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第24話 潜入

 王宮の真ん中にある庭園。その真ん中に建てられた帝国の司令部から10人ほどが出てきた。時間から考えると、食事に向かうところなのだろう。そのうちの一人は、やたらと大声でしかり飛ばして、かなりうるさい。


 マリオン隊長は、そのうちの一人に見覚えがあった。


「あの真ん中の男が、ヤールイコ司令官よ」


 司令官は隣にいる男に、ぺこぺこと頭を下げている。その隣の男は見るからに偉そうな態度でヤールイコ司令官を叱り飛ばしている。どうやら今日の午後に到着した軍隊の司令であり、おそらくヤールイコの上官になるのだろう。


「昨日までは、ここの最高権力者だったけど。今日から立場が変わったようね」


 偉そうにしている男が、司令部の周りにいた見張りたちを叱り飛ばした。何を言っているのかメグには聞こえなかったが、おそらく解散させたのだろう。兵士たちが集合したと思うと、別の建物へ引き上げていった。


 司令官たちは、メグのほうへと近づくと、後ろの司令部を振り返った。

 大きな声なので、今度は内容までよく聞こえた。


「この建物は何だ! みすぼらしくて恥ずかしいわ!」


「は! 申し訳ございません」


「まともな建物と部屋を用意するんだ。決定だ!」


 そのまま偉そうな男たちの一団は、王宮の横にある建物に入っていった。


 一団が去ってから少ししてからメグとマリオンが動き出した。


「あの建物なら裏の裏まで知ってるわ」


 マリオン隊長とメグは、こっそりと10人の後を追いかけた。


「問題は、どの部屋を使うかよね」


「あの話しぶりだと、一番豪華な部屋を使うんじゃないかしら」


「なら、二階の応接室かな」


 マリオン隊長は、食堂がある建物に近づくと、壁の横を叩いた。

 すると、引き戸の持ち手が現れた。


 躊躇もなくマリオン隊長が真っ暗な戸の中に入っていった。

 メグも続いて隠し通路に入った。


 通路は狭く、人が一人すり抜けられる程度だった。少し太ってる人同士なら通れないかも。なるほど、鎧を外すように言われた理由が分かった。ぶつかって音がなるのだ。


 真っ暗な通路を少し進んだところで、マリオンの思念がメグに届いた。


「ここよ。ジャンプして」


 そこでジャンプすると、マリオンが手を掴んで引っ張り上げてくれた。


 真っ暗闇の中に、小さな丸い明かりが見えた。すぐ横にマリオン隊長の横顔がうっすらと浮かび上がっていた。


「見てみて」


 マリオンに促されて、メグは小さな丸い穴から外をのぞいた。ちょうど中のホールと階段が見える位置で、司令官と偉そうな男が見えた。


「すぐに応接室に食事を用意しろ」


 司令官が、食事係に怒鳴っていた。彼もイライラしているのだろう。食事係が、大慌てで厨房に戻っていった。


「よし。場所は確定~」


 マリオンがつぶやくと、移動し始めた。メグは、真っ暗な中で迷わず移動できることに感心しながら、ついて行った。


 しばらく移動して、また上にのぼり、ちょっとのところでマリオンが止まった。小さな丸い穴が見えた。今度は穴が二つ。メグとマリオンは、二人で応接室を観察した。


 応接室には、ヤールイコ(元)司令官と、偉そうな男の二人が椅子に座っていた。


「キリアムス皇子、改心していただけないのでしょうか」


「さっきも言っただろう! 全ての工兵を王宮の修理に回せ。四日以内に王宮の天守塔の修理だ。それと見栄えを豪華にするのも忘れてはいかん!」


「地下迷宮や隠し通路の探索が出来なくなりますが、それでも問題ないと?」


「何度も言わせるな。絶対だ!」


 キリアムス皇子と呼ばれた男が、息を吐くとうつむいた。

 大きな両手で顔を覆うと、つぶやくような小さな声で


「お前は、あのお方が恐ろしくないのか?」


 とヤールイコ司令官に問いかけたのだ。


「あのお方? 新しい参謀でしょうか」


 キリアムス皇子がうなづいた。


「すいません、一度だけ遠くからお目通りを許されただけで、よくわかりませんでした」


「そうか。俺は恐ろしい。見たことも聞いたこともない新しい技術。数年で俺の国を帝国に仕立て上げ大陸を統一した手腕。それが王である親父の横にいる。一体何が狙いなのか。それすらわからん」


 今度は、ヤールイコ司令官が質問した。


「王都攻略と王女確保は出来ましたが、命令された三日以内は達成できませんでしたが、何か問題はありましたでしょうか?」


「いや、喜んでいたよ。そもそも三日という期限は、不可能だったからな。それが10日で計画を達成できたのだからな。特に王女を確保したのは褒めていたぞ」


 キリアムス皇子の顔が笑った。


「お前、気に入られるかもな」


「いえ、そんなことはないと…」


 皇子の顔が、さらに笑みであふれた。


「いや、よくやった。だが、これからは俺が指揮を執る。分かってるな」


「もちろんであります」


 ノックの音が部屋に響いた。


「入れ」


 ドアの横にいた兵士が、ドアを開けた。食事係が今日のディナーを持ってきた。

 食事は、エルダイズ王国風で小麦粉と羊肉をふんだんに使った料理だった。


「良い香りだ」


「は、この国の食事は美味しいと、兵士にも人気であります」


「こっちの大陸は豊かだな。俺はトウモロコシの味に飽きたよ」


「参謀がもってきた穀物ですね。私は美味しいと考えます。栄養も高いですし。豊穣の祈りを執り行うことなく収穫できる唯一の穀物でありますから」


「知ってるさ。これでも俺は皇子だぞ。まぁ、あれはあれで美味しいというのは賛成する。だが料理となると何か物足りないのだよ」


 二人は、テーブルに並べられた豪華な料理を食べ始めた。

 豪快に、だが意外と上品な食べっぷりだった。


 食事が終わるころ、キリアムス皇子が重要なことを思い出した。


「ヤールイコよ。ここの抵抗勢力についてどう思う?」


 司令は、フォークを置いて説明を始めた。


「表立った抵抗や補給路の破壊などはありません。だが、我々の監視が行き届いているというわけではないでしょう。個人的には、破壊工作より王女の奪還を優先しているのではないかと考えております」


「そいつらを一網打尽にするアイディアが浮かんだのだが、聞きたいか」


「もちろんです」


 悪い企みを思いつくときの顔というのは、宇宙を通じて同じなのかもしれない。悪そうな笑みを浮かべながら、キリアムス皇子は自分のたくらみを披露した。


「いや、簡単なことさ。王女を公開処刑するとお触れを出すんだ」


「王女をですか?」


 司令官は、驚きの声を上げた。


「そして王女を助けに来た王国の残党を一網打尽にする」


「その作戦は理解できますが……」


「そもそもトウモロコシと新しい農業技術があれば、豊穣の祈りはいらない。あの参謀も王女のことは、確保か殺害と言ってただろ。つまり王女は必要ないのだよ」


「ですが、王女は王国だけでなく、南大陸の全ての国にとっても大事な巫女だと… 治安維持が難しくなりかねます」


「王女の処置は四日後に来る参謀に決めてもらえばいいさ。ようは処刑を取りやめればいいのだろう」


 そういうとキリアムス皇子は大笑いした。

 悪役になる自分に酔っているかのようだった。



 真っ暗な隠し通路にいるマリオン隊長が、メグの肩をつついた。


「行くぞ」


 メグが静かに蓋を戻して穴をふさぐと、隊長が移動を始めた。


「ついて来い。四日も待てるか。今晩、奪還するぞ」


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