表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹が消えたあと、世界の数が合わなくなった話  作者: 渡しログ
1章ワールドカウント23
6/16

2.2 - 盗賊


 どれだけ歩いただろうか。


 時計が無いので分からないが、1時間かそれ以上か。

 川幅も広くなり、対岸まで30メートルはありそうだ。


 少し前から、微かな煙の匂いを感じていた。

 お盆の日に、どこからともなく嗅ぐような、なにかを燃やしている匂いだ。


 歩みを進めていると、途切れた葦の隙間から、それが見えた。


 煙だ。


 風にあおられて、上空へと拡散している。

 出所は、葦や低木に阻まれていて、確認できない。

 だが、あの煙の元で、なにかが燻っている。あるいは燃えている。


 葦伝いに、煙の方へと近づく。

 なにかが焼かれている匂いが強くなる。

 それは、吐き気を覚える匂いだった、

 焦げてダメになりかけているシチューのような匂いだ。


 近づくと、葦の向こうから、話し声がした。

 誰かいる。複数だ。

 ときおり、笑い声も混じっている。


 膝を落とし、声のする方へ。

 目立たぬように、ゆっくりと葦を除けて、少しづつ歩を進める。


 葦の途切れる手前で静止すると。


 男が3人。

 それと大型の犬が1匹。

 リードを付けていない犬が、すこし距離を置いて、身体を丸めている。

 見た目は、ゴールデンレトリバーに似ているが、少し違う。


 3人の男は焚火を囲んで、なにか談笑していた。

 2人は座り、焚火を挟んだ向かいに、川を背にして腕組みする男。


 聞き耳をたてたが、無駄だった。

 話している言葉が分からない。英語とも違う。


 日本人ではないだろうが、判別できない。

 3人とも、剃ったことが無さそうなほどの髭を生やしていた。

 目と鼻は見えるが、口も顎もヒゲに覆われており、ぼさぼさの髪を前髪から集めて後ろで結っている。


 まぁ、ひとまずオレはホッとした。

 人が居た。


 あとは、あの3人が、敵なのか、味方なのか。


 3人は、薄汚れた白っぽい肌着に、毛皮のベストを羽織っている。

 腕組みの男の腰には両刃の西洋剣が吊り下がっていた。

 刃渡りは60センチ程度だろうか。

 ここからでもわかるほどの刃こぼれが目立つ。

 酷いボロ剣だ。

 拾ったのか、あるいは、使い込んでいるのか。


 確実になったのは、ここが法治国家でも、日本でもないということだろう。

 あれでは確実に、銃刀法違反だ。


 座っている2人はどちらも、手斧を傍らに置いている。

 言葉は分からないが、そのトーンは、無駄に大きく威圧的で、笑い声は妙な怒りを誘う。


 あれは良くない連中だ。

 3人の雰囲気は、若いギャングの下っ端が、夜の公園あたりで談笑している光景に酷似している。

 顔見知りじゃなければ大抵はケンカになる。

 おまけに、3対1なら、間違いなくやつらの方から仕掛けてくる。


 あれは、友好的な連中では無いだろう。


 だが……


 あいつらは、靴を履いている。

 毛皮のベストを着ている。

 食糧もある。

 座っている男が手に持っているのは、水筒だろうか。

 今後のことを考えると、あれらは必要だ。欲しい。

 そして、なによりも惹かれるのは武器だ。


 最良なのは、彼らが友好的で、彼らの寝床か集落に案内してもらうことだろう。


 しかし、3対1だ。

 奇襲をかけて、先に独りを落とせば可能性は有る。

 よって、友好的に話しかける猶予は無い。

 彼らとのファーストコンタクトは、奇襲しか無い。


 このまま、夜まで待つか。


 最も厄介なのは、あの犬だ。

 愛玩犬だとは思えない。あれは猟犬。良くて番犬。


 あ……


 しまった……


 犬と目が合った。


 時を置かず「ワフッ」と、その場で一つ吠える。

 3人が、犬に注目したかと思うと、犬は、こちらに駆け出した。


 オレは、近くにあった、棒きれを左手で逆手に掴む。

 犬の体長は1メートル強。

 心の準備も敵対意思もないオレに、殺意の籠った眼光を飛ばすと、弾丸のように加速した。


 考える間もなく、犬が近づく。

 オレは腰を落とす。


 距離が詰まり、犬が跳ねた。


 跳ねた直後に、棒きれを首の高さに構える。

 犬系の動物は、まず首を狙ってくる。


 突き出した棒きれを見た犬の頭が空中で左下に沈む。

 右手をフックのように回し、空中でもたついた、犬の頭を引っ掴む。

 そのまま頭を、左後ろにそらしながら、棒きれを犬の背中に突き刺した。


 ギャン!!


 左耳に響く犬の悲鳴。

 そして、バタバタと、転がり、のたうち回っているような音が背後から聞こえる。


 3人の男たちは、おれを見て目を丸くしていた。

 棒きれは半分折れて無くなっていた。

 犬に刺さったままだろう。


 どうする……逃げるか。

 逃げる。

 いや、逃げるべきだ。

 状況的に、オレの方が速く走れるはずだ。


 奇襲は完全に破綻した。

 ここから先は正面戦。

 見れば体格は3人ともオレよりデカく、肉付きも良い。


 あと1,2秒で、手に武器を取り、こちらに向かってくるだろう。


 逃げよう。

 と、重心を変えたとき。


 右脚の太ももに、牙が食い込んだ。

 目が血走ったよだれまみれの犬が、オレの脚に噛みついていた。

 

 痛みが襲う前に、噛みつく犬の頭を掴む。

 そのまま、親指と中指を犬の目に突っ込んだ。


 犬が、シッポを踏まれたときのような悲鳴を上げて、のけぞった。

 掴んだ頭を放すと同時に脚から激痛。

 犬は前脚をバタバタとさせながら、転げまわった。


 男たちの方を見る。

 ボロ剣の男がすでに間合いに入っていた。


 男は左耳の辺りに切っ先を引き寄せ、コンパクトな袈裟斬りの体制に入っている。

 切れ味が悪そうな剣だ。


 振り始めた剣に、右手を出した。

 手元まで届かない。

 刃こぼれする剣の刃を素手で掴みにいく。


 甘かった。

 手のひらに載ったのは、金属バットで叩かれるような衝撃。

 剣は、そこで止まったが、オレの手と手首が半分切り離されている。


 そのあと、男の拳がオレの顔面に直撃した。


 ゴンと、鈍い音。頭が揺らされ視界がゆがむ。


 なんだ……

 けっこう強えぇ……


 右膝が崩れ落ちたが、どうにかまだ片膝の体制で堪えている。


「ウーラ、アラウェーダ、アラウガーラ」


 男が何か喋っている


「わかんねーよ」

 喋ると口の中に痛み。

 奥歯が何本か欠けたようだ。

 鉄の味が、じわっと広がる。


「ハビダラ、ウーラ、アラウェーダ」


 それを口の中でこねくり回し、ブッ、と、男のベストに吹き飛ばした。


 男はオレの髪の毛を掴み、上を向かせて、オレの顔を眺める。


「デンゴラバ」


 フッ……フフフ……フハハハッ。


 臭ぇ……

 この男、この状況でも嫌気がさすほどに、めちゃくちゃに臭ぇ。


 たまらず薄笑いを浮かべる。

 もう、笑うしかできない。


「おまえくせぇんだ……」

 言葉の途中で、男のつま先が、オレのみぞおちに突き刺さった。


 息ができない。


 そのあと、掴んだ髪の毛を引っ張り、オレ頭を地面に叩きつけた。


 微かに感じる土の匂い。

 ここがどこかは知らないが、土の匂いは、うちの近所と同じだ。


 男が振りかぶっている気配が分かる。


 死ぬのか。


 死ぬんだろうな。


 ……あれ


 ……おれ、何しにここに来たんだっけ?


 後頭部に固いものが触れる感触。



 ……おにいちゃんは

 ……わたしより……ながいき……してくれる……?



 ……ごめん……みき





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ