第九十二話:人質
「何、いなかっただと?」
「ははっ。」
「・・・・そうか、下がって良い。」
伝令を下がらせた後、アルクエイドは自分の勘が外れた事に違和感を覚えた。それを知ってか知らずかユリアがちょっかいをかけ始めた
「御自慢の勘とやらが外れたわね。」
「おかしいな。いなくなったとすれば馬車に乗る以外、考えられないのだが・・・・」
「じゃ、じゃあ、あの娘はどこへ行ったのでしょう?」
「子供の足ではそう遠くには行けるはずもないし、ましてや誰かが見ているはずなのだが・・・・」
「もしかして見つかるのを恐れて逃げ出したのでは?」
アシュリーがそう言うとアルクエイドとユリアは「あぁ~」と納得した。ギリアス捜索に無断で参加した事がばれれば間違いなく罰を与えられる恐れて隠れたのも頷ける
「面倒な事になった。騎士隊と合流したところは森の中だと聞く。迷ってしまえば見つけるのが難しくなる。ギリアス捜索どころではないな。」
「そ、それじゃあ・・・・」
「場合によっては最悪の事態も考慮すべきでしょうね。」
アルクエイドの言葉にユリアは深く瞼を閉じ、アシュリーはもう助からないと諦めの表情を浮かべた。アルクエイドもこれ以上、ラーニャに振り回されるのは御免だと心底、思いつつも捜索を続けるのであった
「いつになったらこの森から出られるのだ。」
その頃、小汚ない旅人の格好をしたギリアス一行は森の中を彷徨っていた
「殿下、この道を辿れば森を抜けられます。」
「本当なんだろうな。」
「馬車の車輪が目印にございます。」
ムファサが指を指した方向を見ると地面に車輪の跡があり、まだ新しかった
「先程、騎士隊の馬車を見かけましたので、騎士隊とは逆の道に行けば・・・・」
「なるほど。」
ギリアスは内心、この男を処罰しなくて良かったと心底思っていた。もし感情に任せて亡き者にすれば間違いなく領民たちに殺されると思い、グッと我慢をしたのである。結果として命拾いしたのだから・・・・
「ん、あれは?」
ギリアス一行が目についたのはシクシクと泣いている女児の姿があった。女児はギリアス一行を見かけると駆け足で助けを求めた
「助けて!道に迷っちゃった!」
「無礼者!」
ギリアスが叱りつけると女児はビクッと体を震わせるとムファサが待ったをかけた
「まぁまぁ、子供相手に大人げないですよ。」
「し、しかしだな。」
「この子供を人質にして我々に手出しさせないようにしましょう(小声)」
ムファサの悪魔の囁きにギリアスの中で邪念が芽生えた。するとギリアスは女児の方へ目線をかえて謝罪した
「先程はすまなかった。」
「う、うん。」
ギリアスが謝罪し終えるとムファサが間に入り、女児に優しく語り掛けた
「どうしてここにいるんだい?」
「ま、迷子になっちゃって。」
「親御さんは一緒じゃないのか?」
ムファサが尋ねると女児は何も言えず黙りこくった。そんな女児にムファサはある提案を持ち掛けた
「一緒にこの森を出ないか?」
目の前にいる男から一緒に森を出ようと持ち掛けられたラーニャは迷っていた。仮に森を脱出してもアルクエイド等に見つかったら間違いなく罰を受けると思っていたようで返事を出せずにいるとムファサは・・・・
「お嬢ちゃん、もしこのまま森の中にいれば盗賊か、もしくは猛獣に襲われる可能性もあるぞ。」
盗賊と猛獣という言葉にラーニャはビクッとした。流石のラーニャも盗賊と猛獣の意味は知っていたようで大人しく従うしかなかった
「い、一緒に行く。」
「そうかそうか・・・・ところで名前は何というんだい?」
「ラーニャ。」
「そうかそうか、ではラーニャ、一緒に行こうか。」
そう言うと護衛の騎士たちがラーニャの両腕を力強く握りしめた。ラーニャはわけが分からず戸惑っているとギリアスはこう告げた
「逃げようと思うなよ。さもなくば・・・・」
すると騎士の1人が剣を抜き、ラーニャに突きつけた。ラーニャは内心、早まった事をしたと後悔し従わざるを得なかった
「さて森を抜けるぞ。」
ギリアス一行はラーニャを人質にしてロザリオ侯爵領を脱出するべく行動を開始した。ラーニャは先程の遣り取りで、すっかり萎縮して借りてきた猫の状態になっていた。ふとラーニャは偉そうな態度を取る男の顔を見てある事を思い出した
「(て、手配書の顔に似てる。)」
ラーニャは一緒に歩いている男が手配書の男であるギリアス・ガルグマク本人だと知り、愕然とした。まさか自分が捕まえようとしていた男に逆に自分が捕まった事にラーニャは心底、後悔した貴族になりたいという願望を優先するあまり弟の忠告を無視した事で自分が危機的状況に陥っていた
「(ラフィのいう通りにすれば良かった。)」
「・・・・何という事だ。」
「飛んで火にいる夏の虫とはこの事ね。」
「ど、どうしましょう。」
隠密の報告でラーニャが見つかり生存している事にアルクエイド、アシュリー、ユリアは安堵したがギリアス一行と一緒にいると知ると一転し暗雲が立ち込めた
「不味いな、一味と一緒にいるという事は完全に人質にされている。うかつには手が出せないな。」
「向こうも必死という事ね。」
「ま、不味いではありませんか。もしあの娘の身が危のうございます。」
「落ち着きなさい、アシュリー嬢。ラーニャを取り押さえている騎士を始末すれば取り戻せますよ。」
「ほ、本当にございますか!」
「私は嘘は申しません。」
アルクエイドは既にラーニャ救出の手立てを考えていた事にアシュリーはホッとした表情を浮かべた。とはいってもこれは危険な賭けであり一歩間違えればラーニャが殺される可能性があるため最後の手段であった
「(一か八かの大博打だわ。)」
その頃、ギリアス一行はというと無事に森を脱出したところ、巡回中の騎士隊と自警団とバッタリ遭遇し臨戦態勢に入っていた。騎士の1人が剣を抜き、ラーニャの剣先を向けて道を開けるよう脅迫をしてきた
「道を開けよ、さもなければこの娘の命はないぞ!」
剣先を突き付けられたラーニャは泣きべそをかきながら、大人しくしており、その様子を見て騎士隊と自警団は迂闊に手が出せずにいた
「み、道を開けろ。」
騎士隊の隊長らしき男がそう言うと騎士隊と自警団は大人しく道を開けた。ギリアス一行はラーニャを盾に次々と包囲網を掻い潜り、ロザリオ城近くまで足を運んでいた
「上手くいきましたな、殿下。」
「うむ、ロザリオ侯爵領に出る前にあの女たらしに会いにいくか。」
「で、殿下、それだけはお辞めください!」
アルクエイドに会いに行くと言い出したギリアスにムファサは辞めるよう進言したがギリアスの自身の手配書を作ったアルクエイドの事が許せずにいたのである
「あの男には手配書の借りを返さねばならぬ!あやつのせいで酷い目に遭ったのだ!」
「しかし、殿下!」
「これは決まった事だ、それ以上言うなら分かっているであろうな!」
「・・・・承知しました。」
アルクエイドに借りを返そうとするギリアスにこれ以上、何を言っても無駄だと悟ったのかムファサはギリアスの我儘に渋々、付き合うのであった




