第三十二話
誰?
誰って、死神だけどーーー。
ほんとに死神?この男が?
目の前にあらわれた「代理」の死神は、一言で言えばチャラ男だった。明るい金髪に一筋だけ入った赤い色。ジャラジャラと何個もピアスをつけている。ローブにもよくわからないアクセサリーをジャラジャラさせていて、とにかく派手だ。
「っひょー、けっこーかわいいじゃん!ラッキー♪」
げっ、何こいつ!!
気持ち悪い。
ずっとニヤニヤしている。
やだやだ、こんなのと一週間なんて…。
「では、本日から7日間頼みましたよ、グリム」
グリムと呼ばれたそいつは、あたしに一層近づいた。
「じゃ、行こっか~」
「ひゃ…」
首に腕を回され抱え上げられた。
「冷たい冷たい!!」
「だいじょぶだいじょぶ、そのうち慣れるよ」
慣れないし!
いや、それより近すぎるってことが問題なんだけど!?
今すぐ離れたいけど、地上は遠い。もしふりほどけば恐らく命はないだろう。
第一、人間の腕力では死神には到底かなわない。
「君、名前なんていうの?俺のことはグリムって呼んでね」
「…名塚です」
距離をおきたかったので、苗字で答えた。
でもこの男には通じない。いや、あたしの苗字が問題なのか。
「なつかチャンか、よく似合ってるじゃん!」
「はあ…」
ため息に近いような声で返事をする。
なんで、こんなことに?
ああそうだった、あたしが悪いんだ…。
涙でそう。死神さんには迷惑かけちゃうし、こんなタラシとだし。
あたしの沈んだ気持ちを読み取ることもできないのか、グリムはぽんぽん話しかけてくる。
んんん、これは、かなりのウザさ…
あんた、仮にも神でしょ?
もっとこう、落ち着きとかないわけ?
「なつかチャンってさー、彼氏いねーの?」
何なの?何でそんなこと聞いてくるの?
本気でイラついてきたけれど、なんとかおさえて返事をする。
「いませんよ…」
「えーっ、ウソでしょ!?かわいいのにー」
…一週間だ、一週間のがまん。
死神さんなんて、何もしてないのに謹慎なんだから!
そうだ、これは罰だ。
そう考えると、軽すぎるくらいだ。
授業中、あたしは昨日グリムに抱えられた首の、まだはっきりと思い出せる不快感に悩まされていた。
「名塚さーん?」
しまった、当てられたのか。
「あー、えっと」
「もー、予習してきてないな。はいじゃあ前、山川さん」
授業なんて全く聴こえてなかった。
あああ、これもあのチャラ死神のせいだ。
あのピンピンに立てた髪型を思い出すだけでもむかむかしてくる。
首がまだ冷たい気がする。
あいつの冷たさは、ただの冷たさだ。
死神さんのみたいに、ずっともたれていたくなるような安心感はない。アルマのような、冷たさ自体忘れさせるようなものでもない。
今日もグリムに会わなければならないと思うだけで、憂鬱を通り越した何かを感じる。
「でさあ、あっ、ついたみたいだね」
ほ、やっと解放される。と言ってもこれから一件目なんだけど。
「オレとだと、やりやすいっしょ!?これでも評判いいんだよねー!」
どうしよ、もう相槌さえ打てなくなってきた。作り笑いも限界。
でもグリムは気付いていない。相手の表情を見てないからだろう。自分が話せれば満足という感じだ。
「あの、名前知らないけどなつかチャンと契約してる死神?あいつよりいいっしょ~」
これはーーーだめだ。
むり。
「そんなこと、言わないでよ…」
「え?」
よく聴こえなかったのか、グリムは耳に手を当てる仕草をした。
「ごめん、なんて?」
「そんなこと言わないでって…言った」
「ああ、そうかそうか、ゴメーン!でもさ、なんかあいつ冷たそうじゃね?話したこと無いけどー」
「そんなことない、優しいよ」
「ふーん…なつかチャンって、純なんだ~」
イラっとした。
なんでこんなやつが死神さんのこと適当に言うの?
あんたなんか、足元にも及ばない。
そう言ってやりたいけど、めんどくさいのはごめんだ。そんな度胸もない。今の否定で精一杯。
「でもアイツさぁ、、、。ワケありなんだよね」
「は…?」
いきなり何を言い出すかと思えば…。
ワケありって、どういうこと?
こいつの言うことは信じたくない。嘘かもしれない。
しかし、好奇心、知りたいと思う気持ちが心の奥から這い上がってくる。
何言ってんの、と押しのけることもできる。そうした方がいい。突っぱねて聞かない方が。
でもあたしは、口を閉じて突っ立っていた。
「アイツさーーーー」




