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また追放された。そしてやはりメシュアはチートだった。

 『オーロラ平野』に辿り着くまでの道のりで多くの人間がリタイアしていった。俺はというと基本的にはアガドを召喚していたのだが、いかんせんチームメンバーが多すぎる。


 こうなるとさしものアガドの「絶対王者」もかかりが悪かった。しかもほとんどが味方の「バフ」に割かれているため、モンスターにかかる「デバフ」は雀の涙程度になってしまっている。


「ごめんな、アガド。俺がもっとお前を鍛えてやれていたら」


 アガドは非戦闘モンスターに属する。戦闘面においては徹底的に無力なのだ。


「ウウ…… ヤハリ ニンズウガオオイト キツイナ」


 モンスターには原則としてスキルと呼ばれる能力が備わっている。普通のスライムなら「粘着」とか「物理半減」などというものだ。メシュアは「無限収納」でアガドが「絶対王者」。そして、このスキルというものは進化することがある。


 例えば通常のスライムの「粘着」が進化すると「超粘着」になったりする。そして、スキルのレベルというのは使えば使う程、そしてスキルの価値が低ければ低い程、はやく上昇するのだ。


 絶対王者は『英雄の誉』で5年ほど使われてきたが、いまだに進化していない。つまり、それほどまでに価値のあるスキルなのだ。


 強いモンスターは育ちにくいが弱いモンスターはすぐに育つ。スキルもまた同様なのである。

 スキルは進化すると、文字通り強さの次元が跳ね上がる。この「絶対王者」も進化さえしてしまえば、さらなる境地へと達することができるだろう。


 だからこそ、俺は基本的にはアガドをサモンしているのだ。

 数百人単位の人間に付与された「絶対王者」は『英雄の誉』にいた時以上に、急激に進化へと向かい成長していくだろう。俺は周りの人間に無能だと思われても、ギリギリまでアガドをサモンし続けた。だが、それもついに限界を迎える。


「お前、やる気がないなら失せろ」


 俺は休憩時間の合間にグラッカスに呼び出された。グラッカスは怒り心頭といった様子で俺を睨みつける。そしてその横に浮遊するアガドのことも。


「お前、テイマーなんだろ? しかもダブルサモンも会得してるらしいじゃねぇか。なのになんだってそんなクソの役にも立たねぇ金〇野郎をサモンしてやがる」


 俺は釈明した。

 アガドの「絶対王者」のこと。これを重ね掛けして爆速的に経験値を稼げば「絶対王者」が進化できること。そうすれば、必ずこの遠征で貢献できるということ。だが……。


「お前にとってこの遠征はレベリングでしかないってことか。よく分かった。もう結構だ。消えろ。お前をこのレイドクエスト及び遠征から追放するッ!!」


 グラッカスの声に、周囲の人間が水を打ったかのように静まり返った。

 

「分かったら今すぐ失せろ、この役立たず!!」


「……分かりました」


 グラッカスの言い分も、一理ある。そう思った。アガドを役立たず呼ばわりされた時は殴ってやりたいとも思ったが、その瞬間、俺の脳裏には「マッチョス」に返り討ちにされた時のことが浮かんだ。情けないことだが、俺は怯んで動けなかったのだ。



            ☆     ☆     ☆


「追放されてしまったのは悔しいけれど……」


 俺はアガドの頭部に右手を添えて語り掛けた。


「まだ「絶対王者」使えるか?」


「ヘイキダ! 「ゼッタイオウジャ」二 キョリノ セイゲンハ ナイ。 アルトスレバ フヨスルトキダケダ! イチドフヨシテシマエバ アトハ アガドノ タイリョク シダイ!」


「頼もしい限りだ。……悪いけど、限界がくるまで付与し続けてやってくれないか? 今回のクエストは失敗したらまずいらしいし、なにより、これがキッカケで「絶対王者」が進化すれば――」


「アア ワカッテイル シンカサエ デキレバ ムソウダ!」




 俺が追放されたのが遠征二日目の出来事。

 まだ『ぺレスロウレ』からはそんなに離れてはいないが……。


「クローズ!」


 俺はアガドを戻し、


「サモン!」


 メシュアを召喚した。


「メシュア、一つ聞きたいことがあるんだけど」


「なんだい?」


 俺は『ぺレスロウレ』での出来事を反芻する。

 あの時、メシュアは「めしゅあごう はっしん!」などと言って蒸気自動車の形になった。しかも、運転手がいないというのにも関わらず、ミニメシュア号はきちんと蒸気自動車として動いていた。


「メシュアは車を取り込んでいるのか?」


「くるまは とりこんでるよ! さびて おぶじぇみたいに なってる はいしゃが あったから もらっておいたんだ」


 錆びてオブジェみたいになってた?

 ……待てよ? ひょっとすると……。


「もしかして、メシュアは体内でリサイクルできるのか?」


「りさいくる?」


「ああ。壊れたもの元通りにしたり、その一部分を使って別のものに変えてしまうことをリサイクルって言うんだ」


 俺の言葉を聞いたメシュアは事も無げに、笑顔で言った。


「できるよ! いちど ぼくがとりこめば おれたけんも われたたても ぜーんぶ もとどおりさっ!!」


 なるほど。

 まさかこれ程までとは思いもしなかった。


「『ゴブリンナイト』から吸収したサーベル、あれもメシュアの仕業か?」


 通常は5%しか含まれていないと言われる『マハの黒鉄』。だが、俺たちが『ゴブリンナイト』から奪ったそれには、およそ50%も含まれていたという。


「よけいな おせわ だったかなあ? じゅんどが たかいほうが いいっておもって たいないで れんせいしたんだけど」


「ははは、はっはっはっは、あっはっはっはっはっ!!」


 俺は笑いをこらえることができなかった。

 そういうことか。なんかおかしいと思ったら。


「メシュア、お前さては、スキルの複数もちだな?」


「……あれ、いってなかったっけ?」

ここまで読んで頂き感謝です!!

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