3.5.08
目が覚めた。
カーテンから滲む淡い光。
うっすらと浮かび上がる、木板の天井。
埃臭い部屋。
ニフィル・ロードのおやしろの二階。
腹が減っている。
しかし、おやしろには食べ物が無い。
水も無い。
調理する設備も無い。
水気が無いのは、保管している物を痛ませないためだろう。
梯子をつたい、工房へ降りる。
扉を開けて、おやしろの外へ。
だいぶ寝てしまったようだ。
外は夜明けを過ぎて朝だった。
デバイスを出す。
『ELAPSED 00:15』
軽く背を伸ばしてから、ポーチへと向かう。
「おはようございます!わたしびと様!!」
声を掛けてきたのは、昨夜の少年2人だった。
「……なにしに来た」
「修行をしに来ました!」
ああ……めんどくせぇ……
「どうぞ」
少年の独りが、近寄り、両手でパンを差し出している。
「なんだこれは」
「わたしびと様に会いに行くなら、朝食をもって行けと。おじいちゃんが」
オレはパンを受け取った。
すこし固そうな黒パンに、チーズが挟んであった。
「おじいさんに会いたい。案内してくれるか?」
「はい!おじいちゃんも会いたいと言ってました!」
「じゃあ行こう」
「え……あの、えっと、修行は…」
「まずは、おじいさんと話をしてからだ。いいか?」
「は……はい! わかりました!」
……フフ。
なんだか、達郎のとこの新米ギャングを思い出す。
この2人は、まだ若いが、自分勝手なクソガキだ。
「ちょっと待ってろ」
オレは、おやしろの工房に戻る。
枝を束ねて作られた、状態のよさそうな竹刀を2本、手に取った。
「ちょっと借りるぞ、渡し人さん」
工房から出て、少年たちの所へ戻る。
「おまえ達、名前と歳は」
「自分はモトです。14歳です」
「僕はヤマです。12歳です……」
思えば、さっきから喋っているのは、モトの方で、ヤマはほとんど口を開いていなかった。
オレは、竹刀を2人に渡した。
「今日からこれで修行だ。斧は振り回すな。わかったな」
「あ……ありがとう……ございます」
少年たちは、枝を結んだだけの竹刀。木剣に不満そうだった。
「これはな、50年前の渡し人が修行に使った剣だ。大切に扱えよ」
え? という顔をして、モトとヤマが竹刀を見返す。
「わ……わかりました!!」
少年の目に光が戻る。
渡し人様は偉大だ。
50年前のプレイヤーの遺産の大きさを実感した。
「おじいさんは何処だ」
「畑にいます。案内します!」
こいつら……
老人に仕事を丸投げして、自分たちは修行か。
まぁいい。
オレ達は歩き出す。
「おまえ達、仕事は?」
「あ……えっと、農夫です」
「これから、午前中は、おじいさんの仕事を手伝え」
「わたしびと様、自分らは修行がしたいです!」
「あのな、おまえらにまず必要なのは、筋力だ。力仕事を率先してやれ」
本当は、朝から出待ちされたくないだけだが。
「え……えぇ~……」
「嫌か? ならその剣は返せ」
「いえ! 嫌じゃありません! あした……
じゃなくて、今日から! 今日から力仕事やります!」
「よし」
修行なんてやりたくないだけだが、素直な子供だ。
これなら、言葉だけで、修行できそうだ。
とりあえず、こいつらの爺さんとやらに、話を聞こう。
記憶の回廊の手がかりがあるかもしれない。
オレはモトとヤマ、2人の少年に先導させて、朝の村へと歩き始めた。




