4.4.14
オレ達は、カフェを出た。
未希と真結は、まだ観光していくと言う。
オレだけ先に電車に乗って、地元に戻った。
まだ、夕方にもならない時刻だ。
改札を抜けて、アパートに向かって歩いている途中でスマホが震える。
メッセージの受信。
送り主はルシアだった。
ん?
メッセージでは無いようだ。なんだ?
通知に触れるとアプリが起動し、デカデカと受話器のマーク。
触れると、ルシアの声。
電話かよコレ。
「ボンジューゥ。ねぇ、おスシ食べたいんだけど、いい店知らない?」
「なんでオレに聞くんだよ……他のヤツを頼れよ」
「ひどい。日本人の友達、ソウジしかいないんだもん」
「なんで、そんなにスシが食べたいんだ」
「日本に旅行に来て、おスシを食べるのって、常識じゃない?」
知るかよそんなの。
「悪いが、オレはあまり詳しくない。調べてやるから、後でもいいか?」
「オケィ。じゃあ待ってる。やっぱ優しいねソウジ」
「ふざけんな……用件はそれだけか?」
「う~ん……こんどいつ会える?」
スマホを耳にあてたまま、真夏の空を見上げた。
オレはなにをしているんだ。
「なんで、会うことが確定なんだ?」
「なんでだろ? 運命? また会わなきゃいけないって思うの」
「オレは思わないが」
「ウフフ。本当は会いたいって思ってるくせに」
「思ってねぇ」
「じゃあ、また連絡するね」
なんなんだ。
キャバ嬢の営業電話か?
通話を終えて、アプリを閉じると、メッセージの受信履歴がついていた。
こんどは、真結だ。
『話したいことがあるんだけど、夜とか会えない? みきさん無しで』
ふぅ……
なんだ?
これが、モテ期ってやつか?
どいつもこいつも、何が狙いだ。
また空を見上げて、少し考える。
真結に返信した。
『わかった。いつでもいいから、時間が決まったら連絡してくれ』
結局、アパートには帰らず、サウナに行ったり、飯を食ったりして時間を潰す。
飯を食いながら、なにか情報が得られないかと、雇用主に質問を投げた。
『あの女性は何者ですか?』
『なんだ、気になるか? まさか、ホレたか?』
そのまま、ポンポンと、続けざまにメッセージが届く。
『いいだろう。勤務態度良好なおまえに、ボーナス代わりに教えてやる』
『ある人物の紹介でな。あのオンナは、社会心理学の天才』
『学んだわけじゃないらしい』
『センスと経験だけで、感覚的に人物をプロファイリングしちまうんだとよ』
『道端で偶然を装って、呑みに誘うなんてのは朝飯前だろうな』
『今回は、その才能を見込んで、仕事に組み込んだ』
『だから、忠告しとくぞ』
『やめとけ。貰った連絡先は捨てろ』
なるほど。オオカミか。言いえて妙だ。
今もどこかで、オレの気配を観察しているのかもしれない。
夜の7時過ぎに真結からメッセージが届く。
8時に、FDで待ち合わせをすることになった。
未希には聞かれたくない話。
いったい何だ?
久しぶりのFD。
予定より少し早く店に入る。
あいかわらず、客は少ない。
奥で、長袖を着たチンピラみたいな連中が、キャップを深く被ったまま、ボソボソと会話をしている。
「総司ちゃんだ~ぁ。おひさー」
いつものオンナ店員の声。
今夜は一段と化粧が濃く、ゲッソリとしている。
「達郎君、パクられちゃったんだって? なんか刑務所行くみたいよ?」
「刑務所? なんで? タツは無関係じゃないのか」
「さぁ? 真犯人が捕まらないんだって。常連が減っちゃって、店もつらいわよ」
他に犯人がいないからという理由で、実刑を喰らう。
まぁ、それもギャングリーダーの仕事か。
サイフから5千円抜き取って、オンナ店員に渡す。
「待ち合わせだ。ツレの飲み代も先に渡しとくよ」
「さんきゅー。総司ちゃんは? ジントニ?」
「ああ。奥の席でいいか?」
「見ての通り、ガラガラよ。どこでも好きに座って」
店内を見渡すが、本当に客が少ない。
入り口からもトイレからも離れた、壁際の奥まで歩いて、テーブル席に腰を下ろす。
この店に来たせいか、いつもの習慣。無意識のままに、ポケットに手が伸びる。
ああ……そうか……
オンナ店員が近づいてきて、ジントニックのグラスと灰皿を置いた。
「オレ、タバコやめたんだ」
「え、マジで言ってるの? すごいわね。どうやって?」
「吸えないところに監禁されててな」
「あらっ、留置場にでも入ってたの? お店にもあるわよ。もってこようか?」
「いいよ、せっかく吸わなくなったんだ。このまま完全にヤメるよ」
「そうね。私もやめようかしら……」
オマエが先にヤメるのは、タバコよりも別のモノだろ?
カランと、店の入り口のドアが開く。
真結だ。
「ツレだ。席に案内してやってくれ」
「おっけ」
なんでこの店の客は、どいつもこいつも、クソ暑い夏場なのに長袖なんだ。
真結は昼間のスカイツリーのときと同じ格好。
白いパーカーを着て、フードを深く被っている。
見てるだけで暑苦しい。
おかげで、顔見知りでも、あれが真結だと識別しにくい。
すぐ分かったのは、その体型。あまりにも華奢。
パーカーのポケットに手を入れたまま、入り口でキョロキョロしている。
オレを見つけたのと同時に、オンナ店員が真結の横で、こっちに指を向けた。
肩も揺らさずに、スーッと近づいてくる。
最近、人当たりも良くなってきた印象を持っていたが、こうしてみると、最初に見たときと同じ。
影も未来も薄そうな、幽霊のような真結だった。




