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悲しきセイレーン  作者: 武虎竜
〜プロローグ 歌姫から怪物へ 〜
9/38

〜朱里との出会い 藤田の捜索〜

 銀行の外には行員が呼んだ警察とどこからかその事件を聞きつけた記者が数人いた。

 その最中、心音が普通に銀行を出て来たので、警察も記者も唖然としていた。


「君! 無事なのか? 中に銀行強盗がいたと思うけど……君だけ解放されたのか?」

 一人の警察官が、心音に尋ねて来た。


「何か急にみんな寝ちゃって、私だけ外に逃げ出してきました」

 心音は少し微笑みながら、警察官に答えた。


 警察官は、心音が言っている意味を理解出来なかったが、おそらく何か動きがあったのだと思い、他の警察官にその事を告げて、一斉に銀行に突入を開始した。

 

心音はその場から去ろうとしたが、そんな心音の前に数人の記者が立ちはだかった。


「一体中で何があったんですか?」

「貴方はどうしてそんな身なり何ですか?」

「何で貴方だけ出て来れたんですか?」

「何で貴方は裸足なんですか?」


 心音は、急なフラッシュと矢継ぎ早な質問に、うんざりとしていた。

(この場から早く離れたい……)


 そう思った心音は、その思いを乗せた歌詞の昔の曲を、アカペラでワンコーラスその場にいる人にだけに聞こえるぐらいの小さな声で歌い出した。

 すると、さっきまで心音に質問していた記者も、カメラを持っていたカメラマンも、全員力無くその場に倒れ込み出した。


 心音はようやく静かになったその場から走り去ろうとしていた。

 

 その時だった。

「今の何? アンタ凄いね! まるで魔法みたいじゃん」


 その声のした方を心音が見ると、そこにはバイクに乗った女性がいた。


「アタシ、早見朱里って言うんだ。動画配信ではちょっとした有名人なんだけど」

「アタシと組まない? アンタが思いっきり歌える場所をアタシが用意するよ!」

「とりあえずこのままここにいても騒ぎになるだけだし、とりあえず後ろに乗りなよ!」


 心音は戸惑いながらも、その言葉を信じて朱里のバイクの後ろに乗った。

(もし何かあったら……また眠らせたらいっか……)



 その数分前、スマホに何度掛けても出ない心音が心配になり、藤田は心音の部屋を訪れていた。

 藤田はその部屋の状況に呆然とした。

 心音の靴は部屋に残されたままだったが、その心音がどこにもいない。

 そして布団は乱れたままとなっていた。

 そしてその布団の上に無造作にスマホが置かれたままとなっていた。


「心音……一体……どこに行ったんだ……」

 藤田は妙な胸騒ぎを感じ、部屋を飛び出した。


 ホテルの外に出た藤田は、心音を必死で探し出した。


「心音――――! 心音――――!」

「すいません。この女の子見ませんでしたか?」


 藤田は心音の名前を呼びながら、歩いていた何人かに心音の写真を見せて情報を集めようとした。

 すると、裸足でボサボサの長い髪の少女が、一人で繁華街に歩いて行ったという情報を得た。

 藤田はその情報を元に、少女が歩いた方向に向かって走り出した。



 その道中、藤田は変な男に出会った。

 その男はフラフラとしていた。

 藤田はふと気になりその男に声を掛けた。


「君! そんなフラフラして大丈夫なのか?そもそもなんでそんなフラフラしてるんだ?」

「あーーん?……俺は……別に……フラフラ……してない……クソッ……あの女……ど……こ……い……」

 

 その男はその言葉の後で力尽きたかの様に、藤田にもたれ掛かって眠り出した。


(何なんだ? この男は……)


 そのもたれ掛かって来た男を藤田は路地裏の壁まで引きずって連れて行き、その壁にその男を立て掛けた。

 男は気持ち良さそうに寝ている。


 そして藤田はまた心音を探しながら走り出した。


 すると、今度はとある路地裏の奥で男が数人、若い女性二人を囲んだ状態のまま、全員漏れなく眠っている異様な現場を目撃した。


(な……なんだ……これ……何がどうなってるんだ!?)


 藤田は困惑していたが、一応何かあるといけないので、女性二人をその囲んだ状態から連れ出して、女性二人だけ繁華街から見える位置まで連れて行った。


(ここで何が起こったんだ……!?)


 藤田はその異様な現場に困惑していた。

 だが少しして我に戻ると、また繁華街に戻り、心音の情報を集めながら再び走り出した。

 その聞き取りをしていた中で、藤田は銀行でその心音と思しき人物が入ったのを見たと聞き、その銀行まで向かった。


 その銀行の外では、警察官が数人慌てふためいていた。


「一体何が起こったんだ?」

「何で誰も起きない?」

「でも死んでるわけではない、息もしている」

「本当に全員寝てるだけだけなのか!? 」

「でも何で!?」


 警察官達は、今まで見たことも無いその現場にパニクっていた。


「おーーい起きて下さーーーい!」

「起きろーーー!」


 その銀行の外では、警察官が何人も手分けをして、そこで眠っていた記者やカメラマンを起こそうとしていた。

 だが叩こうが揺すろうがどれだけ呼び掛けようが、誰も一向に起きる気配が無かった。


(な……何なんだ……本当に……何が起こったんだ……!?)


 藤田は、最早困惑しかしていなかった。

 そして恐る恐る規制線が張られた線を越えて、銀行の中に入った。


 銀行の中も外と同じ景色だった。

 覆面を被った男、警備員、そして行員とその場にたまたまいたであろう客と思われる数人。

 漏れなく全員眠っていた。

 そして外と同様に、警察官が数人を叩いたり揺すったり呼び掛けたりしていた。

 だが外と同様に、誰も起きる気配が一切見受けられなかった。


(こ……これは……一体……)


 そのあまりの異様さに藤田は思わず後退りしていた。

 そして気付いたら、急いで銀行を飛び出していた。


(一体……何が……起こってるというんだ……)

(さっきの男……路地裏の異様な光景……そして銀行の外と中と両方で起こっている誰もが眠っているという異常な出来事……何なんだこれは……これが本当に現実に起こっていることだと言うのか……)


 そんな困惑している藤田に一人の女性が声を掛けて来た。

 その女性は遠くでその銀行の外での光景を見た人物だった。

 そして、その女性の口から信じれない言葉を藤田は聞いたのだった。


「遠くでよくわからなかったんだけど……」

「ボサボサの長い髪の少女が記者とカメラマンに囲まれて……」

「それで……なんか歌? そう、歌を記者とカメラマンに向かって歌い出したの……」

「そしたら……本当よくわからないんですけど……何かその少女に集まっていた記者とカメラマンが次々と倒れ出して……」

「その後でその少女はバイクに乗った女性に乗せられてどこかに行って……」

「私、気になってその記者達のところまで行ったんですけど……何か全員眠っているみたいで……本当信じれないと思うんですけど……」


 その女性は、自分が先程実際に見たものを信じれない様子だった。

 そしてそれは藤田も同じだった。

 ただ藤田は、その女性が話していたボサボサの少女が心音だということは、すぐに気付いた。


(心音が歌ったら……眠り出した……!?)


 藤田は困惑しか出来なかった。

 そしてしばらく放心状態となった。

 だが少しして正気を取り戻すと、その女性に頭を下げてどこかに電話を掛け出した。


「社長……心音が……心音が……失踪しました……」

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