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第十話

その日、布団に入っても全く寝られる気配がなく、明け方までもぞもぞしていた。

怖かったけど、死神さんすっごいかっこ良かったなぁぁーー。

黒いローブがはためいて、鎌振ってる姿が写真撮りたいくらい様になってて。

何より、守ってくれた。

それが一番嬉しい。

何度寝ようとしても、あのときの死神さんの後ろ姿を思い出してときめいて、気づけば朝の4時。新聞が届けられた音も聞こえた。

結局一時間ほどしか眠れていない。

学校に来たものの強烈に眠たい。

授業中は白目になっていた気がする。



なんとか昼休み。

午前中の授業でかなり寝たので少しは普通に活動できるようになっていた。

トイレにいった帰り道。

廊下で、向こうから拓馬が歩いて来た。

そのまますれ違うかと思ったのに、なぜか拓馬は立ち止まった。

「お前さ‥‥‥」

「なに?」

なんの用事だろう。

そういえば最近ずっとよそよそしいというか、避けられているというか。気になっていた。

とても言いにくそうだ。

米ついてるぞとか?チャック全開とか?

んんん、早く言ってよ。

「夜飛んでない?」

「は?」

は?ととっさにとぼけた。何言ってんのこいつ、みたいに。

内心冷や汗ダラダラだった。

見つかった?

見られてた?

見えないはずなのに!?

とにかく、ここは平静を装わないと!

「飛んでるって‥‥こう、空中を?空?」

「お、おう‥‥、、。や、やっぱいい、忘れて」

そう言って拓馬は立ち去った。

あれ、いいんだ??

助かったけど、これまずいよね。

まあ、助手の仕事が見つかったらどうこうとは死神さん言ってなかったし、拓馬もべらべら言いふらしたりするやつじゃないけど‥。

でも見られてたんだな。

ちょっと恥ずかしい。

仕事中のあたしが見えてるんだったら拓馬は死神さんも見えてるはずだ。

死神さんのことはどう思ったんだろう。

はあ、、、。最近拓馬が変だったのはこういうことだったのか。

どうする‥‥?




悩んだあげく、死神さんに飛ばずに歩いていくように頼んだ。

そして今、並んで歩いているわけだけど。

これはこれで、すっごくいい、かも‥‥‥

月明かりに、死神さんの顔が照らされている。

綺麗すぎてため息が出てしまう。

まつげ長いな‥‥‥。

だいぶ歩いた。たまにあう通行人は、こちらを見向きもしない。

見えてないんだなーと改めて実感する。

つくづく、あたしは信じられないようなことに足を突っ込んでいると思わされる。

「あ、着いた?」

歩くこと40分。一件目に到着した。

だいぶ移動して拓馬の家からも離れたので、二件目からは飛んでも大丈夫だろう。

拓馬の家があたしのアパートのすぐ近くというのが悪かった。

地獄の一件以来リストを開くとき構えてしまう。

あれ以来地獄行きには当たっていない。よかった、この人も天国だ。

ふと思った。

もし母さんとか父さんが死んだとき、そのときもあたしが送るんだろうか?

それは過酷だ。

休んだときは後で片付けると死神さんは言ってあった。

じゃあ、家族や友達もあたしの手で?

どうなんだろ‥‥‥

帰り道、聞いてみた。

「死神さん」

「ん?」

優しい声。

死神さんはいつもあたしの話をやわらかく聞いてくれる。

それも大好きなところだ。

「もし、家族や友達がリストに載ったらそのときもやっぱり‥‥やるの?あたし」

聞くのに少し勇気がいった。

もし、答えがYesだったら怖い。

「それはしなくていいよ。‥‥‥真千子ちゃんって、真面目なんだね」

よかったあ。と思うのと同時に顔が赤くなった。

真面目なんて言われてもそんなに嬉しくないけど、死神さんは特別。

死神さんがあたしのことを話したのが天にも登るような気持ち。

アパートの近くに着いた。

死神さんはいつもどこにいるんだろう。

契約をした日に連れていかれたあの音のしない空間?

うーん、謎。

最初からそうだった。どこからともなく突然現れて、あたしを振り回す。

知らない世界に連れて行ってくれる。

死神さんといる時間はもうあたしの日常で、決して消すことの出来ない部分になりつつある。

今日もお別れの時間。

もっとそばにいてほしい…。

仕方ない。

人間と死神なんだから。




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