4.7.14
馬車は、街道を走り続けた。
ときおり、ちらちらと、同乗者の3人がオレに視線を向けてくる。
なにか話しかけられているかもしれない。
しかし、馬車の振動でなにも聞こえない。
ケツが痛くてそれどころではない。
ときどき全身がシートから飛び上がる。
その度に、落下の衝撃に備えてケツの角度を少しでも逸らす。
同乗者との楽しい会話なんて、この馬車では不可能だ。
オレは眼を閉じて堪えた。
我慢だ。
あとどれだけ辛抱すればいいのか。
それだけを、ひたすら考えた。
そして、馬車のスピードが徐々に落ちていくのを感じた。
顔を上げると、流れる風景が、木造の街並みに変わっていた。
行き交う人々の顔、通り過ぎて行く街並み。
それを眺める余裕ができるくらいの速度に落ちた。
王都がどんなものかと思っていたが、ただのドデカい街だった。
スピカの街の何倍あるのだろうか。
ぱっと見ではわからない。
それくらい大きな街だった。
最初は、壁がない街なのかと思ったが、遥か彼方にこげ茶色の壁が見える。
どうやら、いま馬車が走っているのは、城塞都市から溢れた街。
中心街は、あの壁の中なのだろう。
街が薄暗くなっていく。陽が落ち始めていた。
大きくなっていく外壁も、流れていく街並みも、夕暮れの色でオーバーライドされていく。
馬車がこげ茶色の壁のゲートへと近づいた。
そして馬車が止まった。
振動から解放されたケツが安堵に包まれる。
運転手の男が、槍を持った番兵と話を始めた。
運転手との話が終わると、次は乗客であるオレ達の審査。
同乗者の3人は、番兵と簡単な言葉を交わしただけで許可されたようだ。
あいつら、そんなに偉いのか。
オレは紹介状を番兵に手渡した。
それを確認した番兵の顔色が急に神妙なものに変っていく。
「いったんお通りください」
番兵は、オレと運転手にそう告げた。
再び、馬車が走り出し、ゲートを通過した。
そのゲートを通過すると、すぐにまた馬車が止まる。
そして運転手がこちらを振り返り、その口で到着を告げた。
同乗者の男は、振り返りもせずに最初に荷台から降りていった。
その後を婦人達が続く。
婦人は、オレの方を向いて軽く会釈してから、荷台を降りた。
オレも立ち上がる。
酔いは無かったが、ケツが痛い。
太腿の裏から、尻、腰にかけて、こん棒で散々打ちのめされたような重い痛みだった。
降りる前に、運転手に尋ねた。
「ここはなんという街だ?」
「はい。王都ヴィルゴシータと呼ばれております、旦那様。
長時間の道中の不備。深くお詫び申し上げます。いってらっしゃいませ」
そうだな。悪いのは道だ。運転手にはなんの落ち度もない。
事故もなく、平常運転だ。
さて、ヴィルゴシータか。
この国の女王様と呼ばれる権力者の棲み処。
どんな魔窟なのか興味もあるが、まずはアルクを探そう。
「ソウジ様」
名を呼ばれたので振り返る。
口髭をちょんと伸ばした、四十代くらいの胡散臭そうな男。
折り目のついたコートのような上着を羽織っている。
その斜め後ろに、先ほどの番兵の姿。
「アルクとのご面会は、明日でもよろしいでしょうか。ご面会の手続きは、こちらで手配させていただきます。お疲れのことと思いますので、まずは宿をご用意させていただきます」
なんなんだ。
待遇が良すぎる。
いったいオレはどういう客で、どういう扱いなのか。
こうまでされると、なにもかもが、不信だ。
オレの中で、警報が鳴り響いている。
テーベの政治に利用されようとしているのは間違いないだろう。
やはり、あの手の商人、政治家にロクなやつはいない。
もう二度とテーベの手を借りるのはヤメよう。
オレはアルクの居場所が知りたかっただけだ。
動物園で放し飼いにされているクジャクの群れに、野良のアヒルが迷い込んだ気分だ。
やっぱり来なきゃよかった。




