1.4
……ここは、みきのおうちじゃない
あいつの言葉を思い出す。
ノートにかかれた、「この世界」
電子機器に表示されている「Join Me」
靴も履かず。
窓のカギも掛かったまま。
未希は部屋から忽然と消えた。
パパとママに会うために?
未希はこの先にいるのだろうか。
オレは、この文字に触れればいいのか?
触れたら未希に近づけるのか?
そしてオレは、なんの覚悟もなく。
スマホの通話に触れるのと、なんらかわらない指先で。
『 Join Me 』に触れた。
すると電子機器が向いている先。
1メートルくらい手前に淡く光る膜が現れた。
姿見サイズのホログラムのようだった。
それは七色に光りうごめき、その先の壁をうっすらと透かしている。
長方形に切り取られた、巨大なシャボン玉の膜のようだった。
その膜がこちらに迫ってくる。
音もなく、匂いもなく、止まることもなく。
その膜は電子機器を持っていた手を呑みこんだ。
呑みこまれたオレの腕が消えた。
腕の感覚はある。
電子機器もそこにあると、手の感触が告げている。
驚いて腕を引き抜こうとしたその時……
全身が、膜に包まれた。
眼前は真っ白だった。
未希の部屋は跡形もない。
直後に目がつぶれそうな眩しさに襲われる。
たまらず目を閉じた。
しかしその閃光は、すぐに収まった。
そしてふぅっと、涼しい風が頬を撫でた。
肌に触れる空気が変わった。
ヒバリのさえずるような鳴き声が聞こえる。
暖かい陽の光が全身を包んでいるのが解る。
ゆっくりと……目を開けた。
オレは草原に突っ立っていた。
強烈な光の残光がまだ目蓋のうちに残っていて、少しぼやけている。
なんどか、強く瞬きを繰り返す。
見上げると、深い青空には、ふわっとした雲が、ところどころに浮かんでいた。
眼前に続く緩く起伏する草原の先には森が広がり、そのさらに遙か遠くには、山頂に雪をいただく山脈が見える。
ああ……風が……
気持ちがいい……
本当に気持ちがいい。
不快な要素があるとすれば、不気味なくらいの気分の良さだ。
この場所には、味わったことのない清涼感があった。
ここは梅雨の日本ではない。
湿度も、温度も、陽の光のあたたかさも。
取り巻くすべてが、調整されているかのような調和。
断続的に吹く風が、全てを程よく攪拌する。
ここはどこだ。
未希の部屋にいたはずなのに、今はだだっ広い草原に立っている。
未希はここにいるのか?
オレはスマホを取り出そうした。
だが、スマホはなかった。
タバコもない。
それどころか着ている服が違う。
生地は、粗い亜麻布だろうか?
それをそのまま被せたような服だ。
鼻を近づけると、培養土のような渋い匂いが昇ってくる。
どういうことなんだ。
ここはいったいどこなんだ。




