表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/168

3.3.01 - ログイン3回目


 ログインの光りに包まれる。

 オレは目を閉じて、ニフィル・ロードへの3度目のログインをした。


 ワールドカウント24。

 未希が閉じ込められている仮想世界。


 目を開けると、オレは藁敷きの木のベッドに横になっていた。


 ボロ小屋の部屋の中は、相変わらず埃っぽく暗いが、窓枠の隙間から陽の光の筋が漏れている。


 最初に鼻についたのは、臭みの抜けていないクマ肉の匂い。

 掃除していない犬小屋のような匂いだ。


 隣りの部屋につながる枝を編んだだけの戸の向こうから、土の上を歩く音や、話し声が聞こえる。


 オレは半身を起こして、自分のカラダを確認した。


 怪我が全て治っていた。

 それだけではない。

 以前ログアウトしたとき、オレはガスコスの晩酌に付き合わされ、パンでできた安酒をしこたま吞まされた。


 しかし引きずるはずの二日酔いのだるさや、頭の重さもない。

 オレの体調は完全に元に戻っていた。


 左手を叩いて、デバイスを呼び出す。


 『 World Count 24 / CONNECTED / ELAPSED 00:01 』

 ELAPSED 。現実世界の経過時間はまだ1分以下だ。

 前回、ログアウトしたときの最後は、38だった。

 経過時間は、ログインするたびに、0に戻るようだ。


 右手の未希のデバイスも呼び出してみる。


 『 World Count 24 / ERROR / ELAPSED 43:47 』

 エラーのままで、このデバイスには最初から43時間47分と表示されている。

 未希が行方不明だった時間だ。

 未希は間違いなくこの世界にいる。


 デバイスを消してベッドから立ち上がる。


 戸の方へと歩きながら服装を確認した。

 培養土の匂いがする粗い亜麻布のチュニック。

 腰には、縄のベルトが巻かれている。


 チュニックは、腹の辺りが、真横に破けていた。

 クマの爪に切り裂かれた部分だ。

 

 戸を開けると、ガロムが居た。

「やっとおきたかい。おはようさん、腹減ってるかい?」


「いや……大丈夫みたいだ……」

 言われて気が付いたが、腹は減っていないし、喉の渇きもなかった。

 ログアウトし、再ログインすることで、最適な状態までカラダが回復したのだ。


「ガスコスは?」

「裏の納屋にいったよ」


 ガロムに行き方を聞いて、住居小屋を出る。


 時間は少し遅い朝だろうか。


 やはりこの世界の空気はうまい。

 いまだに漂う、クマ肉シチューの匂いが少し鼻につくが、それでも朝の空気は爽やかだった。


 納屋に近づくと、戸はあいており、中でガスコスがなにやら探し物をしているようだった。

 オレに気が付いたガスコスがこちらを向いた。


「おう、ソウジ。怪我はどうだ?」

「なんともない」

「ガハハ。さすが、わたしびと様だ。すぐ治っちまうな」

「ああ、……そうみたいだな」


 ガスコスが、傍らに立てかけてあった、手斧を掴み、オレに差し出した。

「持っとけ万能道具だ。行くんだろ? カタセ村」


 それから、ガスコスは、中古だが破れていないチュニックを手に取る。


「その服はもう捨てて、これ着てけ。

 それとあとは……ズボンと、靴か。

 なんだその原始人みたいな葦のぞーりは」


 今、履いているのは、川原で作った、手製の葦の草履だ。

 よくこんなので過ごしたとオレも思う。


「これ履いてみろ」


 と、ガスコスが、左右に別れた2本の太い筒をオレに手渡した。


 くすんだブラウン色で固いカーペットのような手触りだった。

 たぶんこれが、ズボンだ。

 現代人のオレには、ズボンには見えない。


 これは、革で作った太い水道管だ。


 足を通してみる。

 肌に触れると、かなりチクチクする。

 慣れるまで時間がかかりそうだ。


「おう、似合ってるぞ。それと靴な。ほれ」


 ガスコスが手渡したソレは、オレの知る靴では無い。

 靴下の形をした厚手の革だった。

 脂を吸って黒ずんだ表面のあちこちに、乾いた泥がこびり付いている。


 ガスコスが言葉を続けた。

「靴底はまだしっかりしてる。長旅にも、まぁ耐えられるだろう。水虫付きだ」


 どうやら、これが「靴」と呼ばれているらしい。


 靴底は無い。

 オレは革でできた固い靴下に、足をはめ込む。


 足首についていた紐を、縛り上げ、地面を踏んでみた。

 冷たい地面の感触が、そのまま足の裏に伝わってくる。


 やはりこれは……靴下だ。

 

「出発は昼前でいいか? それまで準備があるなら済ませておけよ」

「カタセ村までどのくらいかかるんだ」

「そうだなぁ、何もなければ明日の昼か夕方には着くな」


 何もなければ。


 オレはこのニフィル・ロードに来て、何もなかった日は1日も無い。


「ガスコス。よろしく頼む」


「おう、まかせとけ」


 ふと、空を見上げると、雲がゆっくりと風に流されていた。

 空だけは、この日も平和そのものだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ