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偶像崇拝

 フード部分に十字架の装飾の施された白衣(ローブ)を纏う、三つの影があった。三つの影は、片手に持った黄金の盃を天へと掲げ跪く。


「今日も、いつもと変わらず平穏な朝がやってきましたな」


 低く芯のある声が言う。


「朝日は、万物に平等なるお恵みをお与え下さる」


 対称に、細く高い声が言った。


「お二人とも、準備はよろしいですか?」


 若い男性の声が言うと、二人はゆっくりと頷いた。三人は盃の中を一息に飲み干した。そして、左右等間隔に並べ建てられた柱の最奥部、もはや暗闇と化した遥か遠方に向けて、口を揃えた。


「「「おはようございます、アルスハニア王」」」


 だが、三人の言葉に応じる声は無い。

 暗闇の先は静まり返ったまま、衣擦れの音一つしない。


 それもその筈だ。暗闇の先に居るのはアルスハニア王などではないのだから。そこにいるのは――否、そこに在るのは、ただの石の像である。何者かを参考にして掘られたのであろうそれは、しかしそれがアルスハニア王であるという確たる証拠はない。


 だが、三人にとってそんなことはどうでもいいことであった。暗闇の先に佇むのが本物のアルスハニア王であろうが石像であろうが、ましてや見も知らぬ子どもの死体であろうが、三人はそこに在るものを【アルスハニア王】として崇拝し、崇め奉るのだ。


 人の名も命も魂も、全ては生きとし生ける側が勝手に定義するものだ。であるならば、時に、たった一粒の砂ですら王となり得る。それが三人の考え方であり宗教であり、世界であった。


「歴史が動こうとしています」


 【賛美の儀】を終えた後、青年がぽつりと呟いた。


「何者かが暗躍しているのは確かなのであろう!?」細い声の男が言う。「何ゆえに特定できなんだ!?」


「至極単純な話だろう」威圧感のある声が応じた。「その何者(・・)かは用心深いのだ。それはもう他の誰よりもな。だからいつまでたっても尻尾を掴ませない」


「困りましたね」


 青年は頬を掻いた。


「我々も何らかの策を講じる必要があるでしょう。その者(・・・)が【王室の約定】を知っているかどうかは定かではありません。ですがこれだけは断言できます。近い将来、その者(・・・)は必ずこの場所に辿り着く」


「ど、どうすればよいのじゃ!?」


 高い声が狼狽えながら震えた声を発した。そんな男を低い声が窘めた。


「それをこれから考えようという、そういう話ではないのか?」


 青年は「その通りです」と困ったような笑みを浮かべた。


          ☆     ☆     ☆


「あれは、『マハの黒龍』!?」


 地上まで残り五百メートル程だろうか。『ぺレスロウレ』の街にかつての面影はなく、辺り一面に広がる瓦礫や炎や鮮血は、事態の悲惨さをこれでもかというくらいに物語っていた。


「ひどい ありさまだ」


 メシュアは暗く落ち込んだ声で嘆くように呟いた。同化している今、ゾイドの精神にメシュアの悲しみが直接的に流れ込む。


「この大惨事の裏に、俺の父さんが関わってるっていうのか……?」


 ゾイドは拳を強く握りしめた。ついさっきまで感じていた悲壮の念を打ち消さんばかりの怒りの感情が、今にも爆発しそうだった。


「メシュア、まずはあの『マハの黒龍』を殺るぞ。あいつだけは絶対に許さない」


 りょうかい! そうメシュアが口に出そうとした瞬間の出来事だった。突如としてゾイドの背後から「ぬめり……」とした不愉快な瘴気が解き放たれたのである。ゾイドは、この嫌な瘴気の持ち主に心当たりがあった。


「お前……ッ!!」


「やあ、愛しの友人、ゾイド・ペンターク君。そして――憎たらしいことこの上ない下等生物のスライム君」


 ゾイドの目の前に現れた男。それは、ヴォルフガング・フリードリヒだった。


「久しぶり、というにはまだそんなに時が流れていないね。夢の世界(あっち)ではそのスライムにまんまとしてやられたけど、現実(こっち)ではそうはいかないよ」


 フリードリヒはにんまりと笑った。双眼は燃えるが如くの紅蓮、全身を覆うオーラは圧倒的かつ純粋な邪悪。夢の世界で戦った時はお遊びだったのだと、そう思わせる程の説得力が今のフリードリヒからは感じられた。


「あまり時間が無いんだ。俺は『マハの黒龍』を殺したくてうずうずしているからね。……ヴォルフガング・フリードリヒ。ここで完全に消し去ってやる」


「ふはッ! 出来るものならやってみなよ! この身体(からだ)は純粋にして無垢なる邪悪そのものなんだ。この世の(ルール)から外れた存在、それがこの僕なのさ」


 フリードリヒは先制攻撃を仕掛けた。その攻撃はダメージを与えることが目的ではない。ゾイドとメシュアの意思疎通を阻害するのが目的だ。


「鬱陶しいスライムには黙っててもらわないとね。さあ始めようか、ゾイド・ペンターク君。ラウンド・ツーだ」

ここからは第四章になります。もしもおもしろい、続きが気になる、期待できそうと感じて頂けた場合には是非!↓の★★★★★で応援して頂きたいです!1つでも大きな応援になります。またブックマークや感想等も頂けると応援&モチベの向上になりますので、なにとどよろしくお願い致します!ここまで読んで頂きありがとうございます!!

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