表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/167

3.5.04


「暇なら、オレの仕事手伝え」

 クラゲが言った。


「木こりの仕事をか?」


「死んだオヤジの仕事が木こりだったってだけだ。

 まぁ、おかげで森には少し詳しいな。

 だから、そこらへんの雑用係がオレの仕事だ」


「なにをすればいい?」

「よし、じゃあまずは、おれの肩を揉め」

「オレの握力とクラゲの肩のどちらが固いか、試せばいいのか」


「あっはは、冗談だよ。

 今日も森に入る。

 ソウジは護衛と荷物持ちだ。

 またイノシシが出たら頼むぜ?」


 それからオレはクラゲに付添い、仕事を手伝った。



 森に入ると、クラゲは仕掛けていた罠を順に確認していく。

 いくつかの罠には、兎やリスがかかっていた。

 セージや、ベリーを見つけるとそれを摘む。


 陽が傾き始めるころには、2人で持てる限界の戦利品を抱えていた。


 帰りがけに、小さな雑貨屋へ。

 店といっても、やはり民家だが、扉の横に小さなテント。

 そこに、食料品や革製品の雑貨など、様々な物が陳列されていた。


 クラゲは、雑貨屋でセージやベリーを換金し、小麦や野菜を購入した。


 そこが終わると、次に酒場へ向かう。

 兎やリスをマスターに渡し、コインを受け取っていた。


「ヒミコちゃん、またあとでね」

 クラゲが、サンダル履きのヒミコに声を掛ける。

「うん。まってるわクラゲさん。ソウジもね」

 重そうなジョッキを両手で運ぶヒミコが、笑顔を返す。

 見事な営業スマイルだ。

 村の男達はイチコロだろう。

 

 その後、クラゲは一度家に戻り、買い物してきた食料品を家に置く。

 時刻は、すでに夕暮れだった。


「今日の手間賃だ」


 クラゲが、オレに鉄のコインを2枚渡した。

 これだけか、と思った。


 聞くと、日給の平均は鉄コイン3枚。良くて4枚だと言う。

 2枚以下の農民も大勢いるらしい。

 エール1杯が、コイン1枚。

 村の生活も、楽ではないようだ。


「よし、おつかれさん。呑みに行こうぜ」


 オレ達は、酒場へと向かった。



 酒場へ着くと、客はまだ疎らだ。

 イナムラ爺さんの姿は無い。


 野外ベンチに腰を掛ける。

 クラゲがヒミコにストロングエールを注文した。

 ヒミコがオレ達に両手を広げている。


 前金制か。

 クラゲと2人で、ヒミコの手に鉄コインを載せる。

 オレはさらに、コインを2枚載せる。

「なにかツマミもたのむ」

「はーい」

 相場が幾らかは知らないが、料理が出て来れば分かるだろう。


 エールはすぐに運ばれてきた。

 クラゲと2人で乾杯し、エールを口に含む。

 香りも味もパンで、泥水のような酒だ。もう慣れた。

 仕事を手伝った後だからだろうか、前回よりも美味く感じる。


 しばらくすると、店主が大き目のボウルを持って出てきた。


「お目当ての客は、まだ来てねぇぞ」

 前回のログイン。

 この世界では昨日だが、オレは旅人が来たら教えてくれと、店主に頼んである。

 その事だろう。

 ボウルを置いて、店主が立ち去る。


 そのボウルから、素晴らしくいい匂いが立ち昇っていた。


 木のボウルに、イノシシ肉のシチューが満ちている。

 一日煮込まれたのであろう脂と骨の匂いに、セージとローリエの青い香りが絡みつく。

 スプーンが肉に触れると、抵抗することなくホロホロと崩れた。

 オレの胃袋は予感した。

 これは、ニフィル・ロードへ来て、初めての美食だと。


 口に運ぶ。


 前回の家畜のエサみたいな、ゴムのモツ焼きとは別世界だった。


 最初に来るのは、エールのほろ苦さと、煮込んだ肉の濃厚な旨味。

 すぐに、肉がとろけて舌に広がる。

 じゅわりと甘みのある脂が滲みだす。

 それを支えるのが、煮溶けた玉ねぎの甘みと、バターのようなコク。


 美味だった。


 ニフィル・ロードどころの話じゃない。

 これまで食べてきた中でも最高の味かもしれない。


 あの大男の店主、とんでもない料理人だったらしい。


 クラゲと顔を見合わせた。

 ニヤニヤが止まらない。


 ニフィル・ロードの本気を見た。

 こんな美味い物が、こんな薄汚い村の居酒屋で喰える。

 これを喰うためだけでも、この世界に来る価値がある。


 クラゲが、次々と肉を口に運ぶ。


 おいやめろ。野菜も食え。


 ふた口目のスプーンを挿し込もうとしたところだ。


「うまそうじゃな」

 後ろから声がした。


 それどころではないが、聞き覚えのある声なので振り向いた。


 落ちかけた夕暮れを背に立っていた、ヨボヨボの爺さん。



 イナムラ爺さんだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ