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3.5.11


 酒場へ行くと、見かけない中年の男が2人。


 2人は、マントを羽織り、テーブルに向かい合って座っている。

 旅人だろうか。


 オレと大差ない小汚い恰好だった。

 薄汚れたチュニックと泥がこびり付いたパリパリの革ズボン。

 裏返した毛皮のベストの上に、淡い琥珀色のマントを羽織っている。


 オレは近づいて、2人に声を掛けた。

「あんたら、旅人か?」


 2人は「見りゃわかんだろ」という目で、オレを睨みつけた。

 手元にはエールが注がれた木のジョッキ。

 肩に弓を背負った男は、やけに目つきが汚い。

 眉毛の間の筋肉が厚い。

 睨みを利かせ続けないと育たない筋肉。

 いわゆる、ヤクザの目だ。


「ええ、私たちは旅をしていますが、なにか御用ですか?」

 もう一方は、少し気品があるが、表情が薄い。

 そして、不自然なくらいの丁寧な言葉遣い。


「少し、話を聞きたい、いいか?」


 2人は嫌そうな顔をした。

 関わりたくないと言ってる目だ。


「あ、ソウジだ。いらっしゃい」

 険悪になりかけていた空気を、ヒミコの黄色い声が浄化する。

 すると男が、喋る。


「ソウジ? ああ……あなたですか? 

 私たちにご馳走してくれたのは?」


 オレは、事前にマスターにカネを渡し、旅人が来たらエールを呑ませてやってくれと頼んである。


「隣りいいか?」


「まぁ……少しなら。ご馳走になってしまいましたし」


「ヒミコ。オレにもエールを。

 2人には、なにか食事も頼む。

 美味いやつな」


 ヒミコに鉄コインを3枚渡した。

「はーい。まってて」


 座ろうとするオレに、隣りの男が言った。

「私は、アルクと申します。こちらの男はトールス」


 アルクと名乗った男は、腰には鞘に収まった細い剣。

 トールスは、肩に弓を掛け、矢筒を背負っていた。


「それで。なにが聞きたいのですか?」

「村の外の事が知りたい。アルク達はどこから来た」


 アルクとトールスは、顔を見合わせた。


「ソウジ、おまたせー」

 ヒミコがオレの前にジョッキを置く。

 看板娘が、また、重たくなりかけた空気をかき混ぜていく。


 オレはエールを口に含んだ。


「私たちは、王都から来ました。人探しをしていましてね」


 王都……そんなものまであるのか。

 王様でも、住んでるのか。


「スピカの街は知ってるか」

「ええ、もちろん。途中で立ち寄りました。良い街ですね」

「またそこに行くことはあるか?」

「そうですねぇ、帰りに……立ち寄ると思いますが」

「オレを連れて行って欲しいんだ。道案内を頼めないか?」


「うーん……すいませんが、

 私たちも仕事で来ていまして。

 終わるまでは、帰れません」


 この男達の仕事とは、どういうものなのだろうか。


 アルクの言葉は丁寧で、人相も普通に見えるが、装いは野盗に近い。

 日本のヤクザだって、大抵は丁寧な言葉遣いができる。

 この男達からも、似たような匂いを感じる。


「ソウジ、おまたせ。熱いからね」


 ヒミコが、3つのボウルを盆に載せて運んできた。

 今夜も、とてつもなく良い匂いのするシチューだ。


「ありがとう。2人の酒代は足りているか?」

「うん。今夜飲み放題でもまだぜんぜん余裕」


「そういうことだ。好きなだけ飲み食いしてくれ」

「嬉しいことを仰る。では遠慮なく」


 トールスが先に、ボウルにスプーンを挿し、肉を口に運んだ。

「……っ、ガハッ!」

 溢れ出す熱い肉汁に咽せたようだが、トールスの顔には恍惚とした笑みが浮かび出した。

 クチャクチャと下品な咀嚼音を立てながら、次の肉を口に運ぶ。


「これは……絶品ですね」


 アルクは口を閉じて丁寧に噛み締めながら頷いた。

「王都でも、この完成度には、簡単には巡り逢えません」


 オレもひと口。


 どこかの固い部位の肉だろう。

 焼き色がついた舌触りの良い肉を噛む。

 染み込んだハーブと大麦の香り。

 深みのあるゼラチンと肉汁が口の中に広がっていく。

 ソースに溶け込んだトロトロになったキャベツや玉ねぎと合わさる。

 そして、絶妙な歯ごたえを残し、口の中で溶けていく。

 ……途方もなく美味い。


 薄汚い村の、おんぼろの酒場だ。

 だか、マスターの料理のウデは確かだ。

 接待にはうってつけの店だった。


「旅の話を聞かせてくれないか」


 オレは、2人に促した。

 辺りは、ようやく夕方に差し掛かった頃だった。


 トールスは、ほとんど喋らないが、アルクは話し好きのようだ。

 それからオレは、しばらく2人の話を聞いた。

 魔獣だの、幽霊だの、街道の危険がどうのと。

 興味も無い話に付き合った。


 まだまだ、夜は長い。


 彼らから、話を引き出す。



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