白極の騎士と魔破の黒龍
黄金の輝きは容赦なく、ヒナ・エルドールの体を焼き尽くしていく。
ジジ、ジ、ジ……ジジジジジジジジジ、バチバチバチバチバチバチバチッ!!
「あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!! は、ひゃ、ひゃひゃ、ああ”あ”あ”あ”あぁァアバァ~~~~~~~~~~~~~~~~ヒャハハハ、ギ、ぐげぇ”、え”え”え”、あは、あはははははははははははははははははははははっっ!!!!!」
「うぅぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!! 完っ全に、灼け失せてしまえぇぇぇええええええええええええええッ!!!!!!」
尋常でない魔力出力は『ぺレスロウレ』の街はおろかアルスハニア王国全域を激しく振動させた。
「はあ、はあ、はぁ……。これだけ甚大な魔力の光線。死には至らなくとも戦闘を続行することは不可能でしょう」
ルル・メリーは慎重な性格だ。故に、必殺の一撃を放ったあとも決して気を緩めることなく油断もしない。そんな彼女だったからこそ、不意の一撃を避けることが出来たのだ。
突如、ルルの背後から暗黒色の棘が無数に出現し、彼女の急所を刺し貫かんと伸縮したのである。
「これは、まさか……」
「その”まさカさ」
ゾンビのようにむくりと起き上がったヒナ・エルドールの姿は悲惨なものだった。顔は焼け爛れ右腕は破損、左目はどこかへ吹き飛んだのか穴が開き、とめどなくボダボダと出血していた。
「流石に、すさまじい威力だね。ふふ、今の一撃は効いたよ。久しぶりのダメージだ。あ”あ”、懐かしい感覚だ。思い出させてくれてありがとう。痛みってこういう感じだったねぇ」
ヒナが悠長に語る合間にも、ルルは容赦のない斬撃を無慈悲に浴びせ続けた。だが、ヒナの声はその実態がミンチと化してもなお消えることはなかった。
「とことん気色悪いわね。どこまで人間をやめれば気が済むのかしら」
「人間をやめる……それって、当然のことだった。私には、そう、私にはそれしかなかったのさ。理解できないだろう。君には理解できないよね。まあそんなもの初めから求めてなどいないけど」
ヒナの全身を暗黒のオーラが覆う。オーラはみるみる肥大化してゆき渦を巻いた。限りなく呪いに近しい悍ましい雰囲気の込められた魔力は、ルルをも包み込んでしまう。その暗黒の瘴気は半径五百メートルにも及んだ。
すさまじい瘴気……! 生身で触れたら、その瞬間に肌が焼け骨が剥き出しになるわね。まさかこれ程までのエネルギーを持っていただなんて。
「君の力は理解した」ヒナが言った。「もう君は、私には及ばない」
暗黒の瘴気は少しずつ縮小し、ヒナの体に吸い込まれるかのようにして消失していった。暗黒の瘴気が消滅した時、ヒナの肉体は完全に修復されていたのだった。
「……見掛け倒しね。ダメージは蓄積されたままでしょう」
「ご名答」
ヒナは微笑みを携えて拍手した。教え子に百点満点を与えて喜ぶ教師みたいに。
「私の儀式には五体が必要だからね。だからこうしただけ。……ルル・メリー。白極の騎士と呼ばれるにまで至った極光の騎士団の副団長。かつての友としてではなく、一人間として君に敬意を表するよ」
でもね――!
「ここからはずっと私のターン。もう君たちに、私を止める手段はない!!」
ルルのそれとは対照的な、暗黒色の輝きが周囲一帯を飲み込んだ。
「魔力を超越し、魔力を卑下し、魔力を見下し魔力を嗤う。想像は理を超越し、新たなる領域は我が御身に望むべく権威と威光を齎さん――」
ヒナ・エルドール。
龍化呪法、出力百二十パーセント。
ルル・メリーの前に、一匹の龍が姿を現す。
暗黒色の無数の鱗、堕天使を彷彿とさせる漆黒の双翼、大剣を思わせる二つの牙、そして、紅蓮に発光する邪悪な双眼。
古書に語り継がれる伝説の龍。
「そんな、馬鹿な……」
白極の騎士の目の前に現れたのは、紛れもなく『マハの黒龍』であった。
魔を破壊する全能なる力、それが魔破族に伝わる特異な能力であり、黒魔術の正体だ。
「何が太陽の輝きだ。片腹痛いわ」
魔破の黒龍が、ふっ、と息を吐く。ルルは咄嗟に剣でガードするが、その一撃の破壊力はルルの片腕を圧し折るのには充分すぎる程の威力を持っていた。
吹き飛ばされたルルは瓦礫の山の中から起き上がった。口内に溜まった血液を吐き出すと、躊躇なく例の魔道具を自身に使用した。ルルは怒り狂っていた。
マハの黒龍は、『アダマイトス』討伐クエストに出現し数多くの冒険者を無慈悲に殺戮したモンスターだ。それがまさか、かつての親友だったとは。これが怒らずにいられようか?
「とことん堕ちたわね。いいわ。これもきっと神の気まぐれ。私があなたに引導を渡してあげる。せめて地獄で懺悔なさいッ!!!」
これにて第三章完結です!! 物語も(多分)折り返し地点です。一度作品を消してしまったり、何度か休載を挟んでしまったりと上手く行かないこともありましたが、ここまで書いてこれたのは作品に目を通して下さった皆様のお陰です。本当にありがとうございます!! これからもほんの少しでも通学や通勤時のお暇つぶし程度にはなれるよう精進して参ります!




