第二十七話:決闘
「本日はご挨拶にあがりました、ロザリオ侯爵閣下。」
「ようこそおいでくだされた、エルマンド子爵殿。」
「右の左も分からぬ未熟者ではございますが御指導御鞭撻のほどをよろしゅうお願い申し上げます。」
ロザリオ侯爵邸の客間にてアルクエイドはエルマンド子爵家を継いだ新当主のヒルズ・エルマンド【年齢21歳、身長178cm、色白の肌、翠目、漆黒の短髪、彫りの深い端整で精悍な顔立ち、ビアンカの遠戚(ロンド伯爵家出身)】が貴族の家々に挨拶にして回っていた
「子爵殿、エルマンド子爵家の家督を継ぐ事になるとは思いもしなかったでしょう。」
「仰る通りです。御当主である前子爵から家督を継いで欲しいと頼まれた時は耳を疑いました。理由を伺うと納得がいきました。」
「それで前子爵夫妻は御領地へ移られたとか?」
「えぇ、前子爵夫人は御令息を亡くされ、すっかり意気消沈され前子爵と共に療養のために領地に移住されました。」
「左様か。」
「失礼します。」
「来たか、マリアンヌ。」
そこへマリアンヌが客間に入室するとヒルズは久しく会うマリアンヌに声をかけた
「マリアンヌ嬢か、久しいな。」
「はい、ヒルズ様、お久しゅうございます。」
マリアンヌがビスカの婚約者だった頃に会っており、互いに顔見知り(知り合い)の間柄であった
「エルマンド子爵殿はマリアンヌの事をご存知か?」
「はい、マリアンヌ嬢がビスカ殿の婚約者だった頃の付き合いにございます。」
「ヒルズ様、エルマンド子爵御就任おめでとうございます。」
「ありがとう。君も大層苦労したようだね。」
「さほどの事もございません。」
「そうか。」
「ごほん。」
アルクエイドが咳払いをするとヒルズとマリアンヌはアルクエイドの方へ視線を向けた
「そういえばエルマンド子爵殿はまだ独り身だと聞きましたが?」
「はい、私は家督を告げぬ身、実家であるロンド伯爵家は既に兄が家督を継ぎ、私も文官として身を立てようと考えていましたが、いきなりエルマンド子爵家を継げと命じられた時は頭が真っ白になりました。」
「でしょうね。」
「はい、ですがエルマンド子爵家を継いだ以上は当主として立派に務めようと思っています。」
「エルマンド子爵殿、私も19歳で家督を継ぎ今日はやって来ました。ささやかながら私から一つ申しておきたい事があります。」
「何でしょうか?」
「うむ、当主として立派に務めようとするその心意気はあっぱれですが、あまり無理をしてはいけませぬよ。何事も程々にされよ、私自身も当主となってからは色々と苦労をしてきました。立派に務めすぎれば色々と面倒に巻き込まれるので程々がよろしいですよ。」
アルクエイドは昔を思い出していた。19歳の若さで家督を継いでからは今の地位を築くために様々な商売を展開し、何とか軌道に乗せたは良かったものの、その利益を奪わんとする輩をえげつない手を使って排除し今日まで生き残れた事が昨日の事に思えてきた
「流石はロザリオ侯爵閣下、実に含蓄のある御言葉にございます。侯爵閣下の御言葉、肝に銘じます。」
「まあ、しっかりやりなされ。」
それから1週間が経ち、エルマンド子爵家を継いだヒルズ・エルマンドは無事に社交界デビューを果たした。周囲の貴族たちからは「運が良いのか悪いのか」とか「完全に尻拭い」とか「棚からケーキが落ちて来た(多分、棚から牡丹餅のような諺)」とか言われたがヒルズはこれも試練と思い望むのであった
「成金貴族、決闘しろ!」
突然だがアルクエイドの目の前に2本の木剣を持った一人の貴族令息が現れ決闘を申し込んできた。アルクエイドは「何だ、こいつ」と思いつつ、尋ねることにした
「取り敢えず君の名を聞きたいのだが?」
「成金貴族に名乗る名等ない!」
「はあ~、君ねえ。仮にも貴族相手に名を名乗らないのは大変失礼な行為だよ。例えそれが気に入らない相手でもそれなりの礼儀は必要だと思うぞ。そうでないと君の実家の品格に関わるからな。」
アルクエイドが放たれる正論を前に貴族令息は顔を真っ赤にさせつつも失礼な事をしたと分かっていたのか名乗りを上げた
「私の名はマリック・レイナード、レイナード侯爵家の嫡男だ!」
貴族令息はマリック・レイナード【年齢17歳、身長176㎝、肩まで伸びた金髪、碧眼、細身、彫りの深い端正できりっとした顔立ち、レイナード侯爵家の令息、アシュリーとは又従兄弟同士】と名乗りを上げた。レイナード侯爵家とはゴルテア侯爵家同様、ガルグマク王国創業以来の譜代の名門貴族であり、多数の高官を輩出してきたエリート中のエリートである
「レイナード侯爵家・・・・その御令息殿が私に決闘とはどういう風の吹き回しかな。」
「決まっている!貴様のような成金がアシュリー・ゴルテア侯爵令嬢の婿になる等、もっての他だ!」
どうやらこの令息はアルクエイドとアシュリーが婚約を結んだ事が気に入らないらしい。それにしても今になって決闘を申し込んでくる事が腑に落ちず、尋ねる事にした
「レイナード令息殿、私とアシュリー嬢が婚約を結んだ事を知らないのか?」
「私は留学中で帰国したばかりで初めて知ったんだ!」
「左様か(やれやれ、困った事になった。)、だがこれは互いの家々が了承の上でなったものだ。」
「だとしても貴様のような成金にアシュリー侯爵令嬢は釣り合わない!」
「はあ~・・・・それで私に決闘を申し込むと?」
「そうだ!」
「・・・・いいでしょう。」
するとマリックは2本のうち1本の木剣をアルクエイドに向けて投げた。木剣はアルクエイドの足元に落ちたがアルクエイドは拾わなった
「何故、拾わない!」
一向に拾おうとしないアルクエイドにマリックは苛立ちのあまり食って掛かった
「木剣は使わずとも私は素手で構いません。」
「何!」
「別に私の真似をしなくても結構、令息殿は木剣をお使いなされよ。それとも丸腰の相手に手も足も出ないのかしら?」
「くっ!」
「それとも辞める?」
「やってやる!」
こうしてアルクエイドとマリックの決闘が始まった。騒ぎを聞きつけたのか野次馬が駆け付けて来た。アルクエイドは素手、マリックは木剣という決闘方式に周囲はどちらが勝つのか見定めていた。アルクエイドは「おいで」と手招きをするとマリックは苛立った
「いくぞ!」
先に仕掛けてきたのはマリック、木剣を振りかぶりそのまま突撃してきた。アルクエイドはマリックを見据えたまま立ち尽くした。マリックは木剣を振りかぶろうとするとアルクエイドは目にも止まらぬ速さで避け、マリックの右腕を掴み関節技をかけた
「がああ。」
マリックは突然の激痛に顔を歪ませると、アルクエイドはすぐに足払いをかけ、マリックを地面(土)に叩きつけた。マリックは何が起こったのか理解できずにいると木剣はいつの間にかアルクエイドの手元にあり、そのまま木剣の切先をマリックの喉元につきつけた。マリックはというと一瞬の出来事に口を半開きにさせたままアルクエイドを見つめていた
「勝負ありましたな。」
アルクエイドは喉元につきつけた木剣を離し、マリックのそばから離れた。一瞬の出来事に野次馬たちもポカンとしたが、徐々に我にかえり「オオオオオオオオオオ」と歓声をあげた
「マリック・レイナード侯爵令息殿、私はこれにて失礼する。」
「ま、まて!まだ終わっていない!」
アルクエイドが去ろうとするとマリックは待ったをかけた
「令息殿、恥の上乗りは辞めた方がよろしい。それに人の目も気にした方が良い。」
アルクエイドがそう言うとマリックは周囲の視線に気付いたのか、それ以上何も言えず顔を真っ赤にさせ黙りこくった
「(合気道と空手を習って良かった、この世界にも柔術があるから助かったわ。)」
アルクエイド(転生者)は前世で習っていた合気道&空手「両方、段位持ち」と異世界の体術も合わさって達人級の腕前を持っており、此度の決闘で披露できた事に満足しつつ、その場を去るのであった




