第三十三話
「アイツさーーー」
どんっ。
「ストップ…」
勝手に体が動いていた。
あたしはグリムの話を止めるために彼を突き飛ばした。
「っとー、びっくりしたー!」
危なかった。
死神さんを疑ってしまうところだった。
グリムは髪をかきあげながら、やれやれと首を振る。
「なつかチャンはさあ、結局アイツ一筋なんだねぇー」
「はあ?そんなこと言ってない…」
グリムと話してると疲れる。
チャラチャラ話しているように見えて、本音をついてくるからだ。
だからあたしは気が抜けない。
本当のことなんて話さない。
「でもさあー、死神に恋なんかしたって無駄なんだぜ?えらーくぞっこんみたいだけど」
「誰がいつ恋とか言った!?そういう話やめてよっっ!!」
口調が荒くなる。
でもグリムは面白がってるみたいだ。こっちが向きになればなるほど口角が上がる。
「違うの?えー、それはないと思うけどな〜」
「………」
「あーあー、気にしないでいいんだぜ?そーゆーコいっぱいいるから!報われてるコは見たことないけど」
少し意地悪だったかな、とグリムは言ってから思った。
(まあいいか…このコとはあと4日だし。人間なんて、所詮使い捨て。かわいいコにあたればラッキー、それだけ…)
ああでも、泣かれたら面倒だな…と思いながら真千子を見る。
「あれ…」
真千子の表情は、グリムが想像した弱々しいものではなかった。
「報われなくていい」
「な、何だよ…」
「あたしは…助手がやれてれば、それでいいの」
「え?って、おいおい…どこ行くのさ?」
「二件目…」
「あ、ああ…うん」
変わってる。
助手の仕事が好きなのか?
今まで契約してきた人間は、もって三年だった。
どいつもこいつも、時間があわないとか、子供ができたとか、人間らしい理由で辞めていく。
少なくとも今までの人間は、死神の仕事なんて死に関わる嫌なものだと思っていた。
それなのにーーー、、。
「グリムさん、なんで喋らないんですか?」
真千子はグリムの名前を呼ぶときは、距離をとるためにさん付けにしている。馴れ馴れしく呼び捨てにして、心を許してるなんて思われるのはごめんだ。
「んー…、なつかチャンの気持ちに答えるため?とか?」
「いや…意味わからないんですけど」
グリムが聞いたこともない真面目な口調で答えたので、調子が狂う。
結局、その言葉の意味はわからなかったけれど、それからグリムは真面目に接してくれるようになった。
いきなりの変化で戸惑ったが、害はないので良しとする。
淡々と仕事をこなす日々が続いて、いつの間にやら一週間は終わった。




