第九十一話:問題発生
「殿下、一大事にございます!」
ギリアスの側近であるムファサが慌てた様子で休憩中のギリアス一行の下へ駆けつけた
「何事だ、騒々しい。」
「こ、これを御覧ください!」
ムファサは例の手配書をギリアスに渡した。手配書を拝見したギリアスは顔は一気に真っ青になった
「こ、これは余の手配書ではないか!」
「アルクエイドの罠に嵌りましてございます!」
「くっ!あの成金の女たらしが!」
ギリアスは手配書を丸めて豪快に投げ捨てるとムファサ以外の側近や護衛の騎士たちの間にも不穏な空気が漂い始めた
「噂では街道に検問所を設けられ、領民たちによる山狩りも行われると聞き及んでおります!」
「どうすれば良い!」
「まずは引き返しましょう。ロザリオ侯爵領を出れば何とか。」
「よし引き返すぞ!」
ギリアスの号令の下で一行はロザリオ侯爵領の領境へと後戻りを開始した。しかし時既に遅く、手配書を受け取っていた領民たちによって山狩りが行われていたのである
「殿下、近くで山狩りが。」
「くそ!」
「こうなれば変装するしかございません。」
「変装だと。」
「はい、成るべく小汚ない旅人の格好とお姿にせねばなりませぬ。後、絶対にお口を開いてはなりません。」
「何故、そのような事をせねばならんのだ!余は大公だぞ!」
「生き残るためにございます。」
「くっ、是非もない!」
ギリアスは渋々ながらもムファサの進言を聞き入れ、小汚ない服に着替えさせられ、顔も煤で汚した。側近や騎士たちも同様に身体と衣服を汚した
「さあ、参りましょう。」
「う、うむ。」
ギリアス一行は警戒しながら歩いていると其処へ山狩りをしている領民たちと出くわした
「殿下、正念場ですぞ(小声)」
ジュリアス一行は堂々と領民たちの下で近付くと領民たちはジュリアス一行を尋ねた
「誰だ、お前ら。」
「はい、旅の者にございます。」
ムファサが一行を代表して答えると領民たちはギリアス一行を囲み、更に問い詰めた
「何故、こんな山道を歩いているんだ?街道を通ればいいだろう?」
「いやあ、道に迷ってしまって・・・・」
「・・・・取り敢えず全員、顔を見せろ。」
一人の男が手配書を広げるとギリアスはごくりと生唾を呑んだ。男は手配書を見ながら1人1人顔を確認し始めた。ギリアスは内心、ばれないでほしいと心臓をバクバクさせながら待っているとギリアスの番になり顔と手配書を確認し始めた
「ん?」
男はギリアスと手配書を何度も見比べると、男は「こいつ手配書の顔によく似てるぞ」と訝しみ始めた。ギリアスを始め一行の間で緊張が走り、領民たちも警戒し始めた
「この野郎!」
するとムファサは突然、ギリアスの顔面にパンチを食らわせた。突然の出来事に一行だけではなく領民たちも呆気に取られた
「お前のせいで疑われたじゃないか!謝れ、みんなに謝れ!」
ムファサは力一杯、ギリアスを折檻すると男は「辞めろ」と止めに入った
「俺たちの勘違いだ、疑ってすまなかった!」
男が謝罪すると領民たちは囲みを解き、その場を去った。ムファサが領民たちがいなくなった事を確認するとすぐさま土下座し謝罪した
「申し訳ございません、殿下!」
ムファサは主君を殴った事を心底、後悔しており首を跳ねられても構わない覚悟をしていた。そんなムファサにギリアスは・・・・
「良い、あの状況なら仕方がない。」
ギリアスも内心では腸が煮え繰り返るような心境であったが結果として助かった事で複雑な胸中ではあったが何とか堪えたのである
「先へ急ぐぞ。」
「ははっ!」
危機を乗り越えたギリアス一行は山道を歩き、先へ急ぐのであった
「(潜入成功)♪」
ギリアス・ガルグマク捜索に無断で参加したラーニャは運が良いのか悪いのか分からないが騎士隊の乗る馬車の荷物の中に隠れて身を潜めていたのである
「(手配書もあるしナイフもあるし飲み水もあるし♪)」
ラーニャは自身が子供である事を利用して近付き、ナイフで脅そうと考えていた。後は大人の人を呼んで捕まえれば手柄は自分の者にしようと考えていた
「(これで貴族になれる!)」
「見失っただと?」
「申し訳ございません。」
ラーニャの監視をしていた隠密からの報告を承けたアルクエイド、アシュリー、ユリアは頭を抱えた
「あの小娘が・・・・手間をかけさせてくれるわね。」
「どうするのですか、閣下。」
「誰かラフィトを呼べ。」
「ははっ。」
「知らせるのですか!」
「いずれ知ることになります。なら早い方がいいでしょう。」
侍女にラフィトを呼ぶよう命じると隠密には「引き続き小娘の捜索に向かえ」と命じて下がらせた。それから数分後に侍女に伴ってラフィトが現れた
「お、お呼びですか。」
「お前の姉が行方知れずとなった。」
「えっ!」
姉が行方知れずと知ったラフィトのぞっとした表情を浮かべた
「恐らくだがギリアス捜索にあたった騎士隊の馬車に紛れ込んでいる可能性がある。すぐに早馬を出すつもりだ。」
「ご、御免なさい!」
「何故、謝る。」
「ぼ、僕が止めていれば・・・・」
ラフィトは御世話になっているアルクエイドに迷惑をかけた事を心の底から後悔していた。その様子を見たユリアはラフィトに声をかけた
「心配はいらないわ。もし騎士隊の馬車にいるなら見つかるのも時間の問題だわ。」
「うう。」
「ラフィト、そなたは大人しく待っていなさい。」
「は、はい。」
「下がっていなさい。」
「は、はい。」
ラフィトは侍女たちに連れられていくとアルクエイドとアシュリーとユリアは「はぁ~」と再び溜め息をついた
「分かってはいたが、やはりラーナの娘だ。」
「昔を思い出すわ。」
「ラーナという御方は昔からそうなのですか?」
「ああ、些か気まぐれな性分で私も手を焼きました。まさに今のラーニャのように・・・・」
「・・・・何となく想像がつきましたわ。」
「まあ、成り行きを見守るしかないな。」
「「そうね(ですわね)」」
その後、アルクエイドの命を受けた伝令役は駿馬に乗り、出発した騎士隊の馬車を追いかけると数十分後に騎士隊の下へ到着した
「待たれよ!」
「ん、如何した?」
「旦那様の命にて馬車の中を改めよとの事である。」
「馬車の中、何故だ?」
「預かっている子供が隠れているとの事だ。」
馬車の中で聞いていたラーニャはビクッと体を震わせた。間違いなく自分を探しに来たのだと悟った。ラーニャは騎士たちが話している隙にこっそりと馬車を抜け出し人気のない場所へ移動する事に成功したのである
「危ない、危ない。」
ラーニャは騎士たちが馬車の中を探索する間はじっと隠れていた
「見つかったか?」
「いや、影も形もないぞ。」
騎士たちが荷物を確認し終わると、伝令役は駿馬に乗ってアルクエイドに報告へ向かうと騎士隊は出発の準備を始めようとしていた。ラーニャは馬車に乗ろうとしたところ、途中で石に躓いてしまい転んでしまった
「ぶっふ!」
「ヒヒヒヒヒン!」
「出発!」
馬の嘶きによってラーニャの声はかき消され騎士隊は出発した。ラーニャは「ま、待って!」と声をかけたが馬たちが嘶きによってかき消され、誰にも気付かれずに放置されたのである
「うう。」
ラーニャの膝は擦りむいて血が出ていた。ラーニャは飲み水の入った水筒で傷口を洗い始めた
「い、痛い・・・・」
ラーニャは痛みと戦いつつ傷口を洗った後、ハンカチで抑えながら辺りを見渡すとそこは人の影すらない森の中であり、完全に迷ってしまった。どうしてこんな事になったのか、貴族になりたかったのに何故、こんな目に合わなければいけないのか自問自答していた、
「な、なんで・・・・あたしは・・・・貴族に・・・・う、うう、うわあああああああん!」
ラーニャは我慢できずに泣き出したが誰一人、聞く者はいなかった




