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4.4.15 - みきには言えない


 真結がオレの向かいに座った。


 最初に知り合ったときと同じ店。

 ストームという偽名を名乗り、男だと思って近づいたら、オンナで、しかも女子高生だった。

 あれから、もう1カ月以上か。


「で? 話ってなんだ?」


「話っていうより、相談? 総司には伝えておこうと思って」


 声が小さい。

 テーブルに身を乗り出して、声を拾う。


「おまたせ」


 オンナ店員が、ドリンクと、フルーツの盛り合わせをテーブルに置いた。

 アイスティーかな。

 オレンジ色だが、微かな紅茶の匂い。


 真結がストローでひと口含む。


「ごゆっくりー」


 店員が立ち去ったが、真結はまだ、黙っている。

 なにから話そうかとでも、思案しているのか。


 1分近く時間を置いて、真結が口を開く。

「今日さ……パラレルワールドの話したじゃん?」

「ああ……言ってたな。パラレルワールドってなんなんだ」


「平行世界。同じ世界が分かれて、別々に続いてるって考え方」

「まったくわからん」


「……たとえばさ、家に帰って勉強するか、ゲームで遊んで寝るか。それで、未来はズレるでしょ?」

「そりゃぁ……そうかもな」


「で、その両方の未来が、そのまま別々に続いてるかもね? っていうのがパラレルワールド」


「ずいぶん都合の良い世界だな……で、それが今日の話と、どう関係がある」


 真結が、またストローに口をつけて、ドリンクを啜る。

 それから、また話を続けた。


「……ひとつの仮定。ニフィル・ロードを作った科学者は、事象の改変が可能かどうかを実験したかった」


「事象? 実験?」

「パラレルワールドの存在」


「ん? つまり? どういうことだ?」


「ニフィル・ロードは、パラレルワールドの存在を否定するための装置」

「否定? なぜ、そう思う?」


「世界はまだ、破壊されていない」

「すでに壊れてるんじゃないのか? 未来も、過去も」


「うん、わたし達が気が付いてないだけかもね。

 本当は、わたしはもう死んでて、ここには別の誰かが来てたのかもしれない」


「……」


「でも、事象の改変って、そんな狭い世界じゃない」


 真結が右手を上げて、自分の頬をつまんで、引っ張った。


「バタフライエフェクトって言葉あるでしょ?

 今、わたしは、ほっぺを引っ張っただけ。

 事象っていうのはね、小さなズレから、台風が発生したり、津波が起きる要因になったりする」


「……?」

 なにを言ってるんだ、真結は。

 風が吹けば、桶がなんとかってやつか?


「ニフィル・ロードのプレイヤーは、何万人もいて、600年以上も続いてる。みんなが好き勝手に過去や未来を変えようとしたら、未来も過去もめちゃくちゃだよ」


「オレには想像もできないが……たしかに、めちゃくちゃになってるかもしれないな」

「でも、壊れてないでしょ? どうして?」


「オレに分かるわけないだろ」


「わたしね。今日、ソフィアさんに会って確信した。

 過去も未来も、繋がってて、ひとつしかない。

 なにも変わらない。変えることはできない。

 ニフィル・ロードの存在と、今この瞬間の時間の流れが、それを証明しようとしてる」


「オレが、次になにをするか。もう決まってるって言いたいのか?」


 真結が頷く。


 ばかばかしい。

 試しに、右腕を上げて、人差し指を突き出す。

 次に中指。

 薬指。


 この気まぐれで、意味のない動作も、オレがこうすると決まっていたから。そう言いたいのか?


「でも……みきさんには言えない……」


「どうして?」


「だって……それがニフィル・ロードの存在意義なら、

 みきさんのお父さんとお母さんの死は絶対。

 なにをしても、過去に起こったことを、曲げることはできない。

 死んじゃった人は、もう世界のどこにもいない」



 真結が、目に涙を浮かべ始めた。


 パラレルワールドだの、存在意義だの。

 オレにはよくわからないし、真に受けることもできないが。

 真結が、心から、未希を大切に思ってくれている。

 それだけは伝わった。


 被ったままのフードを引き寄せ、雑な手つきで頬をぬぐっている。

 白い布地に、涙の雫が染みていた。


「でもね、実現できることもあるんだよ」


「……なんだ?」


「カウント22にログインして、お父さんとお母さんに再会すること。

 現実世界の未来も過去も、変えられないけど、会うだけなら。それだけはできる」


「そうか。そうだな」


「だから、必ず手に入れたいの。大罪人ルートの報酬」

「シェイプシフトデバイスか」


「んん……みきさんを、お父さんとお母さんに、会わせてあげたい」


 わざわざ、それを伝えにきたのか。


 未希を大切に思っている真結。


 また、フードで涙をゴシゴシ拭いている。

 なんだか、よくわからないものが込み上げてくる。


 嬉しい、違う。

 感謝、それも違う。

 憎悪? ぜんぜん違う。



 なんだろうな。

 この感情は。



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