3.5.07
「おまえらは、ダレだ?なんの用だ?」
「ひぃっ……こ……殺さないで」
「殺さないから、話を聞かせろ」
「母さんを、探しに行くのにお金が……必要なんです……」
つまり、野盗か。
こんなガキが、強盗の真似事か。
まぁいい。
「話は聞いてやるから、馬鹿な真似はするな。いいか?」
「は……はい……」
真ん中に燃えた松明を置いて、車座になって座った。
「お母さんがどうした?」
「3年前から、行方不明なんです」
「父親は?」
「3年前に、クマに襲われて死にました」
どっかで、聞いたような話だ……
たしか、クラゲが言っていた。
父親は、半分クマに喰われて。
その森には失踪した母親の幽霊が出るとかなんとか。
「お前たち2人で生活しているのか」
「家には……おじいちゃんがいます」
「どうしてカネが必要なんだ」
「僕らんちは貧乏で……マントも武器も買うお金がありません」
「だからオレを襲ったのか? どうしてオレを襲った?」
「酒場で銀貨を出すのを見て……」
ああ……あの時か。
マスターの予言は、当たったな。
にしても、この2人じゃなぁ。
森に入ったところで、すぐに死ぬ。
カネ以前の問題だ。
「お前たちのようなガキが行ったところで、すぐに死ぬぞ」
「でも……それでもお母さんが……」
「見つける前に、お前たちは死ぬ。お母さんがそれを望むと思うか?」
…………
見るとまだ、中学生かそこらの年齢の2人だ。
オレが、どうこうしてやるつもりはないが……
こんなガキに夜道をつけ狙われるのはゴメンだ。
オレは、左手を叩いてデバイスを出した。
焚火の灯りで光は見えないが、この世界の名刺代わりにはなる。
「見ろ。オレは渡し人様だ。わかるか」
少年二人が、黙ってオレのデバイスを見つめていた。
「お前たちはまず、修行しろ。
暇なときに、相手もしてやる。
オレはこの先にある、おやしろに住んでいる。
場所は知ってるか?」
「は……はい!」
「よし。じゃあ、今夜はもう帰れ。道はわかるか?」
「はい!!」
「よし、行け」
「あ……ありがとうございます!わたしびと様!」
「いいから行け」
少年たちは、最後に深々と頭を下げて、闇夜に消えていった。
めんどくさいことが増えた気がするが、丁度いい。
次世代の記憶の回廊目撃者として育てよう。
修行は、何度か竹刀でぶっ叩けけば満足するだろう。
そういや、おじいちゃんと言っていたな。
記憶の回廊のことを知っているか、こんど聞いてみよう。
今は、他に手がかりも無い。
考えながら、オレは松明を拾って立ち上がる。
再び、おやしろへの帰路を歩き始める。
鈴虫も好き勝手に鳴いている。
間もなく、おやしろが見えてくる。
デバイスを取り出して、時間を確認した。
『ELAPSED 00:10』
経過時間は1000分。16時間くらいか?
そのまま、おやしろのポーチを通過し、デバイスを消した。
入り口には、前回借りたままの松明が転がっていた。
明日、2本まとめて返そう。
扉を開ける。
再びデバイスを取り出して、工房の照明を起動する。
中に入る前に、松明を地面に押し付けて消す。
タバコの火と違い、なかなか消えない。
靴底で消すことはできない。
この世界の靴に靴底は無い。革でできた靴下だ。
触れたら燃えるか火傷する。
火が消えたのを確認して、松明は扉の前に転がす。
中に入り扉を閉める。
ハンガーラックのマント達が「ちゃんと閉めたな」と言っているような気がしなくもない。
そういや、あのガキども。マントが欲しいとか言っていたな。
くれてやろうかと考えたが……ダメに決まってる。
どうやら、旅用のマントは、エール300杯くらいの価値があるらしい。
農民の給料3~4ヶ月分だ。
盗賊が旅人から奪うのは、コインとマントだ。
あんなガキがそんなもん羽織っていたら、それこそカモにネギだ。
デバイスを消し、梯子を上り、2階へ。
真っ暗な部屋のベッドに寝転がる。
ログアウトはしなくていいだろう。
現実世界では、10分しか経過していない。
今日は、怪我もしていない。
このまま、明日を迎えよう。
明日はどうしようか。
とりあえず酒場へ行って……
情報を集めるか……
…………




