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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
ワールドカウント24
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3.4.01 - 達郎


 眼を開けると、アパートの部屋だった。


 黄ばんだエアコン、ホコリまみれの吊り電灯。

 ニフィル・ロードのボロ小屋と大して変わらない。

 敷きっぱなしの布団などは、おやしろのベッド以下だ。


 ログアウト前の疲労や空腹感が消え、ログイン前の状態に戻されている。


 まゆが言っていた。

 ニフィル・ロードに持っていくのは、意識と記憶だけ。

 現実世界の肉体は、ログイン前となにも変わっていない。


 時計を見ると、時刻は20時8分。

 ログイン中に経過したのは、きっちり38分。


 これが記憶の圧縮なのだろう。

 カタセ村で過ごした数日間の記憶が薄れている。

 ログイン前の須藤明美の香水の匂いや、病院での記憶に入れ替わっていた。



 冷蔵庫まで歩き、ログインデバイスを放り込む。

 それから、チノパンのポケットからタバコを取り出して火を点けた。


 煙を吐き出す。

 現実世界に戻ってきたという実感。


 スマホを見ると着信履歴がついていた。

 公衆電話からだ。

 だれだろうか。


 なんだか、煙いので、窓を開けた。

 ニフィル・ロードでの63時間の禁煙で、タバコが少し嫌になっているのだろうか。

 前にも感じたが、このまま禁煙するのも悪くない。


 考えながら、また煙を吐く。


 吸い終わって、窓を閉め、布団に寝転がる。

 未希の顔が天井に浮かぶ。


 明日は、何をするんだったか。

 そのまましばらく、天井を眺めて、ぼーっとする。


 ガスコスや、クラゲ、酒場のマスターの顔が浮かんでくる。

 ついさっきログアウトしたのに、もう、だいぶ前のことだ。


 なんだか、どうでも良くなってきた。


 まだ夜の9時前だというのに、やたら眠い。



 ……




 翌日。

 朝4時に目が覚めたが、また寝る。



 次に気がついたのは、スマホのコール音。

 公衆電話からだ。


 時計は8時35分。


 通話を押す。

「あ、おにいちゃん?」

「ああ、未希か。病院からか」

「うん。あのね」

「どうした?」

「実はね。知ってるの。須藤明美さんでしょ?」


「え……? なぜ?」


「おにいちゃんから、聞いた。えへへへ」

「いつだ?」


「おにいちゃんが、助けに来てくれたとき。

 でもね、病院で伝えても、『オレ』が混乱するだろうから~って。

 翌朝、電話で伝えろって、おにいちゃんに言われたんだよ」



「オレが言ったのか?」

「そう」


 納得だが……

 病院で伝えられていたら、オレがどう動いていたか。

 想像がつかない。

 やはり、未希は、未来のオレに救われたのか。


「あ、でも連絡先だけ教えて」

「わかった、スマホに送っておく」


「でね、おにいちゃんから、おにいちゃんに伝言」

「なんだ?」

「うんとね『つま先を鍛えて誘い出して突っ込め』だって」


「どこにだ」

「わかんない」


 どこにだ?



「未希」

「ん?」


「どこに助けにいけばいい」

「ニフィル・ロードのこと?」

「へんな名前の世界だな」


「おにいちゃんはね、みきのおうちまで来てくれたんだよ」

「おうち?」

「そ。みきは、あっちでは、絶賛ひとり暮らし中」

「……は?」


「キッチンも、お風呂もあるし、お庭もあるよ」

「……そうか……わかった。今日、時間作ってそっちに行くから。詳しい話を聞かせてくれ」


「わかった。まゆさんも呼んでね」

「ああ」


 電話を切る。


 ……わけがわからねぇ……めんどくせぇ。


 未希のスマホに、須藤明美の連絡先を送る。


 そのあと、まゆにもメッセージを送る。

『須藤明美の件は未希に伝えた。3人で話したい。時間作っといてくれ』


 すぐに、まゆから返信。

『わかった。今日は学校来てるから。行くとしたら15時以降で』


 しばらくぼーっとしていると、またメッセージ。

 母親からだ。

『未希ちゃん退院します。いろいろありがとう』


 スマホを放り投げる。


 今日は、夜に達郎と待ち合わせている日だ。

 仕事もなく、15時まで暇だ。

 また寝るか。



 午前10時半。

 また電話が鳴る。


 発信者は「長田岡」

 誰だ。


 通話を押す。


「あ、総司さんですか」

「そうだが」

「どうも、ヨシヒロです。お久しぶりです」

 ヨシヒロの声を聞いて、思い出した。

 達郎のとこのナンバーツーの男だ。


「どうした」

「タツさんと連絡がとれなくて。拉致られたっぽいんですけど、総司さん何か知りませんか?」


「今夜、会う約束はしているが、誰に拉致られた?」

「いま、追ってるんですけど、ちょっとややこしくて」


「どこかで会えるか?」

「いいんすか。あざす。そしたら朝日田のファミレスとかでいいですか?」

「わかった。1時間後でいいか」

「はい。お願いします!」


 通話を切った。

 「相談したい」と言っていた達郎が何かに巻き込まれている。

 今回は、いろいろ動いてもらっている。

 やれる範囲で手を貸してやろう。



 布団から立ち上がり、台所で顔を洗った。

 ニフィル・ロードのマントよりはマシだが、少し臭かった。

 思えば、4日くらい風呂に入っていない。

 これは、日本社会では、人としてあまり良くない。


 待ち合わせにはまだ時間がある。

 サウナか銭湯にでも寄っていこう。


 オレはアパートを出た。



 外はどんよりと曇っていた。



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