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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
ワールドカウント24
57/564

3.5.08


 目が覚めた。


 カーテンから滲む淡い光。

 うっすらと浮かび上がる、木板の天井。

 埃臭い部屋。


 ニフィル・ロードのおやしろの2階。


 腹が減っている。

 しかし、おやしろには食べ物が無い。

 水も無い。

 調理する設備も無い。


 水気が無いのは、保管している物を傷ませないためだろう。


 梯子をつたい、工房へ降りる。

 扉を開けて、おやしろの外へ。


 だいぶ寝てしまったようだ。

 外は夜明けを過ぎて朝だった。


 軽く背を伸ばしてから、ポーチへと歩く。


「おはようございます!わたしびと様!!」


 声を掛けてきたのは、昨夜の少年2人だった。


「……なにしに来た」

「修行をしに来ました!」


 ああ……めんどくせぇ……


「どうぞ」

 少年の独りが近寄り、両手でパンを差し出している。


「なんだこれは」


「わたしびと様に会いに行くなら、朝食をもって行けと。おじいちゃんが」


 オレはパンを受け取った。

 すこし固そうな黒パンに、チーズが挟んであった。


「おじいさんに会いたい。案内してくれるか?」

「はい、おじいちゃんも会いたいと言ってました!」


「じゃあ行こう」


「え……あの、えっと、修行は……」

「まずは、おじいさんと話をしてからだ。いいか?」

「は……はい! わかりました!」


 ……フフ。

 なんだか、達郎のとこの新米ギャングを思い出す。

 自分勝手なクソガキなのは、どの世界も共通だな。


「ちょっと待ってろ」


 オレは、おやしろの工房に戻る。

 枝を束ねて作られた、状態のよさそうな竹刀を2本、手に取った。

「ちょっと借りるぞ、渡し人さん」


 工房から出て、少年たちの所へ戻る。


「おまえ達、名前と歳は」


「自分はモトです。14歳です」

「僕はヤマです。12歳です……」


 思えば、さっきから喋っているのは、モトの方で、ヤマはほとんど口を開いていなかった。


 オレは、竹刀を2人に渡した。

「今日からこれで修行だ。斧は振り回すな。わかったな」

 

「あ……ありがとう……ございます」


 少年たちは、枝を結んだだけの竹刀。木剣に不満そうだった。

「これはな、50年前の渡し人が修行に使った剣だ。大切に扱えよ」


 え? という顔をして、モトとヤマが竹刀を見返す。


「わ……わかりました!!」


 少年の瞳に光が戻る。

 渡し人様は偉大だ。

 50年前のプレイヤーの遺産の大きさを実感した。


「おじいさんは何処だ」

「畑にいます。案内します!」


 こいつら……

 老人に仕事を丸投げして、自分たちは修行か。

 まぁいい。


 少年ふたりの先導。

 オレは、その後を追う。


「おまえ達、仕事は?」

「あ……えっと、農夫です」

「これから、午前中は、おじいさんの仕事を手伝え」


「わたしびと様、自分らは修行がしたいです!」


「あのな、おまえらにまず必要なのは、筋力だ。力仕事を率先してやれ」


 本当は、朝から出待ちされたくないだけだが。


「え……えぇ~……」

「嫌か? ならその剣は返せ」


「いえ! 嫌じゃありません! あした……じゃなくて、今日から! 今日から力仕事やります!」


「よし」


 修行なんてやりたくないだけだが、素直な子供だ。

 これなら、言葉だけで、修行できそうだ。


 とりあえず、こいつらの爺さんとやらに、話を聞こう。



 記憶の回廊の手掛かりがあるかもしれない。




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