第七十話:策略
ここはネマール国のネマール港、いつハルバード王国軍が攻めてくるか監視するため兵士たちはピリピリした雰囲気の中で巡回中である。そんな中、1艘の船が監視中であったネマール国水軍に伴われ、ネマール港に到着した。船の中から出てきたのはロッキード・プレミアム侯爵である。するそこへプロイアの部下であるチャーチル・モリソン伯爵【年齢45歳、身長177㎝、色白の肌、碧眼、漆黒の短髪、彫りの深い精悍な顔立ち、モリソン伯爵家当主】が出迎えた
「これはこれはロッキード・プレミアム侯爵、何用で参られたのだ?」
「・・・・投降しに参りました。」
「・・・・投降、たった1人でか?」
ロッキードの口から「投降」という言葉を聞いたチャーチルは家族を連れずに1人で投降したロッキードを怪しんだ。ロッキードは「忍びでまいったので」と言い訳をしていたが誰の目から見てもスパイである事は一目瞭然であった。そこへ元帥のプロイアが現れ、旧友と再会した
「おお、ロッキード殿ではないか!」
「お、お久しゅうございます。」
「チャーチル、どうしたのだ?」
「はっ、プレミアム侯爵は投降したいと申してきました。」
「ほお~、投降・・・・」
チャーチルから聞いたプロイアはロッキードを見据えた。ロッキードはというと、やはりバレたかと内心ビクビクしていると・・・・
「そうかそうか、貴殿ほどの御方が投降とは、ハルバード王国の終焉も近付いてきたようだな(笑)」
「は、はぁ~。」
「よかろう、貴殿の投降を受け入れよう!」
「閣下!」
チャーチルを始め周囲にいた将兵たちは驚いた。明らかにスパイなのは目に見えているのに何故、このような事をするのかと耳を疑った。そんな周囲の反応をよそにプロイアはロッキードを温かく迎え入れた。ロッキードは予想外の対応に驚きつつプロイアに接近できた事に内心、ホッとしていた
「ハハハハハ、今年はまことにめでたいことだ!ハルバード王国に大勝するし貴殿が投降した。これでハルバード王国も終わりだな、アハハハハ!」
「は、はぁ~。」
「今日は酒盛りもしよう。勿論、付き合ってくれるよな?」
「は、はい。」
「そうかそうか、アハハハハ!」
その夜、プロイアとロッキードは宿舎にて酒盛りを始めた。ロッキードは初め、緊張していたが酒が進むにつれて、警戒心を解き、自然と友人のように昔話を語り合った
「覚えているか、プロイア殿。同じ塾にいた頃、貴殿が壁に落書きをして先生に見つかった事を。」
「あぁ、ワシも貴殿も先生にこっぴどく叱られたな。」
「あの時は我等の親も呼び出されて一緒に大目玉を食らわされた。」
「あぁ、おかげでワシは父に許しを得るまで廊下に立たされた。」
「ふふ、本当に懐かしい。」
「・・・・あぁ、貴殿がこうして投降してくれた事が何よりの幸運だ。」
「・・・・プロイア殿」
「ワシも貴殿もそれぞれの国、それぞれの主君に仕え、忠義を尽くした。」
「・・・・あぁ。」
するとロッキードはプロイアを遠回しに説得に回った
「プロイア殿、先の戦いでハルバード王国軍は大敗したが未だ兵力は健在、ハルバード王は反対派を粛清し第二次ネマール征伐を考えておいでだ。」
「ほぉ~、10万以上の兵士が戦死したというのにまだやるとは・・・・」
プロイアはウルザの愚行を嘲笑した
「プロイア殿、今回ばかりは勝てるかどうかは分からない。どちらが勝っても被害は甚大、いくらネマール国が粘り続けても国力が消耗した状態であれば他国が侵略する可能性もある。」
「その通りだ。だがそう長く戦争は続かぬよ。」
「それはどういう事で?」
「うむ、投降した貴殿には正直に話そう。」
ロッキードが尋ねるとプロイアが意を決して話し始めた
「実はな、待っているのだ。ハルバード王が暗殺されるのを。」
「なっ、何ですと!」
ロッキードは愕然とした。そんなロッキードの様子をよそにプロイアは話を続けた
「先の戦いとハルバード王の圧政に耐え兼ね、さる御方を旗頭にハルバード王を暗殺しようとな。」
「だ、誰がそのような事を!」
「誰にも言うなよ。」
「は、はい。」
「お耳を拝借。」
プロイアがそう言うとロッキードは耳を傾けた
「首謀者はアルル王妃と宰相のベネトンだ。」
「な、何。」
ウルザを暗殺しようとしたのはウルザの妻であるアルルと腹心の側近であるベネトンだと言うのだ
「な、何を根拠に・・・・」
「実はな、我が陣営に密書が届いたのだ。」
密書が届いたと聞き、本当かどうか尋ねてみた
「そ、その密書、見せて貰っても?」
「残念だが密書は一昨日、陛下にお渡ししたのだ。」
「そ、そうか。」
「まぁ、命を狙われてもおかしくないな。実の父を処刑されたのだから。」
プロイアの言い分にロッキードは否定できなかった。王妃アルルの実父であるハンス・ブリザリンがウルザの逆鱗に触れて処刑された事を知らぬ者はいない。しかし腑に落ちないのは腹心の側近であるベネトンが暗殺に関わっている事である
「しかし疑問が残る。王妃は分かるが右腕といえるベネトンが暗殺に関わる等、ありえない事だ。」
「まぁ大方、自己保身であろうな、ハルバード王の逆鱗に触れれば処刑されるのがオチだ。王妃と共謀してハルバード王を亡き者にすれば、後は思うままだ。」
「確かにそうだ・・・・世継ぎはどうするのだ?」
「まあ、種さえあれば良い。場合によってはベネトンとの間にできた不義の子供をハルバード王の息子だと公表すればいいだけの事だ。」
ロッキードは背筋が凍りついた。もし王妃が不倫し身籠った場合、その子供はウルザの子供として世に出る事になる。そうなれば長く続いたハルバード王家の血筋が途絶えてしまう可能性がある
「まぁ、こちらとしても無駄に兵力が消耗しなくて済むから万々歳だけどな、アハハハハ。」
「は、はぁ。」
「まぁ、そんな事はどうでも宜しい。さぁ、飲もう飲もう!」
「は、はい。」
その後も酒盛りを続けたがロッキードは気が気ではなかった。最初は半信半疑であったがプロイアが嘘をついているような振る舞いをしておらず、より真実味が増したのである。そこでロッキードは真意を探るために寝たふりをする事にした。ロッキードはプロイアと同じように雑魚寝用のマットレスにて就寝した。プロイアが熟睡するのを待ちつつ、何か証拠となるものがないか探ろうと考えていると・・・・
「閣下、閣下。」
「ん、おお、チャーチルか。」
「お休みのところ、申し訳ございません。」
そこへチャーチルが現れ、緊張が走った。ロッキードは何とか寝たふりをしながら聞き耳を立てて探ることにした
「お話が・・・・」
「待て。」
そう言うとプロイアはロッキードの様子を伺った。ロッキードは寝息を立てながらじっとしているとプロイアは「ロッキード殿、ロッキード殿」と声をかけ、体をゆすったがロッキードは寝たふりを続けた
「寝ているようだな・・・・チャーチル、外で話すぞ。」
「ははっ。」
そう言うとプロイアはチャーチルと共に外へ出た。ロッキードはゆっくりと起き、忍び足で外にいる2人の様子を探った
「チャーチル、あれから連絡はあったか?」
「いいえ。」
「随分と時間が掛かるな。」
「閣下、例の密書、信じて宜しいのでしょうか?」
チャーチルの口から「密書」という言葉を聞き、ロッキードは用心しながら聞き耳を立てた
「王妃直筆の密書だ。それにハルバード王を亡き者にする方法はいくらでもある。手頃なのは毒殺であろうな。勿論、食事に少しずつ入れて弱らせる。」
「それでは時間が掛かりますぞ。」
「焦る事はない。宰相のベネトンと共にハルバード王を亡き者にすれば戦争は終了する。それまでの辛抱だ。」
「それで陛下は何と?」
「まあ、気長に待つとの事だ。それまでは警戒を続けよとの命だ。」
「ははっ。」
2人の会話を聞いたロッキードは身も気もよだつような感覚に襲われた。プロイアの言っていた事は本当だと信じざるを得なかった。ロッキードはマットレスに戻ってから十数分後、プロイアが戻った。プロイアは再びロッキードの体を揺すり、「ロッキード殿」と声をかけたがロッキードは寝たふりを続けた
「うむ、寝ているようだな。」
ロッキードが寝ているのを確認した後、プロイアも就寝した。ロッキードは先程の会話を聞いて以降、寝れるに寝れなかった。一刻も早く、この場を去ってこの事を知らせねばと心の底から気が立っていた。そして明朝となり、ロッキードはそそくさと宿舎を出て、小舟を探してネマール港を去ろうとした瞬間・・・・
「これはロッキード殿。」
「ん、こ、これはモリソン伯爵殿。」
そこへ現れたチャーチルにロッキードは全身がこわばった。最低なタイミングで鉢合わせになった事を嘆きつつも何とかこの場を乗り切ろうと必死に知恵を巡らしていた
「こんな朝早くにどうされた?」
「あ、ああ、家族が心配故、一旦国へ戻る事にしたんだ。」
「・・・・左様か。お気をつけて。」
「あ、ああ。」
あっさりと見逃して貰った事にロッキードはホッとした状態で小舟に乗り、そのままハルマード王国へと向かった。その様子を見ていたチャーチルにプロイアが接近した
「行ったか?」
「はい。」
「うむ、しっかり報告してくれよ、ロッキード殿。」




