ヴェルウォークVSホロス
「まさか、呪いを受けてなおここまでの戦闘能力を有しているとは……!」
ホロスはガクリと膝をついた。対敵するは極光の騎士団団長、ヴェルウォーク・スカイハイム。いくら呪われの身であるからといって油断や慢心などは微塵も持ち合わせてなどいなかった。
にもかかわらず、行われたのは到底戦闘などと呼べるものではない。これはもはや一方的な蹂躙である。
――恥だ。まさかこの私が一太刀すら入れられぬとは。奴は今、数多くの人間を『眠りの間』へと誘い保護している。対象のイデアを媒体にするとはいえ、消費する魔力は尋常ではない筈だ。
「純粋な魔力の操作のみでその戦闘力……。何故だ。何故貴様はそれ程までに強いのだッ!!!」
ヴェルウォークは飄々とした態度で「天才だから」と即答した。
「ぐっ! それで答えに、なっているつもりかァーーーっ!!!」
「まだやるつもり? もう勝負はついてるでしょ? お前の攻撃のその全てが俺には決して届かない。それくらい察しろよ」
ビュォオオッ!!
ヴェルウォークは一瞬でホロスの背後に移動した。ホロスはかろうじて軌跡を追い反撃を試みる。しかしその思考のプロセスの間に、ヴェルウォークは無数の連打をホロスへと浴びせかけていく。
「ほらほらほら、そんなんじゃすぐに死んじゃうぞ?」
は、速い!! 片腕、片腕だ! たかが片腕しか使っていないのに、その腕はまるで百本が如く――!!
「調子に乗るな!!」
ホロスは放出した魔力を極限にまで圧縮させ、それを一本の光線として解き放った。魔力は空を切り、光線の超スピードは大気中の水分を蒸発させた。しかし、そんな神速の一撃を前にしてもヴェルウォークは呑気に欠伸をしていた。
「眠くなるなぁ」
ホロスの放った魔力の光線は明後日の方角へと消し飛んでいった。
「我が最速の一撃をいとも容易く!?」
これが……、これが、ヴェルウォーク・スカイハイム!!
あまりにも圧倒的だ! だが時間は十分に稼げた。もう奴は自由に戦えない!!
「認めよう。確かに貴様は強い。もしかしたらゼロス様にも匹敵するやもしれん。だがしかし! これは正々堂々の勝負ではないのだ! 勝つためならば何をしても許される問答無用の戦争!! そのことに思い至らなかったことが貴様の敗因よッ!!! ククク、背後を見てみるがいい」
「罠じゃん」
「罠などではない。……作動したのだよ。ゼロス様の計画、その第一段階がな!」
……せよ、……を壊滅させよ……。
ヴェルウォークは確かに聞いた。民の口から発せられた言葉。そして、僅かな乱れすら感じさせない大地を踏みしめる軍靴の響きを――。
「極光の騎士団を壊滅させよ。極光の騎士団を壊滅させよ。極光の騎士団を壊滅させよ」
なんだアレは。なぜ民間人があのような姿に!? 明らかに自我を失っている!!
「貴様ら、民間人を巻き込んで何を考えているッ!!」
「敵に策を語る愚か者がいると思うのか?」
「ならば無理やりにでも口を割らせるだけだ」
ヴェルウォークは一瞬で間合いを詰めホロスの目の前に立った。次の瞬間、ホロスの右人差し指が消失する。
「まずは指を一本ずつ。あまり時間はなさそうだ、手際良くいこう」
「ぐう、ぬううううううう!??」
全く見えぬ!! それどころか、失われたはずの指の感覚が、まだある!! まさか気付いていないとでもいうのか!? 我が肉体がダメージを認識できていないとでもいうのか!?
「目的を全て話せ。そうすれば命だけは助けてやる。気分次第だけど」
「図に乗――ウボァっ!」
ベキャッ!!
ホロスの手首が三百六十度回転する。骨は砕け血管と神経が捻じ切れる。ダメージは手首から肘、肘から肩へと伝導した。
「グッ!? おおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
激痛に絶叫の雄叫びを上げるホロスだったが、ヴェルウォークは休む暇を与えない。容赦なく次の攻撃――否、拷問を始めた。
「そぉれッ!!」
ゴキゴキゴキゴキゴキゴキャ!!
「ほらほら~」
ベキベキッ!! グシャグシャァァア!!
「ぬ”ぅ”……ど、どれ程の……攻撃を繰り出そうと、無駄だ」
ホロスは力なく笑った。
ヴェルウォークはその表情に心当たりがあった。それは、全てを投げ捨てる覚悟のできた人間のみが、死を悟った時にだけ見せる特異な表情……。
「ゼロス様に栄光あれッッッ!!!!!」
こいつ――、最初っからこうするつもりだったのか!!!
ホロスが激しく発光する。この魔法は魔法という括りの中で唯一魔力を消費せずに発動できる究極にして最大の攻撃魔法である。
ヴェルウォークは大量の魔力を放出し球体状のバリアーを作り出した。
キュイ―――……ン………………ドガァァァァアアアアアアンッッ!!!
ホロスの全身は粉々に吹き飛んだ。魔力と石礫と血肉と砂塵が四方八方に飛び交い、その破壊力によって辺り一帯は更地と化した。
「けほっ、けほっ。はー、全く! とんでもない無茶をする奴だ」
ヴェルウォークの頬から一筋の血が滴った。
「汚いなあ」
ホロスの自爆攻撃を受けたヴェルウォークは流石に無傷ではなかった。だが、ただそれだけだった。
「さて、と――」
ヴェルウォークは足並みをそろえながらこちらに向かってくる大量の民間人に目を向けた。
「あれ、どうしよっかなあ……」
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