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第四十三話

 突然、自分が落とされた「天国」のような空間の両端にともり始めた炎。

 それをたどってみることにした。

 不安はあったけれど、動かなければ何にもならない。そんな気がした。


「……どこまで、続いてんの?」


 行けども行けども、先は見えない。真っ白な光に、すべてがごまかされているようだ。

 火は、規則的に灯っていく。後ろを振り返ってみると、高速道路の電灯のように列になった炎があった。急に不安になってくる。

 もし、帰れなくなったら? 

 いや、もうすでに、帰れないのかもしれない。ここに足を踏み入れた時点で、生者の世界には戻れないのかも――


「うわああああっ!?」


 うつむいて足元を見たとき、心臓が飛び出しそうになった。

 自分の靴、その前方三十センチほどに、赤いハイヒールを履いた足が見えたのだ。

 叫び声こそあげたが、押しつぶされそうな恐怖を感じて、顔をあげることができない。なぜかといえば、赤いハイヒールの女の幽霊に追いかけられる、という内容の怪談を先日聞いたからだ。もともと怖い話は苦手だ。こんな得体のしれない場所で、助けも来ない場所で、未知のものに遭遇した恐怖はものすごいものがあった。

 助けが来ない――。

 死神さんの顔が思い浮かんだ。馬鹿だな、いくらなんでもほいほいと来てくれるわけがない。あたしは、物語のヒロインなんかじゃない。


「あの……?」


 予想外の声。

 女の人の、少し困惑したような声だ。

 一瞬だけ、恐怖より不思議に思う気持ちが勝った。うつむいていた顔をあげる。

 目の前には、四十代と思われる、ショートカットの上品な女の人が立っていた。


「え、え」

 

 てっきり、おそろしげな幽霊か、妖怪か、はたまた怪物かと思っていたので衝撃だ。


「ああ、よかった。やっと人がいたわ!」


 女の人は綺麗に口紅を塗った唇をうれしそうに開いて、そう言った。

 

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