第十四話
幸せとはこのことをいうんだろう。
最近のあたしはまさにこんな感じ。
もう心配することはなくて、かつ毎日大好きな人に会える。おまけに運もいい。今日は五百円を拾った。
「名塚どうしたのー?」
「体育館シューズ忘れた!取りに行ってくる」
ふう。いくら運が良くても不注意はカバーしきれないな。
シューズを取って教室を出ると、拓馬が鍵を持って待っていた。拓馬は委員長だから。
「あ、ごめん」
「いやいいよ」
後ろの方で他のクラスの子が拓馬くんと話してる、いいなー、無造作ヘア最高などと言っているのが聞こえる。
「最近寝てんの?」
う、また死神関連のことか。
拓馬には死神の仕事についてひととおり話してある。
ちゃんと信じてくれたから、やっぱすごいやつなんだと思う。
「寝てるよ!楽だから!30分くらいで終わるし」
「ふーん、ならいいけど」
「保護者みたいな言い方じゃん!」
こうして笑って話すこともできるようになった。
なりゆきで体育館まで一緒に行った。幼馴染だし、別に特別なことじゃない。でもすれ違う人に、カップルだと思われてるようだ。やめてほしい。
拓馬と歩いてると騒がれるんだな。有名人だから。
死神さんと歩いてても、騒いでくれるのは拓馬くらいだ。
やだ、拓馬と死神さんを比べるなんて、どうかしてるよあたし…。
格が違うから!
今日も仕事を終えて上機嫌でアパートに戻った。
出入りはいつも部屋の窓からする。一階でよかった。
音を立てないようにそーっと開ける。これがなかなか時間がかかるんだ。
通れるくらいにまで開けて、後ろを向いてブロック塀に置いたリストを取ろうとする。
「!?ないっ!リストどこにいったの!?」
下を見てもない。
誰かが取って行ったなんて…そんなわけない。
リストは死神とその助手にしか見えない。拓馬みたいに死神が見える人間でも見えないのに。
でも、いくら探しても見つからない。
「どうしよう~」
泣けてきた。泣きながらアパートのまわりや近所をリストを探して何周もした。
けれども一向に見つからない。
ふとある考えが浮かんだ。
他の死神か死神助手が取って行ったということはないだろうか?
それなら納得できる。
そこにあったものが消えるなんてことはないのだ。必ず何かが手を加えたから消えたのだ。
あんな重いものは風で飛んだりしない。
猫やカラスも興味を示さないに違いない。
もうそうとしか考えられない。
盗まれたとしか。
でもあたしの不注意だ。慣れてきて油断が出ていたんだ。
なんで塀の上に置いたんだろう!!脇に挟むとかしておけば気づけただろうに。
最初のころは、リストに対して恐れを抱いていた。
この小さな本に人の運命が詰まっているんだ。そう思っていたから、仕事で持ち歩いているときは一秒たりとも体からはなしたことはなかった。
バカ。くっっそアホ。あたしのアホ!!!
信じられない。
あんな大事なものをなくすなんて。
死神さんになんていったらいいの。




