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公爵家の暗殺者、最強の光術士はやり直す ~今世は自由に、何人にも従わない~  作者: MIZUNA


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灼熱の業火

「実戦形式、だと。ふっふふふ。あっははは……」


ガイルは額に手を当てながら、天を仰ぐように高笑いをはじめた。


木刀の切っ先を向けたまま黙って待っていると、彼は僕を悪意に染まった目で睨み付けてくる。


「いいでしょう。言葉も、動きも、全て実戦形式。情け容赦なくやりましょうか。それがアシル様のお望みなんですよね」


「えぇ、お願いします」


僕が目を細めて頷くと、ガイルは舌打ちをして口角を上げた。


「なら、言ったはずだ。その生意気な目は、人を逆撫でするってな」


彼は先程よりも速く間合いを詰め、木剣を鋭く胴を薙ぐように振るった。


木剣とはいえ、顔に当たれば即死の致命傷になりかねないからだ。


しかし、僕は一歩引いて寸でのところで斬撃を躱し、ガイルの木剣は空を切って風が鳴った。


「これも躱した、だと……⁉」


「今度は躱すだけじゃないよ」


僕は冷淡に告げると、木剣の切っ先でガイルの鳩尾を突き上げた。


自らを光で包み身体能力を補助しながら両足で大地を踏みしめ、体重と全ての力を木剣に込めていく。


動作にすれば一瞬であり、ガイルは「ぐぁ……⁉」と呻き声を漏らして目を見開いた。


「さぁ、次は君の番だ。せいぜい怪我をしないよう、上手な受け身を取るんだね」


「ま、まて……⁉」


「実戦形式って言ったでしょ。待つ理由はないね」


目を細めると、僕は木剣にさらに力を込めて突き抜いた。


同時にガイルの足が大地を離れ、木剣に押し出される形で宙に舞う。


いや、吹き飛したと、言った方が正しいか。


鳩尾の突きが余程利いたのか、ガイルは受け身を取れずに吹き飛ばされた勢いのまま地面を転がっていく。


光魔法の補助は使ったが、多少は手加減している。


さすがに死ぬということはないだろう。


「がぁ、く、くそ……⁉ このガキ、よくも……⁉」


ガイルは苦しそうに口から涎を垂らし、必死に体を起こしながらこちらを殺気が籠もった目で凄んでくる。


「僕が、ガキ、ですか。いいですね、その辺のチンピラが使いそうな言葉ですよ。さすが、実戦形式の言動。ガイルは演技もお上手だ」


これ見よがしに賛辞の拍手を送ると、彼は額に青筋を走らせ「……もういい」と吐き捨てた。


「ロドリナから痛めつけろと言われていたが、もういい。てめぇは、俺がこの手でぶっ殺しやる」


「え、ロドリナ様が僕を痛めつけろと仰ったんですか……⁉」


浅慮で短絡的な奴だとは思っていたけど、まさかここまでとはね。


だけど、僕にとっては好都合だ。


目を丸くし、驚愕した様子で身を乗り出すと、ガイルは「あ……?」と眉をぴくりとさせるが何かを察したらしく「クッククク……」と喉を鳴らして笑い始めた。


「ロドリナ様だぁ? お前、あの女を家族とでも思ってんのかよ。あいつはなぁ、お前の母親を殺した女なんだぜ」


「なん、だって……⁉」



ガイルの言葉に僕は心底を驚き、目を瞬いた。


何故、こいつがリゼットとロドリナしか知り得ない母さんの死を知っているんだ。


愕然とする僕を見て、ガイルは勝ち誇ったように「へへ」と口角を上げた。


最早、本性を隠す気もないらしい。


「その様子じゃ、やっぱり何も知らなかったらしいな。ロドリナは、お前の母親にとある毒を薬と偽って渡していたのさ」


「そ、そんな……⁉ どうして、どうして、ロドリナ様はそんなことをしたんですか」


泣き叫ぶように聞き返すと、ガイルは肩を竦めた。


「権力っていうのは、一度手にすると二度と手放すことのできないもんなんだ。だから、自分の持つ権力を脅かす者は、誰であろうと葬り去るんだよ。お前の父親やロドリナのように、だ。まぁ、ガキのお前にはわかんねぇだろうがな」


彼はそう言うと木剣を構え、「そして……」と続けた。


「その毒を調達したのが、この俺というわけさ」


「……⁉」


ガイルが毒を調達した。


その事実を知った僕は、『そうか、そうだったのか』と合点がいく。


ロドリナを追い込むにあたって、唯一足りなかった情報。


それこそが『毒の出所』だった。


ロドリナであれば毒を仕入れる金を用意するのは簡単だろう。


しかし、足が付かないようにする『毒』そのものを仕入れるとなれば『闇組織』に繋がりを持つか、専門知識を持つ者が必要になる。


その重要な役割を果たしていたのが、このガイルという男だったわけだ。


「さすがに驚いて声も出ねぇか。無理もねぇ。だが安心しろ、俺が母親のところに送ってやるよ」


ガイルは跳躍して一気に間合いを詰めてくる。


彼の動きに合わせて突風が吹き、地面からは砂が舞い上がって陽光を隠してしまう。


「俺が用立てた毒で母親が死に、その子供は俺の手で殺される。死んで親子の再会が果たされるってわけだ。実に感動的な戯曲じゃねぇか」


僕の眉間に向かって木剣が鋭く振り下ろされる。


しかし、額に触れたその瞬間、僕に触れた木剣は赤く解けて消えてしまった。


舞い上がった砂埃も消え、再び陽光が僕達の上から降り注ぐ。


「な……⁉」


ガイルは目を瞬くと、舌打ちをして間合いを取った。すぐさま木剣を構えるが、赤く解けた液体が残っていた木剣の部分に触れると一気に火が燃え上がる。


「火、だと……⁉ てめぇ、一体何をしやがった」


彼は燃える木剣をこちらに勢いよく放り投げる。しかし、その木剣は僕に触れると同時に消え去ってしまった。


わかってる。


こんな奴に怒ったところで、何も解決しないし、母さんも戻ってこない。


でも、頭で理解をしている一方で、感情がその理解を拒否している。


こんな最低な奴が生きているのに、母さんが死んでいる……その事実に対する憤りが収まらないんだ。


「……君の愚かさ。そして、出会いに感謝するよ。逆襲すべき相手を、また見つけたことに」


僕は微笑み掛けると、右手で掌大の光球を生み出した。


次いで、その光球に魔力を注ぐとみるみる巨大化して『大人一人は包み込める大きさ』となっていく。


周囲に強い風が吹き、光球に照らされて僕とガイルの影は大きく伸びている。


「その年齢で、それだけの光魔法を扱うなんてありえねぇ。お、お前は、お前は一体何者なんだ」


「何者でもないよ……君も知っているだろう。僕はアシル、君が遠因となって殺したエラリアの子供だ」


そう告げると、僕は左手の人差し指から高熱を帯びた細い光線を二つ放ってガイルの両足を音もなく貫いた。


彼の両足には反対側を見通せる丸い穴が空き、傷口から白い煙が立っている。


最初は何が起きたのかわからなかったんだろう。


ガイルはきょとんとするが、膝から崩れ落ちて地面に転がった。


同時に激痛が襲ってきたらしく、苦悶の表情で悶え始めた。


「がぁああああ⁉」


「さて、稽古に付き合ってもらうよ。まぁ、木剣ではなくて光魔法の練習だけどね」


「こ、このくそガキが。殺してやる、絶対に殺す」


ガイルの目に反省や後悔の色はなく、怯えもなければ恐怖もない。


ただただ、自身を追い詰めたことに対する怒りと憎しみで僕を凄んでいる。


「そうさ、君みたいな奴はそうでないと面白くない」


僕は悠然と歩いて近寄ると、大きくなった光球で地面を這いつくばるガイルを包み込んでいく。


「ところで、ガイル。君はステーキを食べるときレア、ミディアム、ウェルダン。どれが好きかな」


「あ……?」


ガイルが眉を顰めて首を捻ると、僕はにこりと微笑んだ。


「ちなみに、僕は『レア』だ」


「何を言って……。ま、まさかこの光は……⁉」


「お察しの通りだよ」


「ま……⁉」


絶望に染まったガイルが何かを発しようとしたその時、彼を包み込んでいた淡くて白く優しい光が赤く、烈火の如く輝きだした。


間もなく、聞くに堪えない阿鼻叫喚する男の声が訓練場に轟く。


油と肉が焼ける音は漏れ聞こえるが、煙や臭いも光の中で燃やし尽くされて外に漏れることはない。


「大丈夫、癒やしの光は焼けた傷口をすぐに再生してくれるし、痛みによる気絶や死も未然に防いでくれる。言ったでしょ、僕は『レア』が好きなんだ」


聞こえているのか、聞こえていないのか。


ガイルは光の中でのたうち回り、ただただ叫んでいる。


その姿を見つめながら、僕は彼の言葉を思い出して「ふふ」と噴き出した。


「母親の死に関わった男を見つけた子供が、真相を知って逆襲の足がかりにする、か。戯曲の中盤でいえば、最高に盛り上がるところかな」






アシル君の活躍が少しでも面白い、続きが読みたいと思いましたら『ブックマーク』『評価ポイント(☆)』『温かい感想』をいただけると幸いです!

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