第七十七話:道中での出来事
アルクエイド一行はロザリオ侯爵領へ向かう途中でとあるハプニングが発生した
「大猪が出たぞ!」
一人の騎士の掛け声で騎士たちは戦闘態勢に入った。従者たちも大猪が現れた事で動揺し始めた。馬車に乗っていたアルクエイドは「はあ~」と溜め息をつき、アシュリーは大猪が現れた事に驚愕した
「やれやれ今日は厄日かしら?」
「か、閣下・・・・」
「アシュリー嬢、ここにいて。」
「ど、どちらへ・・・・」
「外だ。」
アルクエイドは馬車を出ると近くにいる騎士に弓矢を寄越すよう命じた。騎士が素早く弓矢と革製の弓かけ(四つかけ)を渡した途端に大猪が姿を現した。大猪は今まで見たことがないほどの大物だった
「プギャアアアアア!」
大猪は咆哮を上げ、騎士たちに突撃をした。大猪の体長は2mを超えており、見るからに大物であった。アルクエイドはというと弓かけ(四つかけ)を素早く装着した後、目を殺気立たせ、持っていた弓を大猪のいる方向に構え矢を装填した。大猪は色々な方向で動き回り、騎士たちは剣や槍で追い払おうとしたが獣特有の野生の勘なのか猪はサイドステップを踏みながら避け続けた。猪は真っ直ぐに突進をする事から猪突猛進という言葉があるが実は真っ赤な嘘であり、実際の猪は賢く俊敏な動きをするのである。アルクエイドは動き回る大猪を冷静にじっくりと観察し続けた。馬車扉からこっそりと覗いていたアシュリーはじっと見守るしかなかった。すると大猪はアルクエイドの下へ真っ直ぐ突進してきた
「閣下をお守りしろ!」
騎士たち横に整列した後に盾を構え、槍で大猪に向けて構えた。大猪がそのまま突進をするとアルクエイドの持つ矢がパッと離れ、矢は真っ直ぐに大猪に向かって飛んだ
「ピギャアアア!」
矢は大猪の右目に突き刺さり、大猪は悲鳴を上げ怯んだ。騎士たちは「今だ!」と槍を大猪に向けて突き刺した
「プギャアアアアア!」
大猪の体に無数の槍が突き刺さった瞬間、暴れ出し持っていた槍がボキッと折れてしまい、騎士たちは勢い余って転んだ。アルクエイドは次の矢を装填した後、そのまま発射すると矢は大猪の額に突き刺さった。すると大猪は「ピギャ!」と悲鳴を上げた後、そのまま倒れたのである。アルクエイドは念のために3本目の矢を発射し大猪の体を貫通したが大猪はピクリとも動かなくなった。大猪が死んだと感じたアルクエイドは勝鬨を上げた
「大猪、討ち取ったぞ!」
「「「「「オオオオオオオオオオ!」」」」」
アルクエイドに合わせて騎士たちも勝鬨を上げた。従者たちは安心したようでホッと胸を撫で下ろしていた
「閣下、お、お怪我は!」
「ん、ああ、大事ない。」
「良かった。」
馬車扉を開けて中から慌てた様子でアシュリーが出てきた。アルクエイドは心配ないと告げるとアシュリーの表情は従者たちと同様にホッとした表情をした
「それにしても閣下、よく冷静に大猪を退治できましたね。」
「あ、ああ、突発的でしたが何とかやれました(いやぁ、危なかった。猟師のおじさんと一緒に猪を狩ってた頃を思い出すわ、狩猟免許も無駄じゃなかったし。)」
「流石は武闘派貴族ですわね!」
「煽てても何も出ませんよ♪」
その後、死んだ大猪の検分が始まった。大猪の体長は230cm、体重は200kg、体高150cmほどの大物であった。勝鬨を聞いた近隣の住む村人が何事かと様子を伺うと例の大猪が死んでいたのである
「お、畏れながらこの大猪を退治なされたのですか?」
「ああ、そうだが。」
「あ、ありがとうございます!」
村民曰く「手に負えないほど凶暴で大変だった」と大層困っていたようでアルクエイドが大猪を退治したのを知った村民たちは感謝された。村民の案内で近隣の村に辿り着いた後に大猪を退治した事を知らせた。村民たちは大猪が死んだ事を喜んだのは言うまでもなかった。村を代表して村長をする白髪頭の老人が土下座をし礼を述べた
「此度は大猪を退治してくださり、まことにありがとうございます。」
「礼を言われる程ではない。たまたま出会しただけだ。」
「いいえ、私共はあの大猪に手を焼いておりました。田畑を荒らされ、立ち向かおうとした村人の何人かは大猪に怪我をさせられました。」
「そうか、それは災難であったな。」
「こうして大猪を退治してくださりました。何か御礼を致したく存じます。」
「気持ちは有り難いが我等は先を急ぐのでな。」
「・・・・そうですか。」
アルクエイドがそう言うと村長が残念そうにしていた。次の宿を予約していたから先を急がねばという思いもあったので折角の好意を辞退するしかなかった
「では我等は先に行く。」
「お、お待ちを、せめて御名を!」
「名を名乗るほどの者ではない、さらばだ。」
アルクエイドは名を名乗らず、村を後にした。何故かは知らないがここに留まってはいけないと私の勘がそう告げているのだ
「閣下、宜しかったのですか?」
「えぇ、長居は無用です。」
次の宿泊地に向かう途中でポツポツと雨が降ってきて、やがてはザーザー降りへと変わった。アルクエイド一行は煉瓦でできた橋を渡っている途中であった
「雨脚が強まって来たな。」
「大丈夫でしょうか?」
「さあ、こればかりは天のみぞ知るですな。」
アルクエイド一行が橋を渡り切った瞬間に橋が徐々に崩れていき崩壊したのである。それを見たアルクエイド一行が驚きを隠せなかった
「閣下、橋が無くなりました。」
「ああ、運がいいのか悪いのか分からないが・・・・」
「運がいい方です、もし渡り切る前に橋が無くなったら立往生でしたわ。」
「ええ、そうとも言える。」
アルクエイドは改めて自分の勘を信じて良かったと痛感した。もしあの村に留まっていれば先程の橋が無くなり、立往生をしていたのは間違いなしであった。アルクエイド一行はそのまま宿泊地に到着し予約していた宿に入り、ようやく一息ついたのである。アルクエイドはアシュリーを自室に呼び、次はロザリオ侯爵領だと告げた
「アシュリー嬢、この先はロザリオ侯爵領ですよ。」
「い、いよいよですわね。」
アシュリーは緊張した面持ちで望んでいた。アルクエイドはそんなアシュリーに対して苦笑しつつも肩の力を抜くよう諭した
「そう緊張せずに気楽に行きましょう。」
「は、はい!」
「ほら、言ったそばから。」
「あはは。」
宿で一泊したアルクエイド一行は諸々の準備を進め、昼頃に出発をしたのである
「アシュリー嬢、あの峠を越えたところがロザリオ侯爵領です。」
「はい、楽しみです!」
峠を越えたアルクエイドは婚約しであるアシュリーと共にロザリオ侯爵領に足を踏み入れるのであった




