4.7.12
翌朝。
陽が昇り始めたばかりの早朝。
ストームカレンダーの表記は37日目。
補充部隊は、大部分が前哨基地に留まるようだ。
本部に帰還するのは10人。
その中にエレーナの姿もある。
夕べは、暗くて分からなかったが、昼間のエレーナの外見は、可愛らしい魔女っ子コスプレのお嬢さんだった。
にもかかわらず、エレーナは、運搬部隊の護衛役という立場だった。
戦闘時の立ち回りが期待される攻撃魔法職なのだ。
分からない。理解できない。
ニフィル・ロードという世界は、本当に不可解だ。
エレーナがオレの方を向いて、手を振っている。
たぶんオレじゃないだろう。
エレーナが手を振っているのは、オレの近くにいる別の誰かだ。
だから、オレは無視した。
エレーナは帰還する者達とともに、前哨基地を離れていった。
そんなことより、ウィリアムから集合命令が出ていた。
司令部のテントへ行くと、任務中以外の守備隊メンバー全員が集まっていた。
人数が多い。昨日までの2倍くらいの規模だった。
ウィリアムが注目を集めてから、訓示を始めた。
守備隊は40人に増員された。
軍属は30人。
詳しくは分からないが、アメリカ、イギリス、フランス。
そのあたりの国に所属する軍人らしい。
彼らは給料を貰い、職務としてニフィル・ロードに派遣されている。
そして、オレやリュウジらの一般プレイヤーは、見張りの任務から解放されることとなった。
オレ達は今後、襲撃時の迎撃人員として待機しながら、前哨基地の増築を手伝うことになる。
見張りの重要性。
オレはそれを知っている。ヤクザのリュウジも理解している。
軍属も叩き込まれている。
見張りは、前哨基地全員の安全を担っている。
しかし、そうではない一般人のほとんどは理解していない。
見張りの見落としで、地獄を見たことがない連中には、その重要性がわからない。
見張りはただ退屈で、居眠りと戦うだけの時間。
そう思っているヤツに見張りを任せるべきではない。
たとえ酒を呑みながらだとしても、そこを理解しているプロかどうかで大きな隔たりがある。
オレ達は見張りの任務から解放された。
そして前哨基地も、一般人の見張りという不安定な警備体制から解放されたのだ。
ウィリアムの訓示がさらに続く。
専門に組織された建設チームが20人。
農業チームが20人。
狩猟チームが10人。
前哨基地に駐留するプレイヤーは、今日から総勢90人になるらしい。
そして、ウィリアムは、前哨基地の責任者から格上げされ、司令官になったらしい。
どうやら、ウィリアムは、それが言いたかったようだ。
パラパラとまばらな拍手。
おめでとう、コマンダー・ウィリアム。
そのあと、守備隊長だという男が紹介されたが、名前も顔も、すぐに忘れた。
必要になったときでいい。
最後に、この基地の名前を募集するから、考えておけと言われて解散となった。
そんなの、なんでもいいよ。
ウィリアムが司令官。
この世界での上司か。
直属の上司はだれだろう。
さっきの隊長だろうか。まさかティナ?
どうでもいいよ。
帰ろうとすると、リュウジが声をかけてきた。
「おいソウジ、いよいよだ。賭場を開くから、おめぇも手伝え」
そういえばそんな話もあったな。
「すまん、少し用事がある。それが終わったら手伝うよ」
「おう、そうか。まぁいいや、待ってるぜ」
リュウジと別れ、テントに戻る。
周囲を見渡すと、少し離れたところのあちこちで土が盛られ、木材が運び込まれている。
塀の拡張工事でも始まるのだろうか。
まだ朝だが、基地はすでに、大規模な拡張に向けて動き始めていた。
そういや、移住者はどうなったんだろう。
いまだに、この付近には家もテントもなく、原っぱのままだ。
井戸も穴を掘っただけで放置されている。
まぁいいか。
見張りの仕事で、前哨基地に戻るのが不要になった。
今日はこれから、のんびり馬車の旅だ。
オレは、メモリアへと飛んだ。




