3.3.02
昼になる少し前にガスコスに呼ばれた。
「そろそろ行くぞソウジ。支度しろ」
見ると、テーブルの上には、マントや革水筒、小さな革のケースが乱雑に並べられている。
ガスコスが革水筒を手に取ると、「ほれ」と、オレに渡した。
革水筒は、カチカチに固く、ペットボトルよりも遙かに重かった。
オレが、渡された水筒を持って、棒立ちしていると、
「なに突っ立ってんだ……しょうがねぇなぁ、貸してみろ」
ガスコスが水筒を奪い取る。
オレに後ろを向かせ、尻の膨らみに沿って、腰ベルトに革水筒を括りつける。
「ちょっと、歩いてみろ」
言われた通り2、3歩あるく。
「痛くねぇか?」
「ああ」
痛くはないが、まるで鉄アレイを腰にぶら下げて歩いているようだ。
「それと、これもおめぇが付けとけ」
ガスコスが、革のケースをテーブルから拾い上げ、それもオレの腰ベルトに括りつける。
「これは、火打石と火口だ。絶対に落とすんじゃねぇぞ」
次は、ガスコスの手を借りて、マントを羽織る。
素材は固いウールだろうか。
だが、この匂いがキツかった。
昔の豚骨ラーメン屋の酸味の入った獣臭。それの強化版だ。
ラーメンも喰えずに、1日中これを着て旅をするのか?
獣に襲われる前に、マントに殺されそうだ。
「最後にコレだ」
ガスコスが手斧をオレの左腰に差してくれた。
「刃を下に向けるんじゃねぇぞ。落っこちて足の指ぶった斬っちまうからな」
手斧も重い。
水筒と手斧だけで、縄の腰ベルトは、電柱工事に使うフルセットの腰道具の重さになっていた。
「よしっ、じゃあいくぞ!」
と言うと、ガスコスは小屋を出て行った。
「これも、ソウジがもっていき」
ガロムが麻でできた、肩掛けのズタ袋を手渡した。
中には、鍋と、こぶし大の木材のようにも見える固そうなパンがゴロゴロと入っていた。
「また、いつでもおいで。新米のわたしびと様」
ガロムがニカっと笑う。
「世話になった。また来るよ。ガロム」
言うと、ガロムがオレの背中をパンパンと叩いた。
オレはガロムに笑い返したあと、ガスコスを追い掛けて小屋を出る。
もう間もなく正午だろうか。
正確な時刻は分からない。目安は太陽の角度だけだ。
手を振るガロムの見送りを背に、オレとガスコスは村を出た。
ガスコスの腰には、カウント23でオレを叩き殺した、刃こぼれだらけのショートソードが吊り下がっている。
「少し早歩きでもいいか?」
口を覆う白髪交じりのガスコスの髭に、コバエのような小さな虫が歩いていた。
「ああ。大丈夫だ」
歩くのには慣れている。
マントの匂いにさえ慣れれば、大丈夫だろう。たぶん。
そして、オレ達2人は、森の小道を歩き出した。
オレを殺した、元盗賊の男と旅をする。
なんとも、不思議な光景だ。
そして、ガスコスほど頼りになりそうなヤツも、そうはいないだろう。
旅の始まりに、オレの胸は高まっていた。
ダメだ。これはダメなヤツだ。
オレは知っている。分かっているはずだ。
オレはいつも、この高まりに裏切られてきた。
心の準備だけはしておこう。
何が起きてもいいように。




