第93話 納得するほど様子がおかしかったのである
ということで、コーデリア・セイジクラウン先生を巻き込んだ。
先生、黙ってしまった。
「私としては、先生に伝えることは反対でした。せっかく向こうが仕掛けてきて、もしかしたらリリスを狙っている主犯を捕まえられるかもしれないのに、邪魔をされたくないからです」
と、レイヴンがズバンと言ってのけた。
「え? もしかして私の心配をしてくれてたの?」
と、思わず尋ねちゃったよ。
レイヴンがため息をつく。
「当たり前だろう? 『蛇を狩って最高の料理を作ってあげる』と、愛しの君が約束してくれたのに、いっこうに果たされないままじゃないか。このままでは冬期休暇も狩りに行けない事態になりそうだ。いいかげん、捕まえてしまおう」
と、ツンデレなのか口説いているのかわかんない返しをされた。
「う、うん……そうだね……」
私がどう言っていいのかわからずに曖昧な返事をしたら、沈思黙考していたコーデリア・セイジクラウン先生が顔を上げて私を見た。
「リリス・ヴァリアント。あなたの聖魔法は、どの程度なのですか? ……詳しく話すことをあなたの父は止めているでしょうが、毒殺に関してだけでもいいです、教えてください」
真剣な顔で問われたので答える。
「即死級の毒煙を放り込まれても、『発動してなくね?』って思うくらい一瞬で浄化できますよー。もちろん毒薬を飲まされても、全員を一瞬で解毒できますねー」
これでも訓練したので!
コーデリア・セイジクラウン先生が絶句した。
「……いいでしょう。私も『姿隠し』を使って待機します。他の先生には知らせません。それでいいですね?」
「「「はい」」」
先生も覚悟を決めたようです。
感謝祭当日。
レイヴンから計画を聞かされた女子、クリス君から計画を聞かされた男子の表情が硬い。
もう、めっちゃ暗いわー。お通夜だわー。
買い出しも控えめだ。
緊張で食事が喉を通らないのかもしれない。
「いや大丈夫だから。マジで大丈夫。クランハウスも何度か毒を入れられたけどさ、私が全部浄化してたから」
私が言うと、みんなが驚いた。
「冒険者、怖いね……」
たぶん違うよ。
全員が念のためということで聖水を飲んだ。
緊張の中、スコール君が登場。
全員が思わずスコール君を見て、そしてスコール君の様子がおかしいことを察知した。
うん、瞳孔が開いているよ。瞬きも異常に少ないし。
そっか、魔法にかかっていたからなのか。てっきり、もともとだと思ってた。
ボトルに触れようとしたら過剰反応を示し、自らグラスに注ぎ、渡す。
レイヴンを見ると、軽くうなずく。
『……そう指示されている。だから、指示以外のことは嫌がるんだよ』
と、レイヴンがものすごい小声で教えてくれた。
たぶん魔法だね。風魔法を使ったね。
グラスを配ると満足したのか、ボトルを置いた。
すると、そのボトルが消える。
コーデリア・セイジクラウン先生が持って外に出たようだ。
ボトルの中身を検査してもらうって言ってたな。
全員がグラスを見つめていて、誰一人として触ろうとしない。
……しょうがない。
「【聖浄】」
無詠唱でもできるんだけど、詠唱したほうがみんなが安心するかなって思って唱えた。
あからさまにみんながホッとした顔をしているわよ。
スコール君の注いだシードルが、キラキラ輝いているからだろうね……。
ところで、私の【聖浄】で、スコール君の魔法は解除できないのかな?
……って思って見たんだけど、解除できてないっぽい。相変わらず瞳が死んでる。
呪いじゃないからかなあ。
フレイヤが咳払いし、音頭を取る。
「では……。神の恵みに感謝を」
「「「感謝を」」」
スコール君は一気に飲み干す。
すごい飲みっぷり。毒が入ってるのに平気なの?
って思ったけど、本人は知らないんだろうね。スコール君諸共殺す気なんだね。
私も飲み干した。レイヴンも。
「あ、マジでうまいわコレ」
「本当だな」
その呟きを聞いた皆も飲み干す。
「あ、確かに」
「おいしい」
「うまいよコレ」
それを聞いたスコール君が笑顔になる。
「今年は、良い年だ」
瞳に輝きが戻ったので、正常になったみたいだ。
その後は普通に飲食する。
とはいえ、つまむ程度だ。レイヴンすら控えめだし。
スコール君がこの後どう動くのかがわからない。
今は瞳孔が正常に戻り、いつものさわやか男子に戻っている。
さて……あとどのくらい経てばいいのか……。
……と観察しながら一時間経過。
時計を見たスコール君の瞳が急に死んでいく。
フラフラと出かけようとしたのでレイヴンが両肩を掴んで止める。
「どこへ行く気だ?」
「……帰る」
「どこへ?」
「……報告に」
「誰に?」
「…………」
「何を報告する?」
「何も起きなかったと……」
「そうか」
レイヴンがチラ、と視線を送ると、うなずいたシエラがやってきた。
手には植木鉢。
「スコール君、おやすみなさい。【植物成長】」
スコール君の目の前に植木鉢を突き出すと、そこから急激に植物が成長し、スコール君の顔目がけて花粉をぶっかけた。
スコール君、昏倒した。
「強力な睡眠効果があるので、ちょっとやそっとじゃ起きません」
「えっ……」
レイヴン、近くにいたけど大丈夫?
聞きとがめた私に、シエラが解説してくれた。
「花粉を直接吸い込むか飲用することで作用するんだけど、一定量摂取しないと効かないので効果がわかりにくいの」
「なるほどね、ありがと」
お礼を言った。
レイヴンがうなずく。
「あとはボトルの検査結果待ちか……」
「スコール君が報告に行かなかったらどうなると思う?」
私がレイヴンに尋ねると、
「成功したと喜ぶだろうよ。彼をつけるという手もあったが、今回は敵に来てもらうつもりだ」
と返してきた。
「来るかなー?」
「中身が何かによるけどね」
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