3.3.06
ガスコスは出発を急いでいた。
襲ってきた賊の死体は転がったままだ。
落ちていた鉈や斧、死体から剥がしたカネになりそうな物は、近くの葦に隠しておく。
ズタ袋が無くなったので、鍋もそこに隠す。
ガスコスが、後で回収するという。
その前に、ガスコスが死ななければだが。
オレ達は、水でふやかしたパンを食べたあと、すぐに野営地を後にした。
ガスコスが急ぐ理由は明白だ。
急いでカタセ村へ行き、まともな治療を受けなければ、ガスコスは死ぬ。
オレと違ってガスコスはNPCだ。
死んだら生き返ることはないだろう。
家には、娘が2人。12歳とフィーダと、生まれたばかりのウェーダが待っている。
ガロムも待っている。
死なれたら、オレも合わせる顔が無い。
ガスコスは、エールをチビチビと飲みながら歩いている。
オレの革水筒のエールは、ガスコスの消毒に使ってしまい、ほとんど残っていない。
「呑まなきゃ、歩けねぇ……」
ガスコスが言うのは、冗談でもなんでもない。
エールが尽きたら、本当に歩けなくなり、意識を失うだろう。
オレはガスコスに肩を貸し、ガスコスが示す方向に向かって先を急いだ。
「知ってるかもしれねぇが、おれぁ、もともと盗賊でよ」
「知ってるよ」
「子供の頃は、ガロムと弟と、ああ……あとオヤジもいたなぁ……4人でカタセ村に住んでたんだ」
「カタセ村はガロム達の生まれ故郷か」
「そうだ……だがある日、おれぁ村がいやになって独りで家を飛び出した。そんで、辿り着いた先が盗賊さ。若気の至りだな」
…………
「盗賊を廃業したのは、15年くらい前だ。
野営中にオオカミの群れに襲われてよぉ。
仲間はみんな噛みつかれてよ。
オレだけ独りで逃げ伸びたんだ。
そのまま命からがら根城に戻ったが……
オレ独りじゃもうどうにもならねぇ」
時間が経つごとに、ガスコスの顔色から血の気が失せていく。
冷や汗を流し、震えていた。
「で……途方にくれてたところに……
どこで聞きつけたのか……
ガロムが弟のルボンスと一緒に来た。
そのまま一緒に住むことになってな。
最初に住んでたのは、オレ達だけだ。
しばらくしたら、流れ者が集まってきてよ。
いまでは立派な村みてぇだけどな」
もう喋るのも辛そうだ。
「そんで嫁さんもらって……娘が生まれて」
オレは、できるだけガスコスに喋らせた。
「ガロム達はなんで、あの村に?」
「……オヤジがなんかやらかして、オヤジを置いて逃げてきたらしいが、詳しいことぁ聞いてねぇから……知らねぇ」
「いい家族だな」
オレは心からそう思った。
それからガスコスは、口数が極端に減り、問いかけの反応も遅くなっていった。
肩に寄りかかるガスコスが、どんどん重くなっていく。
そして陽は昇り、昼近くになりエールも尽きた。
ガスコスが、震える左手を上げて丘の上を指さした。
オレはガスコスを抱え、丘を登る。
登りきると、その先は、また下りだった。
そして、その斜面の下。
「ああ……ついたぞガスコス」
ガスコスからは言葉もなく、オレの肩でうなだれている。
丘の下に広がるのは、村だった。
ぱっと見では数えられそうもない、数十軒の家々が密集し、その外側には遠くの果てまで耕作地が広がっていた。
「あん? ガスコスか?」
村の方から登ってきたのか、薪をゴロゴロ積んだ木造車輪の台車。
それをギシギシと引く若い男が声を掛けてきた。
「……ぃよう……久しぶりだなぁ」
オレの肩に寄りかかるガスコスは、その言葉を最後に、意識を失った。
「お? おい……ガスコス? ……どうした!」
男が駆け寄って来る。
「すまんが、死にかけだ。医者の所へ案内してくれ」
「なにがあった? あんたダレだ? ガスコスの知り合いか?」
「来る途中で盗賊に襲われた。手を貸してくれ」
「お……おぅわかった。あんた名前は」
「ソウジだ」
「よし、ソウジ、ガスコスを台車に載せるぞ、場所を空けるから、少しまて」
男は、台車に戻り、積んであった薪を、次々と外に放り投げた。
オレはガスコスを抱え、台車に近づく。
「医者はいないが、床屋ならいる。ガスコスを運ぶぞ」
「床屋……?」
「そうだ。ラッキーだな。床屋がいる村なんて、ここくらいだ」
男が薪をどかしスペースを作ると、2人掛かりでガスコスを台車に載せる。
「急ぐぞ。後ろから押してくれ」




