第67話 出陣、カグヤN105号
国王と帝国の念話に勝手に入った挙句、啖呵を切って念話から出ていったメグだったが、まだ頭の中は怒りでいっぱいだった。
怒りだけではない。
ちょっと打算もあった。
このまま自分が帰ったあと、王国が負けたらどうなる?
すべて自分のせいにされるのではないか。
しょせん自分は保護管理局の派遣なのだ。
田中局長の顔を思い浮かべてみた。
信頼できそうに思えるけど、やばくなったら知らん顔されるかもしれない。
やはり自分で解決しなくては。
私だってトップクラスの魔力を持ってる。高校に入る前の魔力テストでもよい成績だった。今度は最後まで戦いたい。そう思えるのだ。
『ナギ! あいつらに勝てるわよね』
メグの迫力に、いいえと答えるのは難しい。
そんな相手にナギは、上手に返事した。
『負ける気はしませんね』
ようは、勝てるかどうかは分からない、ということだ。
メグは脇にある棚から魔力ドリンクを取り出し、一気にあおった。
手が震えている。
武者震いか、怖いのか。それとも先の啖呵を切ったことで興奮したのか自分でも分からなかった。
「ちょっと待ちな」
ガルドがメグに声をかけた。
「良かったら妖精を憑依するか?」
「え、私に?」
思いがけないガルドの申し出にメグは回答できなかった。
ガルドの申し出に反応したのはルミナスだった。
「ちょっと、それって封印してたはずじゃない」
「ああ。女王に使ったのが最後だ」
王女が死んだ原因。それはガルドによって妖精を憑依してもらった女王が魔力を使いすぎてしまい、消耗してしまったためだ。決してガルドの憑依能力が原因ではない。だが、ガルドはそれ以来この技を封印したのだった。
「ルミナスが心配する気持ちはわかる。だがメグなら魔力を使い果たしても問題ないはずだ。地球人は魔力ゼロで生まれ育つ。なら魔力が切れても何の問題もないはずだ」
ルミナスが頷いた。
そしてメグも頷くと、ガルドは詠唱を始めた。
「アラカルの星にただずむ精霊に
求めるは古き眷属のものなり
その力の一助を借りて
このものと供に歩みたまえ…」
ガルドが詠唱を繰り返していると、カグヤも念話を使って詠唱を唱和しはじめた。
『アラカルの星にただずむ精霊に求めるは新しき眷属のものなり…』
メグは驚いたが、ガルドは気にせず詠唱を続けた。
何度か詠唱を繰り返し、儀式が終わった。
「これで魔力が増えたはずだ。あまり変わった感じはないかもしれないが」
メグにとって初めての憑依だったが、ガルドが言う通りあまり魔力があがったという感じはなかった。ただ減っていた魔力が満タンになった感じはする。
「ありがとう、ガルド」
「どうってことないさ。俺の能力は戦闘向きじゃないからな。こうして助けるぐらいしかできないしな」
『それとカグヤもありがとう。詠唱を知ってるとは思わなかったわ』
『どういたしまして。この詠唱により3次元世界での生を授かったわけですからね。よく知ってます。もっとも私が詠唱しても効果はないと思いますが、気持ちです』
「ルミナスも心配してくれてありがとう」
あまりにも愚直な感謝の言葉に少し恥ずかしくなったのか、ルミナスは軽く手を振って返事の代わりにしたのだった。
「よし、出発ね」
メグが勢いよく立ち上がった。
ガルドの詠唱効果もあってか、ふらつく感じがない。
「お願いがあるのだけど。ガルドとルミナスも一緒に乗船して。ナギの魔力供給を手伝ってほしいの」
突然の申し出だったが、ガルドは素直に頷いて了解した。
一方、ルミナスは
「かまわないけど、私の魔力は空っぽよ。何も手伝えないわよ」
と聞いてきた。
「大丈夫。魔力析出装置があるから、艦橋で待機しているだけで魔力が回復するわ。二人がいるだけでカグヤ号の補助ができるの」
カグヤ号が細かい説明を挟み込んできた。
『ガルド殿には主操縦席で魔力を供給していただきます。ルミナス殿は回復途中ですので副操縦席にて魔力を貯めていてください。いざというときに供給して頂ければと思います』
説明を聞いてルミナスは納得した様子でうなづいた。
そしてナギはガルドとルミナスだけに届くように念話を調整した。
『ガルド殿とルミナス殿にお願いがあります。万が一の場合は3人で射手座連合主星へ脱出します。お二人はエルダイズ王国の代表として状況の説明をお願いします。そしてサルマン国王から、最後の抵抗勢力の拠り所として王国を頼むと言葉を承っております』
カグヤの申し出に二人は何も言わずに頷くだけであった。
* * *
カグヤ号の艦橋に3人が座りこんだ。真ん中の少し高座になっている艦長席にメグ、右操縦席にガルド、副操縦席にルミナスが着席した。
「視野共有、開始」
メグの言葉と同時に3人の視野に船外のカメラで捕らえた映像が入ってきた。暗い洞窟と先に出口が明るく光っている。まるで外にいるように感じられる臨場感のある映像だ。
「発進!」
艦長役のメグが高らかに叫んだ。船体がゆらりと揺れると、ゆっくりと洞窟の外へと出た。明るい外に出ても、まぶしいとかは感じない。瞳孔を使っていないので明るさに順応する必要がないのだ。
隠れていた丘の中腹の洞窟からカグヤ号がゆっくりと出てきた。
午後の日差しを浴びて、女神装備がキラキラと輝いて見えた。場違いなまでに美しさを誇示するようだ。純白のカグヤ号も、少し土色と灌木の緑が点在する丘陵を後ろにして映えて見えた。
敵の軽巡洋艦まで距離にして約5㎞。
巡洋艦にしては小型とはいえ、長さ200メートルほどある戦争のために設計された艦種である。攻撃力も防御力もコルベット級のカグヤでは敵う相手ではない。
しかもメグが啖呵を切ってしまったので、不意打ちもできない。
そこでメグとナギは愚直な作戦をとった。
「敵艦に向かって加速」
カグヤ号が音速より少し遅い速度まで一気に加速した。
敵の巡洋艦がみるみるうちに大きくなった。
『あと10秒で接敵します』
カグヤから説明が来た。
しかし、早い。思った以上に加速している。
高い魔力変換能力を持つ二人がいるからだ。
これなら勝てる。そんな確信をメグは持った。
「誘導弾一斉射!」
カグヤ号の中腹から6基のミサイルが飛び立った。青空に6本の真っ白い航跡が伸びていった。その航跡の中心にはカグヤ号がいた。ミサイルとほぼ同じ速度でカグヤは加速していたのだ。まるで白いつぼみのようだ。
「ミサイルによる結界の破壊を確認後、すぐに敵艦に砲撃!」
少しは不意打ちができるかと淡い期待を抱いていたメグだったが、そんなことは起こるはずもなかった。カグヤ号の接近に気がついた敵艦からはブラスター砲撃が始まった。誘導弾を撃ち落とそうというのだ。
誘導弾は回避行動をとり始めた。
と言っても敵の砲撃を避けるのではなく、単にランダムな動きをしつつ敵に近づくだけだ。という話を授業で聞いたことがある。そこまで賢くはないらしい。
そんなに賢くなくても敵の砲撃を避けるのには十分だった。
一発が打ち落とされただけで、残り5発が敵艦に命中した。最初の3発で敵結界を破壊し、残った2発が命中したのだ。
そこにカグヤが追撃した。結界の破壊を待って主砲が火を噴いた。
「命中!」
思わずメグからガッツポーズが出た。
この短い時間で、敵艦の横っ腹に3発を叩きこんだのだ。
だが、しかし…
追撃のカグヤ号主砲の4発目は、残念ながら復活した結界に阻まれた。
そしてカグヤ号が攻撃評定を報告してきた。
『敵艦の損傷は軽微と推測。結界破壊弾による損傷は装甲を貫けず、損害はほぼ無しと推測。主砲の貫通弾による敵艦の航行用魔導装置への軽微な損害あり』
報告と同時に3人の視界に敵艦の状況が見えてきた。直径1メートルはある穴が見えた。だが船内まで貫通はしていないようだった。ましてやヒビなどの船体の損傷は見られない。
「なんなの、この硬い船!!」
メグが思いっきり愚痴をこぼした。
『このクラスの巡洋艦にしては装甲が分厚そうです。歯ごたえのある相手ですね』
「そんな硬いステーキみたいに言わないで、地道に攻撃を続けて」
『了解です』
「目標は敵攻撃翼。相手を黙らせるわよ」
メグが指示しなくてもカグヤ号は理解していた。これが攻撃の標準手法だ。結界の破壊が簡単にできない場合は、結界に守られていない攻撃翼を狙う。攻撃されない間に結界を破壊する。
さて初めての艦船による戦闘を経験しているガルドとルミナスは、ずっと黙って聞いているだけであった。つい数日前まで、こんなに大きな舟が空を浮いているのを見たことがなかったのだ。その上に機敏とした動きで軽々と敵の砲弾を避けるのである。
それでいて内部では遠心力や加速を一切感じることがないのだ。二人の知らない、とんでもなく高度な魔法技術が使われているのだけは確信できた。
敵の3枚の攻撃翼がカグヤ号を狙ってブラスター砲を撃ってきた。
だがカグヤ号は素早い回避航行を行うことで一発もあてられることはなかった。
「なんか相手の動きがとろい気がするんだけど…」
メグの呟きにカグヤ号も賛成した。
『攻撃と防御に比べると、敵艦は動きが少ないですね。動けないのか、それとも何かを狙っているのかもしれません』
「何かって、何よ?」
『下にいるサルマン国王とかでしょうか?』
「やなこと言わないでよ。巡洋艦相手に守りながら戦うのは無理よ」
「それは心配しないで」
ルミナスが話に割って入ってきた。
「サルマンから、戦車隊の動きが止まったと報告が入ってきたわ。おそらく空の戦いが決着するのを待ってるようだ、って。それとザイールも合流して守りは万全だそうよ」
フフッ
ついメグは笑みをこぼした。
「そうね。ようは勝てばいいのね」




