表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/167

3.4.01 - 達郎


 目を開けると、アパートの部屋だった。


 黄ばんだエアコン、ホコリまみれの吊り電灯。

 ニフィル・ロードのボロ小屋と大して変わらない。

 敷きっぱなしの布団などは、おやしろのベッド以下だ。


 それから、急激な疲労に襲われた。

 疲労や空腹感が、ログイン前の状態に戻されている。


 そして記憶の圧縮。

 ニフィル・ロードでの記憶が薄れている。

 ログイン前の須藤明美の香水の匂いや、病院での記憶に入れ替わっていた。


 まゆが言っていた気がする。

 ニフィル・ロードに持っていくのは、意識と記憶だけ。

 肉体はそのままなのだと。


 時計を見ると、時刻は20時8分。

 ログイン中に経過したのは、きっちり38分。


 冷蔵庫まで歩き、ログインデバイスを放り込む。

 それから、チノパンのポケットからタバコを取り出して火を付ける。


 煙を吐き出す。


 現実世界に戻ってきたという実感。


 スマホを見ると着信履歴がついていた。

 公衆電話からだ。

 だれだろうか。


 なんだか、煙いので、窓を開けた。

 ニフィル・ロードでの63時間の禁煙で、タバコが少し嫌になっているのだろうか。

 前にも感じたが、このまま禁煙するのも悪くない。


 考えながら、また煙を吐く。


 吸い終わって、窓を閉め、布団に寝転がる。

 未希の顔が天井に浮かぶ。


 明日は、何をするんだったか。

 そのまま暫く、天井を眺めて、ぼーっとする。


 ガスコスや、クラゲ、酒場のマスターの顔が浮かんでくる。

 ついさっきログアウトしたのに、もう、だいぶ前のことだ。


 なんだか、どうでも良くなってきた。


 まだ夜の9時前だというのに、やたら眠い。


 ……



 翌日。

 朝4時に目が覚めたが、また寝る。



 次に気が付いたのは、スマホのコール音。

 見ると公衆電話からだった。


 時計は8時35分。


 通話を押す

「あ、おにいちゃん?」

「ああ、未希か。病院からか」

「うん。あのね」

「どうした?」

「実はね。知ってるの。須藤明美さんでしょ?」


「え……? なぜ?」


「おにいちゃんから、聞いた。えへへへ」

「いつだ?」


「おにいちゃんが、助けに来てくれたとき。

 でもね、病院で伝えても、

 『オレ』が混乱するだろうから~って。

 翌朝、電話で伝えろって、

 おにいちゃんに言われた」



「オレが言ったのか?」

「そう」


 納得だが……

 病院で伝えられていたら、オレがどう動いていたか。

 想像がつかない。

 やはり、未希は、未来のオレに救われたのか。


「あ、でも連絡先だけ教えて」

「わかった、スマホに送っておく」


「でね、おにいちゃんから、おにいちゃんに伝言」

「なんだ?」

「うんとね『つま先を鍛えて誘い出して突っ込め』だって」


「どこにだ」

「わかんない」


 どこにだ。わからん。


「未希」

「ん?」

「どこに助けにいけばいい」

「ニフィル・ロードのこと?」

「へんな名前の世界だな」

「おにいちゃんはね、みきのおうちまで来てくれた」

「おうち?」

「そ。みきは、あっちでは、絶賛ひとり暮らし中」

「……は?」

「キッチンも、お風呂もあるし、お庭もあるよ」

「……そうか……わかった。時間作って家に行くから。詳しい話を聞かせてくれ」

「わかった。まゆさんも呼んでいい?」

「ああ」


 電話を切る。

 ……わけがわからねぇ……めんどくせぇ。


 未希のスマホに、須藤明美の連絡先を送る。


 そのあと、まゆにもメッセージを送る。

『須藤明美の件は未希に伝えた。3人で話したい。時間作っといてくれ』


 すぐに、まゆから返信

『わかった。今日は学校来てるから。行くとしたら15時以降で』


 しばらくぼーっとしていると、またメッセージ。

 母親から。

『未希ちゃん退院します。いろいろありがとう』


 スマホを放り投げる。


 今日は、夜に達郎と待ち合わせている日だ。

 仕事もなく、15時まで暇だ。

 また寝るか。



 午前10時半。

 また電話が鳴る。


 発信者は「長田岡」

 誰だ。


 通話を押す。


「あ、総司さんですか」

「そうだが」

「どうも、ヨシヒロです。お久しぶりです」

 ヨシヒロの声を聞いて、思い出した。

 達郎のとこのナンバーツーの男だ。


「どうした」

「タツさんと連絡がとれなくて。拉致られたっぽいんですけど、総司さん何か知りませんか?」

「今夜、会う約束はしているが、誰に拉致られた?」

「いま、追ってるんですけど、ちょっとややこしくて」

「どこかで会えるか?」

「いいんすか。あざす。そしたら朝日田のファミレスとかでいいですか?」

「わかった。1時間後でいいか」

「はい。お願いします!」


 通話を切った。

 「相談したい」と言っていた達郎が何かに巻き込まれている。

 今回は、いろいろ動いてもらっている。

 やれる範囲で手を貸してやろう。


 オレは布団から立ち上がり、台所で顔を洗った。

 ニフィル・ロードのマントよりはマシだが、少し臭かった。

 思えば、4日くらい風呂に入っていない。

 これは、日本社会では、人としてあまり良くない。


 待ち合わせにはまだ時間がある。

 サウナか銭湯にでも寄っていこう。


 オレはアパートを出た。


 外はどんよりと曇っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ