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第59話 戦車部隊

 帝国司令塔の上に浮遊している巡洋艦の後部ハッチが開くと、そこに飛行艇が飛び込むように素早く入っていった。ふわっと浮かせるようにして甲板に着地すると、ダニエマルカムが飛行艇から降りてきた。すぐに甲板員が駆け寄って飛行艇を格納庫に運んでいった。


 急ぎ足で艦橋に向かうダニエマルカムだったが、巡洋艦の中は戦闘前の忙しさで大勢が行き交っていた。何人かがダニエマルカムに気がついて敬礼してきたが、ほとんどは無視か会釈ぐらいだ。


 規律という点では落第点だろうな。だが訳あり連中の集まりにしては上出来だ。故郷から追い出され、ここに流れ着いたような連中だった。そんな奴らが文句を言いながらも忙しそうにしている姿を見ていると、何やら嬉しくなってくる。


 艦橋につくと、ダルカルムが艦長席から立ち上がった。入れ替わるようにダニエマルカムが艦長席に座った。艦長席の前は少し低くなっていて、総合操艦席がある。全部で5席。そこには、ハリカムの他に、第2チームの4名が座っていた。


「遅くなったな」

「待ってましたぜ、隊長」


 ダルカルムが嬉しそうに艦長席に座るダニエマルカムに答えた。


「アッカムとアイアルは大丈夫か?」


「バハムは命の問題はないと言ってましたぜ。三人共キッチン… じゃなくて医務室で寝てます」


「起きたら美味いもの食わせねぇとな」


 彼も含めた5人との付き合いは長い。マグザールに流れ着く前からの親友であり部下たちだ。今回は3名がいないのが寂しいが、まぁ無事だろう。あの船医は治すより料理のほうが得意だ。船医という名の料理長というか、料理長が船医をやってるようなものだ。


「ダルカルム、お前は攻撃を担当しろ。ハリカムは防御結界だ。相手は地上部隊だ。機動力は捨てて攻撃と防御に集中する」


 残る3席には各分隊から魔力が多い3名を選んで操艦を担当させた。


「出撃するぞ」


 ダニエマルカムが船内に号令をかけた。


 一方、地上にいる戦車部隊の方は再編で混乱していた。

 こちらは直接の指揮はできない。


『将軍、再編はまだか!?』


 まずヤールイコ将軍を念話で呼び出した。


 ほんの数十分前に、壊滅するかのような攻撃を受けたばかりの軍隊だ。それを戦車に合わせて再編するとなると、普通に考えれば数日かけて行う話だ。


『まだ、あと1時間はかかると思われます』


 思った以上に早いな。

 それがダニエマルカムの感想だった。


 やはり帝国軍が戦車と合同演習を行った経験があるのは大きい。演習に参加していたのは帝国第1軍の銃装兵団。小銃の扱いを学んでいた兵団であり、その兵団を戦車の随伴兵として訓練していた。


 とはいえだ。今は1時間も待つ余裕はない。


『では戦車部隊だけで出撃させる。その間に第1軍の再編は可能か?』


 ヤールイコ将軍は、とっさに判断した。


『可能かと』


『では戦車部隊を借りるぞ』


 ヤールイコ将軍の答えを聞くこともなく、ダニエマルカムが念話を終了した。もともと戦車部隊は彼らの所属なのだから、断る必要はないのだ。


「通信兵! アブバハル隊長に通信」


「了解!」


 と通信兵が返事するのと同時に、戦車大隊長との思念通話が始まった。


『アブバハル隊長、聞こえるか? こちらはダニエマルカムだ』


 ダニエマルカムは直接、戦車大隊長に念話で話しかけた。


『通信、クリアであります』


『今から私が直接指揮をとる。帝国軍との再編は後にして、王国軍の追撃を開始する』


『了解であります』


『通信兵との視界共有を開始』


 ダニエマルカムが命じたとたん、艦橋の前に戦車大隊の景色が広がった。

 それと同時に、地上の現場での混乱が艦橋にいる全員の目と耳に飛び込んできた。


『帝国軍をどけろ!』


 怒号のような念話は、戦車部隊からだった。

 第1軍団の再編で兵士が邪魔で、前に進めないらしい。


 ダニエマルカムが将軍に連絡をするまでもなく、帝国第1軍団が動き出して戦車が通り抜ける路ができた。


 まだ数千名以上残っている第1軍の間を抜けて、20台の戦車が戦場に躍り出た。キャタピラと違い浮遊戦車なので土煙を立てないが、それでも20台が横に並んで進む姿は壮観だった。これもまた帝国軍の士気を大きく向上させた。


「本当に戦車だけでやるんですかい?」


 ダルカルムが疑問を呈した。


「王国軍を叩くチャンスは今しかない。それが俺の答えだ」


 ダニエマルカムは有無を言わさぬ雰囲気だった。


 随伴兵なしで戦車で進軍する危険について、ダニエマルカムも知っていた。だが王国軍が後ろに広がる丘陵地帯に逃げ込めば、どれだけ面倒なことか。この開けた盆地で空と地上から王国軍を挟み込むのが勝利へ一番近い道なのだ。


 何より戦車は開けた平地でこそ真価を発揮する。

 それがダニエマルカムが学んだことだ。


「戦車帯に通信! 王国軍と背後の丘陵地の間に進軍するよう」


「了解!」


 いつもならダルカルムが探知と通信担当だが、今回は別チームが担当しているので、少し違和感があるな。そんなことをダルカルムは考えていた。


「操作手は、王国軍の頭上へ前進!」


 いつもに比べるとゆっくりと地上500メートルほどを進み、とうとう巡洋艦が王国軍の頭上まで移動した。探知担当が視界を共有してきた。俯瞰した戦場の眺めが、目の前に広がる。この視界は、艦橋の全員が共有できる。


「カオスってやつだな」


 ダルカルムがつぶやいた。


「荷電粒子砲は避けるべきでしょうな。帝国軍に被害がでましょう」


 ハリカムは相変わらず冷静だった。


 とはいえ、帝国軍の前線は崩れ王国軍は包囲網を突破しそうではあった。


 あれだけ士気を高めたと思っていた割には、第2軍らは十分に戦えていないようだった。属国から集めた即席の軍隊だから仕方がないのかもしれない。だが、十分に時間稼ぎはできた。


 一方で、完璧なまでの統率を見せていた王国軍だったが、包囲網を突破した先から陣形が崩れていった。突破できた兵が丘陵地帯まで命からがら走っているのだろう。


「国王はどこだ?」


 もしかすると、しんがりを誰が務めるのかもしれない。


 帝国軍を大きく回り込むように進んでいた戦車隊だが、王国軍の横2kmまで近づいた。丘陵地帯の間に立ちふさがるには、もう少し時間が必要なようだ。


「戦車隊に通信! 王国軍への砲撃を開始せよ。誰も通すな」


「砲撃、準備! 包囲網を突破した王国軍へ荷電粒子砲撃」


 ダニエマルカムの命令とともに、巡洋艦から眩しい光線が平原へと降り注いだ。そして激しい爆発。同時に戦車からの一斉砲撃が降り注ぎ、平原に土煙がたちこもった。


 煙が落ち着いたとき、平原にいた王国兵は誰もいなかった。しばらくは逃げ出そうという気持ちにはならないだろう。次は帝国軍に囲まれている王国軍だ。


『将軍! 王国軍を包囲している帝国軍を撤退させろ。攻撃の邪魔だ!』


 ヤールイコ将軍に伝えると、すぐに帝国軍に動きがあった。上から見ていると、軍隊の動きがよく分かる。完全に前線が崩壊して、帝国軍と王国軍の間に隙間ができる様子がよく見えた。


 巻き添えになるぞ、ぐらい脅かされたのだろう。素晴らしい逃げ足とも言える。


「次は、こっちの王国軍だな。戦車は待機。攻撃はこちらで行う」


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