4.5.2
オレ達は、ストームの家を出た。
陽は傾き、夕方から夜に変わりかけていた。
噴水広場を横切り、アーネストの酒場へと向かう。
オレの前には、ソフィアを先頭に、未希とストームが並んで歩いている。
ふと、気になり、ソフィアに声を掛けた。
「なぁ、この街って名前あるのか?」
「名前?
本部の街とか、噴水広場とか。知恵の広場とか。
みんな適当に呼んでるわね。
昔は、宗教的な名前がついてたって聞いたけど……
プレイヤーの人種が多様になってから、特定の名前をつけるのは、やめたみたい。
カウントが変われば、勢力も人もガラっと変わったりするしね」
「クリアしてカウントが変わると、このエレメントは消滅するのか」
「私達の知恵エレメントが勝てば、なくならないわよ。負けるか、別のルートでクリアされちゃうと、また最初から作り直し」
「カウント23は、どのエレメントが勝ったんだ?」
「えーと……正義、だったかしら。3連覇中って聞いてるわ」
「正義って、裏切ったスペイン人とかのエレメントか」
「そうね。ちなみに支配してるのは、日本人じゃなかったかしら」
「……えっ?」
オレだけじゃなく、未希とストームも驚いていた。
「3連覇……正義エレメント、強い……勝ちたい」
「いや、驚くのはそこじゃないだろう。正義のエレメントは日本人が多いのか?」
「私も詳しくは知らないわよ? でも、比率は日本人がいちばん多いらしいわ」
「行ってみたい……」
「まぁ、そのうち嫌でも会えるわよ。ルミナス・ノードに行けばね」
「ねぇねぇ、ソフィアは、いつから参加してるの?」
未希が、ソフィアの斜め後ろから顔を覗き込む。
「私は、カウント23と24。ここが2回目よ」
「ベテランだ」
「そういうのは噴水おじさんに言って。1から全部参加してるらしいから」
「あの爺さんが? すごいな。できるのかそんなこと」
「史上2番目のシェイプシフトデバイス保有者で、1からログインしてるらしいわ」
どんだけマニアだよ……
と、思ったが、オレの隣にも、似たようなヤツが歩いているな。
「こんど色々聞いてみたい……けど、ドイツ語ができない」
「みきは、ちょっとなら喋れるよ。噴水おじさんから習ってる」
「わたしも、ドイツ語勉強しようかな。みきさん教えて」
「ミキは、だれとでも仲良しね」
「噴水おじさん、とってもいい人だよ? 優しいし、面白い」
「そうなの? でも、あのお爺さんは大罪人タグ付きよ」
「大罪人タグ?」
「ルミナス・コアを破壊して、シェイプシフトデバイスを手に入れたプレイヤーには、大罪人タグが付くらしいわ」
「……なんかペナルティあるの?」
「普通はどこでもログアウトできるわよね? でも、大罪人になると、メモリアに戻らないとログアウトできないんですって」
「それはツラいね……アイアンマンモード……でも面白そう」
ゲームジャンキーかよストームは……
「しかもね、そのペナルティは解除できないんですって。
事実上の生涯BAN宣告みたいなものよね。
だから噴水おじさんも、噴水広場から離れられないみたいよ」
ということはだ……
オレ達がシェイプシフトデバイスを手に入れたら、誰かが大罪人になるってことだ。
まぁ……オレか。オレだろうな。
そういやストームが言ってた。
オレにしか出来ない仕事。
たしかに、オレなら別に構わない。
この世界からBANされたとしても、なんの未練も無い。
「大罪人タグってさ、ログインデバイスを変えても消えないの?」
「プレイヤーに付くタグみたいだから、デバイスを変えてもダメね」
「ふ~ん……」
「なに? シェイプシフトデバイス欲しいの? お姉さんも手伝ってあげようか?」
「え……う、うん……ちょっと考えさせて」
ストームが下を向いた。
話題を変えた方がいいか?
なにかネタは……
「あ、見えてきたわよ。ホント、ボロいビルよね」
アーネストの酒場。
100年くらいタイムスリップしたような、レンガ造りのレトロな3階建て。
あいかわらず、ドアは開けっ放しだ。
入り口に辿り着くと、ソフィアが大声を上げた。
「アーネストー! いるー?」
店の中には、カウンターの奥に女性がひとり。
隅のソファーに男が独り。
おぼろげな記憶だが、カウンターの女性は、以前にも見たことがある。
「あらソフィア、久しぶりね。ちょっと待ってて」
女性が階段を昇っていく。
「適当に座ってて」
顔だけ向けて、そう言うと、2階に消えた。
丸テーブルにスツールを寄せて、適当に座る。
ソファーの男がこちらに顔を向けた。
歳は、四十代くらい。
薄汚れた、軍服のようなカーキ色の服を着ている。
ローテーブルにはガラスのボトル。
琥珀色の液体が入ったグラスを、左手で掴んでいる。
その顔に、見覚えは無い。
だが容姿は整っている。映画俳優のような男だ。
男と無言で視線を交わしていると、天井からミシミシと板が軋む音。
視線を向けると、階段の先にアーネストの姿が見えた。
あいかわらずの無表情。
いつ見ても、苦手な男だ。
なにを考えているのか分からない。
怒っているのか、嫌っているのか。
好かれているとは思えない。だから、嫌われているんだろう。
ふと、鏡に映った自分の顔を思い出した。
もしかして、オレもあんな感じなのか。




