3.5.12
夜が更けていく。
アルクと、トールスも酔っていた。
とくにトールスは、聞いてもいないことを、べらべらと喋る。
「おい、ソウジ、酒がカラだ。次だ」
トールスは、言葉遣いが悪かった。
最初にあまり喋らなかったのは、アルクに止められていたのだろう。
野盗丸出しだ。
「おまえ達がここに来た目的はなんだ」
先にトールスが答えた。
「おれたちゃな、賞金稼ぎだ」
「……ちょっと、トールス」
「いいじゃねぇか。こんな田舎で、今は手詰まりだ」
「何を追ってるんだ?」
「あまり、大声では話せませんが……」
アルクが前置きをして、タメを作ってから、小声で話し始めた。
「……鉄コインの偽造金型です」
きな臭過ぎる話だった。
アルクとトールスは、王都で流通した偽造鉄コインの金型を追っていた。
金型を回収し、王宮に提出すれば報奨金が出るのだと言う。
2人は、金型を持って逃亡した男を追跡し、カタセ村まで辿り着いたらしい。
「手掛かりが、このカタセ村なのか?」
「まぁな。だがこの村じゃねぇ。
この村の近くの、盗賊が根城にしていた村だ。
金型を持った男は、その村にいるらしい。
だか、その場所がわからねぇんだ。
なにか知らねぇか?」
ウガーラ村のことか。
ガスコスやガロムの住む村。
元は、壊滅したガスコスら盗賊団の根城だったはずだ。
「ああ。オレはその村を知ってる。案内してやろう」
「ホントですか?
村人に聞いても、だれも教えてくれません。
なぜソウジが?」
「オレも、村に来たばかりのよそ者だ。
しがらみはない。
だから知っていることは教えてやれる」
「なるほど、でその村はどこに?」
「案内してやる代わりに、頼みがある」
「なんでしょうか?」
「おまえ達の帰り道でいい、スピカの街まで同行させてくれ」
アルクとトールスは、しばらく顔を見合わせて考えていた。
最終的に、トールスは、判断をアルクに任せたようだ。
「いいでしょう。私たちに力を貸してください」
「ようし、
じゃあ、新しい仲間の歓迎会だ。
乾杯しようじゃねぇか」
トールスが、ジョッキを掲げた。
この2人はまだ、何かを隠している節がある。
だが、そんなことはどうでもいい。
オレ達は、3人でジョッキを合わせ、乾杯した。
利用するか、されるか。
そのどちらがオレで、こいつらなのか。
今はそれは気にしなくていい。
今すべきこと。そこに近づいていれば問題はない。
出発は明日の早朝ということに決まった。
この酒場は、簡易宿も兼ねている。
アルクとトールスは、今夜、この酒場で寝るらしい。
「それじゃあ、明日」
「はい。お待ちしています」
オレは、酒場を離れた。
今夜もだいぶ更けていた。
そして、また、帰り道の灯りが無かった。
仕方なく、酒場のマスターに松明を借りる。
これで3本目だ。
「うちの松明をみんなおまえが持って帰る気か」
マスターから言われた。
明日3本まとめて返す。
約束して、おやしろへの帰路についた。
今夜も鈴虫がよく鳴いていた。
おやしろに戻り、ベッドに直行して横になる。
現実世界ではアパート。
ニフィル・ロードでは、おやしろ。
どちらも、ただ、寝るだけの場所だった。
他に使い道が無い。使い方を知らない。
翌朝。
モトとヤマの少年たちは来ていない。
言いつけ通り、畑の手伝いをしているのだろう。
まだ空は赤く、陽は昇り始めだった。
デバイスを出して、時間を確認する。
『ELAPSED 00:30』
現実世界は、まだ30分しか経っていない。
ニフィル・ロードでの滞在は2日目。
3000分、50時間が経過していた。
軽く旅支度をする。
と言っても、革水筒を腰に下げたり、火打石のポーチを括り付けるだけだ。
それと手斧。刃を上に向けて、腰ベルトに挿す。
火打石の使い方は分からない。
革水筒はカラなので、酒場でエールを入れてもらう必要がある。
アルクとトールスには、オレが渡し人であることを伝えていない。
必要が無さそうなので、このままにしておく。
扉の前に転がっている3本の松明を拾って、おやしろを出る。
それから真っ直ぐ、酒場へと向かった。
着くと、2人はテーブルでパンとスープを頬ばっていた。
マスターに松明を返し、革水筒にエールを入れてくれと頼む。
鉄コイン2枚だと言われたので渡す。
「これは常連客へのサービスだ。もってけ」
マスターが麻の小袋を手渡した。
中には、黒パンが3個。
「帰ってきたら袋は返せ。気を付けてな」
「ああ、わかった。助かる」
小袋を受け取って、左の腰に結ぶ。
思い出して、マスターに尋ねる。
「肩掛けのズタ袋は無いか?」
「……まぁいいだろう。おいヒミコ」
「はーい」
マスターがヒミコに何か伝えると、奥からズタ袋を持ってきた。
「これでいい?ソウジ」
「ツケとくからな。また呑みに来い」
「ありがとう。借りていくよ」
ズタ袋はカラだ。
それを肩にかけて、アルク達の所へ。
「準備はよろしいですか?」
アルクが声を掛けてきた。
トールスは、二日酔いで、カラダが重そうだった。
「大丈夫なのか、あいつは」
「まぁ、問題ないでしょう。いつものことです」
「言っとくが、オレは旅は初心者だ。道案内はするが、頭に入れておいてくれ」
「分かりました。では参りましょう」
オレ達3人は、酒場から出発した。




