第六十八話:開戦
ここはハルバード王国、閲兵式から1ヶ月が経ち、不眠不休かつ急ピッチで作られた大量の軍船のハルバード河「ハルバード王国が名付けた河(ネマール河と同じ)」に浮かんだ
「我等が聖戦、勝利は間違いなし!」
ハルバード王国親征軍の総帥として新国王ウルザ・ハルバードが自ら指揮を取る事となった。数少ない水軍専門の将軍たちは「我等が致しますので王都にてお待ちください」と願い出たが、ウルザは「余が出陣してこそ意味がある」と頑として聞かず、強引に事を進めたのである。水軍の将軍たちは軍の指揮をした事がないウルザに一抹の不安を覚えた。特に水軍の将軍のリーダー格であるサイ・ボーンヌ【年齢45歳、身長175㎝、色白の肌、黒髪短髪、赤眼、彫りの深い精悍な顔立ち、ボーンヌ侯爵家当主】とチョウ・リキン【年齢45歳、身長180㎝、小麦色の肌、黒髪短髪、翠眼、彫りの深い精悍な顔立ち、リキン伯爵家当主】は誰よりも不安にかられていた
「(この戦争、勝ち目が薄くなってきた。)」
「(水兵はまだ育っていないというのに!)」
サイとチョウは急な出陣に焦りを感じていた。水兵は陸兵とは違って長い年月をかけて育てなければならず、特に風と波の動きを知り、かつ船酔いしない頑丈な身体を作らなければいけないのである。サイとチョウは騎兵と歩兵といった陸兵を水兵として調練している最中にウルザがネマール討伐を決行したのである。2人にとってこの戦争は全くと言ってもいいほど勝ち目がない戦争なのである
「いざ出陣!」
サイとチョウの苦労等を知らずにウルザの号令の下、20万の大軍と100艘を超える船団が魚鱗の陣の如き陣形「船同士を鎖で繋いだ状態」でネマール国に向かって進軍を開始した
「行け!勝利が我にあり!」
ウルザ率いる親征軍は快調に進み、1週間が経った頃から途中から急な河の流れに巻き込まれ、船酔いする者が続出したのである。船が鎖で繋がれても水上戦に慣れていない騎兵と歩兵は荒れ狂う河の流れに耐えきれず、寝込む者が多くとても戦える状況ではなかった。勿論、ウルザも船酔いに餌食になっていた
「き、ぎもちわるい。」
「陛下、お気を確かに!」
側近たちが酔い止めの薬をウルザに服用させた。ウルザは酔い止めの薬を服用しても波の動きに対応できず船酔いに苦しんだ。そこへ側近の一人が「敵襲にございます」が慌てた様子で乗り込んできた
「て、てき・・・・だと?」
「はい、ネマール国の旗が並んでおります!」
「う、うう、む、迎い撃て、うええええ。」
一方、開戦が始まる前のネマール国はというとネマール国8万の水軍と援軍として駆け付けたガルグマク水軍4万、合計12万、両軍の軍船が合計100艘が基地に集結していた。ガルグマグ水軍を指揮していたのはジェームズ・ベネット【年齢40歳、身長185㎝、色白の肌、碧眼、赤髪の短髪、彫りの深い精悍な顔立ち、ベネット伯爵家当主】伯爵である。東南の風が吹き荒れる陣営にてプロイアとジェームズは対面した
「ベネット伯爵殿、援軍忝い。」
「いいえ、我等は国の命を受けたまでの事。私個人としてはこれほどの大戦に巡り合えた事が何よりの幸せにございます。」
「うむ、気に入った!」
プロイアはジェームズを陣幕に招き、立案した作戦を披露した
「ベネット伯爵殿、我等は火攻めを行う。」
「火攻めという事は・・・・風がこちらに味方を?」
「ああ、北南の風がこちらに味方をする。」
「北南の風?確かなのですか?」
「ああ、今は東南の風だが時が経てば北南の風が吹くと地元の漁師たちから聞いたから間違いない。」
「それは結構。それで敵の様子は?」
「物見の知らせによると100艘を超える船団がこちらに向かっているそうだ。おまけに船を鎖で繋いだ状態でだ。」
「100艘以上とは・・・・よく敵に見つかりませんでしたな。」
「地元の漁師の恰好をさせて偵察させたからな。」
「なるほど、それで火攻めの手筈は?」
「うむ、空の軍船に前衛に配置し大量の樹脂や硫黄や火薬を配備、敵の軍船に近付いたところに引火させ、敵にぶつける。そこから北南の風と合わせて火矢と焙烙火矢を打ち込む戦法だ。」
「おお、それは良いですな!」
「元帥閣下!」
そこへネマール国の兵士が入ってきて、「北南の風に変わりました」と知らせてきた
「ベネット伯爵殿、時がきた。」
「ええ、では参りましょうか。」
「うむ、全軍を港へ集めよ、これより襲撃する!」
ネマール港ではネマール&ガルグマク連合軍が集まり、北南の風に合わせて、火攻めを仕掛ける事を発表した。連合軍は殺気立った様子でプロイアの発表を聞いており、ネマール河の向こうにいる獲物(ハルバード王国船団)を見据えていた
「北南の風が我等に味方した以上、天は我等に味方したも同じ、この戦争、必ずや勝利するぞ!」
「「「「「勝利!勝利!勝利!」」」」」
「うむ、いざ出陣!」
「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」」」」
プロイアの号令の下、連合軍は軍船に乗ってハルバード王国船団のいる方向へ向かっていった。北南の風が味方してか進むスピードも加速している。望遠鏡で監視していたネマール国の兵士が前方にハルバード王国の旗を掲げた大船団を発見した
「前方に敵を発見!」
「よし作戦通りに行え!」
プロイアの命令により、空の軍船(樹脂や硫黄や火薬付き)を前衛に配置させた
「よし!そのまま敵船団に突撃せよ!」
そして今に至る。ハルバード王国船団は弓矢で応戦しようとしたが船酔いと北南の風によって矢が届かずにいた。一方、ネマール国が配置した空の軍船が一斉に火が付き、そのまま突撃をしてきた。それを見たサイとチョウは「鎖を切り離せ!」と命じるも時既に遅く、船団同士がぶつかった
「うわっ!」
「おい、火が燃え移ったぞ!」
火のついた軍船はあっという間にハルバード王国前衛の船団に引火したちまち火事となった。そこからネマール国が火矢を放ち、カタパルト(投石機)から火の着いた焙烙火矢が一斉にハルバード王国船団に襲い掛かった
「ウワアアアアアア!」
「ヒイイイイイ!」
「あ、アチイイイイ!」
北南の風によって襲い掛かった大火と敵が放つ火矢と焙烙火矢によってハルバード王国船団は大パニックに陥っていた。サイとチョウは鎮めようとしたが、統率が取れずにいた。何とか鎖を外したもののネマール河の濁流によって船が左右に傾きハルバード王国の兵士たちがネマール河に落ちていった。ウルザは自軍の現状を見た途端、「逃げるぞ」と言い放った。側近たちは「へ?」とウルザの方を見た
「このままでは余まで焼け死ぬわ!早く逃げるぞ!」
「「「「「ははっ!」」」」」
ウルザは僅かな側近と共に小舟に乗り、そのまま戦場から逃亡をした。ハルバード王国国王ウルザが逃亡した事によって全軍が総崩れになり、戦地に残されたサイとチョウはここを死に場所と決めたのである
「チョウ、これまでのようだ。」
「サイ、あの世で会おう。」
チョウとサイは僅かな兵たちと共に連合軍に突撃し、十数人を斬り殺したが多勢に無勢、たちまち弓矢の餌食となった
「む、無念。」
「ぐふ!」
「サイ・ボーンヌ、チョウ・リキン、討ち取ったり!」
「「「「「オオオオオオ!」」」」」
サイとチョウが討ち取られたのを機にハルバード王国船団は総崩れとなり、残党は海の藻屑になるか、捕虜になるか、そのままハルバード王国へ逃亡等、結果は散々であった
「我等の勝利だ!」
「「「「「えい、えい、オオオオオオオオ!」」」」」
僅か半日で終わったこの戦いを【ネマール河の戦い】と呼ばれ、ネマール&ガルグマク連合軍の死傷者は200人、ハルバード王国軍の死傷者は約10万人以上という被害を出し、国王ウルザ・ハルバードが逃亡した事でハルバード王国側の惨敗、ネマール&ガルグマク連合軍の大勝利に終わったのである
「この戦、我等の勝ちだ!」
「「「「「オオオオオオ!」」」」」




