第九十三話:鎮圧
「ギリアス一行がロザリオ城に接近しているだと?」
隠密からの知らせでギリアス一行がロザリオ城に接近している事が分かった。ギリアス一行が何故、領境ではなくこちらへ向かっているのか不審に思っているとユリアが口を開いた
「貴方への復讐でしょ。」
「私の?」
「えぇ、貴方が手配書を領内に広めた事でギリアス一行はなりふり構わずの結果となった。あの男は絶対に貴方に復讐しないと気が済まないでしょうね。」
「あぁ~。」
それを聞いたアルクエイドは納得した。ギリアス・ガルグマクは王族としての非常に誇り高い性格であり、長兄として生まれたが側妃との間の子供のため王位継承権を得られず、陰日向の生活を送る羽目になった。そのためか野心と自己顕示欲が非常に高く、自身の存在感を示そうと手段を選ばなかった。王太子グラン・ガルグマクの婚約者に自身の娘を嫁がせようとしたが失敗に終わったが・・・・
「なら出迎えますか。」
「か、閣下!」
アルクエイドが出迎えると言った瞬間、アシュリーはギョッとした表情をした後、止めに入った
「い、いけません!行けば閣下の御命が!」
「行かねばなりませんよ。それにこれはラーニャを取り戻すチャンスかもしれません。」
「チャンス・・・・にございますか?」
「まぁ、ここからは一芝居うちますかね。」
アルクエイドがふと笑みを浮かべるとユリアは「また何か企んでるわね」と皮肉を言うとアルクエイドはそれを無視してアシュリーの手を握った
「アシュリー嬢。」
「な、何でしょうか?」
「いや・・・・辞めておこう。」
「な、何故ですか!」
「フラグがたちそうだから・・・・」
「ふ、フラグ?」
「いや何でもありません。」
アルクエイドは危うく死亡フラグをたちそうになった事に気付き、グッと堪えた。そんな中、別の隠密が報告に訪れた
「申し上げます、ギリアス一行が近くまで来ました!」
「来たか。出迎えをせねばな。」
「閣下!」
アルクエイドが行こうとするとアシュリーが呼び止めた
「何か?」
「・・・・御武運を。」
アシュリーがそう言うとアルクエイドはアシュリーの頭を撫で始めた。アシュリーは突然、頭を撫でられた事に驚きつつ、満更でもない様子で頬を赤く染めつつ大人しくしていた
「行ってくるわ、アシュリー。」
「はい。」
2人だけの世界に入り浸る様子をみていたユリアは内心、呆れつつも邪魔してはいけないと2人の気が済むまで見守るのであった
「殿下、あれがロザリオ城にございます。」
ギリアス一行は騎士隊と自警団に連れられつつロザリオ城近くまで来るとムファサがロザリオ城を指差した。ギリアスは壮麗なロザリオ城を見て不満を述べた
「ふん、何と身分不相応な城だ。」
「元々、ロザリオ家は独立領主として活動していましたから・・・・」
「ふん、奴等には勿体ないわ。アルクエイドを討ち取った暁には余の城にしてやる!」
「ん、あれは・・・・」
ふとムファサが指差した方向を見ると騎士隊を率いるアルクエイドが姿を現したのである
「あれはアルクエイド・ロザリオ!」
「来たな、あの女誑しが!」
ギリアス一行はアルクエイドが現れた事で臨戦態勢に整えていた。人質となったラーニャは気まずい思いでいっぱいいっぱいであり、不安げな表情を浮かべた。そしてアルクエイドとギリアス一行は約10mの距離で向かい合った
「これはこれは大公、いや謀反人ギリアス御一行様、随分と物々しい雰囲気ですな。」
「ふん、貴様が手配書なんぞ出さなければ余は酷い目に遭わずに済んだのだ!」
「それを言うなら謀反を起こさなければよろしいではないか?変に欲を掻くから今に至るのですよ。」
「喧しい!おい!」
ギリアスが指示を出すと2人の騎士に両腕をがっしりと掴まれたラーニャが連れてこられた。ラーニャは気まずさと恐怖が相まった表情を浮かべ、えぐえぐと泣き始めた
「こちらには人質がおる!おかしな真似をすればこの娘の命はないぞ!」
「それがどうした?」
アルクエイドがそう言うとギリアスは一瞬、呆気に取られたがすぐに我に返った
「見て分からぬか、人質だぞ!」
「だから何ですか?人質を取ればどうこうできると思ったのですか?私も舐められたものだ。」
「き、貴様には人の心はないのか!」
「はいはい、問答はいいですよ・・・・弩隊。」
アルクエイドが号令を出すと弩を装備した騎士隊が隊列を組み、弩をギリアス一行に構えた。それを見たラーニャ含むギリアス一行はギョッとした表情を浮かべ、思わず待ったをかけた
「ま、待て!子供を道連れにしたとなれば貴様の名に傷がつくぞ!」
「ふん、私は既に成金の女誑しで有名になっていますので別に痛くも痒くもございません。」
「り、領民に手をかけたとあっては信頼を無くす事になるぞ!」
「あぁ、その点については問題ありません。その娘は領民ではございませんので・・・・」
「は、ハッタリだ!」
「いいえ、その娘はれっきとした孤児であり、手のかかるじゃじゃ馬なのですよ。それに平民でありながら貴族になりたいという身に過ぎた野心を秘めており、何かと困らせております。」
「な、何。」
「そ、そうなのか?」
ギリアスは愕然とし、ムファサがラーニャを尋ねるが泣くばかりでうんともすんとも言わなかった
「さて問答はここまでです。弩隊、構え!」
アルクエイドが号令をかけると弩隊はギリアス一行に向けて構え、引き金を引こうとした
「お、お待ちを!」
するとそこへムファサが待ったをかけた。するとムファサは懐から短剣を取り出した。弩隊がムファサに向けて構えるとムファサは短剣を抜き、予想外な行動に出た
「ウワアアアア!」
「なっ!」
ムファサは短剣をギリアスの腹部に突き刺したのである。突然の事にアルクエイド以外の周囲の人間はギョッとした表情を浮かべた。特にギリアスは腹心の裏切りに仰天したのである
「む、ムファサ・・・・」
「死ね!謀反人ギリアス!」
ムファサは短剣をそのまま横から切り裂いた。腹部から赤い鮮血がドバドバと溢れ出した
「キャアアアア!!」
ラーニャは悲鳴を挙げ、護衛の騎士たちも呆然とする他なかった。特にギリアスは何故といった表情をムファサに向けた後、そのまま前のめりに倒れたのであった。倒れたギリアスにムファサは短剣を何度も突き刺し、止めをさした。そしてアルクエイドに目線を向け平伏した
「ロザリオ侯爵閣下、謀反人ギリアス・ガルグマクを討ち取りました!」
誇らしげに語るムファサにアルクエイドは下衆を見るような目で見据えた
「そうか、御苦労。」
「はい!」
「何か忘れていないか?」
「あ、はい、娘は開放致します!おい、早く開放しないか!」
「「は、はは!」」
ムファサが2人組の騎士にそう言うと騎士は恐る恐るラーニャを開放した
「おいで。」
「ひゃい!」
アルクエイドに呼ばれたラーニャは駆け足でアルクエイドの下へ戻るとアルクエイドは弩隊に命じた
「弩隊、構え!」
アルクエイドが号令をかけると弩隊はムファサたちに向けて構えた。ムファサたちは仰天し命乞いをし始めた
「お、御待ちを!謀反人は討ち取りました!何故、このような事を!」
「背信行為を平然とする輩を許すわけがないだろう。」
「あ、ああ・・・・」
「うてえええ!」
アルクエイドが号令をかけると弩隊は引き金を引き、矢が一斉にムファサたちに襲い掛かった。ムファサたちは抵抗空しく矢が全身に刺さった
「ウアアアアア!」
護衛の騎士の中には矢が刺さった状態でアルクエイドに斬りかかろうとした者もいたがアルクエイド配下の騎士たちによって成敗されたのである
「(な、何故、こんな事に・・・・)」
ムファサは全身に矢が刺された状態のまま絶命したギリアスの側近と騎士たちもギリアスの後を追って誅殺されたのである。ラーニャはその凄惨な光景を目の当たりにしてガクガクと震えていた。そんなラーニャにアルクエイドがこう告げた
「これがお前がなろうとしていた貴族の世界だ。」
アルクエイドから放たれる淡々とした語り口調にラーニャは貴族になりたいという欲求は完全に消え失せ、恐怖だけが支配していた。こうして謀反人ギリアス・ガルグマクとその一行はアルクエイドたちによって鎮圧されたのであった