡し人だと知られたくないので、呼ぶなと念を押した。
その話が終わってから、ガロムに質問する。
「この村で、最近増えた住人はいるか?」
「う~ん……いたかねぇ……」
ガロムが、しばらく考える。
「ああ、新しい住人ってわけじゃないけど、ひとりいるよ。
先月くらいかねぇ、セクティオさんとこの娘さん」
「娘……?」
「王都から、旦那さんを連れて帰ってきててさ。
なんでも、職人の旦那さんが腕を怪我して?
仕事ができなくなったとか?
ほんで、喰えなくなったんで、
旦那さんと子供を連れて、実家に帰ってきとるよ」
アルクの話とは、だいぶ違うな……
その旦那が、金型の持ち主だろうか。
「セクティオの家はどこにある?」
「どうしたんだい? なんか揉めごとかい?」
「まぁそんなとこだ。悪いようにするつもりはない。場所を教えてくれ」
ガロムから、セクティオの家の場所を聞く。
オレは裏口からガロムの家を出た。
それから小走りで、セクティオの家へと向かう。
別にオレがどうしようってわけじゃない。
アルク達がオレに話していない事情。
先に真実を知っておきたい。
身の安全の確保。それだけだ。




