第1話 清掃員
早朝から散歩することはいい事である。
ただそれが日も昇る前の真冬でなければもう少し気分だけでも晴れやかであった事だろう。
派遣アルバイターの朝は早い。(事もある)
さて今日の業務は銀行での清掃員だ。本来清掃業者から適切な人員が派遣されており基本固定されているのだが、どうやら急な辞職と慢性的な人員不足から選ばれてしまったわけである。
色々な資格を取り様々な業種を渡り歩きアルバイターとして余生を過ごしてしまっている田中明秀は来る日も生活費を派遣アルバイトによって繋いでいる。
さて清掃のバイトもこれで何度目か。数えるほど楽しい職務内容ではないが、雇われている以上全力で責務を全うする、それがこの田中明秀のモットーである。
昼も周りひと休憩に外の自販機で缶コーヒーを買いcm顔負けの渋い顔で啜っていたところ、あれよあれよ怪しげなグレーのバンが銀行前に止まれば、中から出てくるのは典型的な覆面男3人組、大柄な2人とメガネをかけていそうなヒョロガリ1人だ。
まさかこんなご時世に銀行強盗なんてあるまい、そう思って数秒、聞こえてきた銃声によって、考えを改める。
不景気な世の中だ。闇バイトなんてものがあるのだからきっとこれはその類であろう。
さてさて百均揃えの腕時計が示す時間は悲しくとも休憩時間の終わりを告げていた。
「弾んでもらいたいところだが、今回は警備員というわけではないんだよな」
男子トイレの鍵が空いていない窓から軽く侵入。着地と同時に立て掛けたモップを左手、中身が半分を切ったハイターを右手にドアノブを軽く捻り確認。
これぞ典型的な銀行強盗だろうか。先のヒョロガリがカウンターで銃を片手に机の上の手持ちカバンと店員の顔とで視線を行き来している。そしてそれを横目に金属バットを持ったガタイのいい男1名が店員を見張り、ガタイのいい2人のうちのもう一方は中の客へ包丁片手にドア前でドスの効いた演説中らしい。
取り敢えずドアを蹴破った。
視線がこちらに集中する、その刹那。右手のハイターはヒョロガリ向けて投擲。蓋が取れ中身がヒョロガリの黒い覆面にヒット。そのままの勢いで全力疾走。
金属バットは己目掛けて振り抜かれ、スライディングでそれを回避、きれいな股抜けからモップで股間にダイレクトアタック。
覆面を脱ぎ捨てた男が銃を構えたところを回し蹴り。左足を軸にして円の軌跡を描く右足が銃をそのまま掠め取る。背を向けたまま左肘を鳩尾に落とし込み、拾った金属バットで迎え討つのは包丁男だ。
両者の睨み合いは一瞬で終わる。
ガラス張りの銀行の窓をぶち破った女子高生によるアッパーによって男は吹き飛び銀行壁にクレーターを作り沈黙した。
「田中 明秀さんで違いありませんか?」
「君みたいな若く親しい友人はいないはずなんだけど、今友達募集中じゃないんだよね」
「ごめんね」その言葉よりも早く、持っていた金属バットをふり投げ、銀行の照明を破壊。まずその音で客たちは視線を上げ、その後その女子高生あたりへ破片が散っていく。本日二度目の全力疾走の行き先は男子トイレである。
ショットガンのような下○をするくらいならまだしも状況は最悪である。
今まで数えきれないアルバイトをこなしてきたが、依頼側でも従業員側でも客側でも見た覚えはない。
一体どこで恨みをかってしまったものか、覚えがないと言えば嘘にはなるが、所詮はバイトなのだ。
契約社員ほどの責任はないのが世間一般の認識であると思いたいところだが。
トイレを抜けて路地裏を抜けて壁キックの要領で三階建ての建物屋上まで飛び上がり、そのままパルクールの要領で午後13時半の冬空を闊歩していたところだが、聞きなれない破裂音と土煙を後方100メートルほどにみつけ、偶然にもそのバーサーカーと自分の行き先が同じであることを確認した。
どうやら怪力に鷹の目まで搭載したサイボーグらしい。
鬼ごっこ必勝法、鬼退治が求められる局面なのかもしれない。




