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白銀の聖騎士  作者: 夜風リンドウ
一章 最強騎士の帰還
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ep20 シールカードの強襲(改稿版)




 時を同じくして、ハルディロイ城はシールカードの奇襲を受けていた。




 華やかに彩られた中庭も血塗れの海と化し、無残にもランドリオ騎士達が絶命している。上手く急所をつかれており、一瞬の苦痛もない内に殺されたのは言うまでもない。



 様々な場所で戦闘が繰り広げられているが、状況はランドリオ騎士側の方が不利である。小細工なしの白兵戦を得意とする彼等にとって、暗殺とだまし討ちを生業とする盗賊とは相性が悪い。防戦一方の状態であり、このままではまずい。



 そんな危険地帯と化した城内へと、シルヴェリア騎士団は急行してきた。



 彼等は今、城門を過ぎた先の庭園へと足を踏み入れている。既に中庭同様、ここも凄惨な光景に満ちていた。



「……やはりシールカードの仕業か。くそっ、遅かったか」



 ニルヴァーナは事前に阻止出来なかったことを悔やみ、歯軋りを立てる。



「仕方ないよ団長、流石にこれは急過ぎたし……。今はとにかく、騎士団の応援に向かおうよ」



 ラインにそう諭され、ニルヴァーナは深く頷く。そう、今は戸惑っている場合じゃない。一刻も早く、奴等を始祖に近づけさせないよう努めるしかないのだ。



 ニルヴァーナは腰に差していた紅蓮の長剣を引き抜き、少人数のシルヴェリア騎士団に号令をかける。



「――皆、敵はハルディロイ城にあり!今より作戦を開始する!総員、シールカードを討て!!」



『おうッ!!』



 騎士団員はそれぞれの武器を手に取り、鬼気迫る勢いでダッシュする。



 第一の目的はリカルド皇帝とアリーチェ皇女の身の安全の確保。その次にシールカード勢力の殲滅を行うつもりである。とても大雑把な作戦内容だが、この状況下では綿密なプランを作ることは出来ない。ここは臨機応変に対応していかなければ――。



「敵はそういないはずだが、個人の戦闘能力は極めて高い。まとまった状態で各個撃破し、玉座の間へと向かうぞ!!」



「ならこのまま、全員で正門を突破した方が宜しくて?」



「リリスの言う通りだ。行くぞ、シルヴェリアの騎士達!!」



 勢いを崩さないまま、騎士団は正門を抜け、エントランスへと突入する。ここも酷い有様であるが、まだ全滅はしていないようだ。生き残りの騎士達が激しく敵とぶつかり合い、何とか皇族の生活区に通じる大回廊を死守している。



 だが、やはりこちらも騎士団側の方が劣勢である。



 ニルヴァーナもそれをすぐに理解し、自らが先陣を切る。



 床を蹴って更に速度を早め、激戦区となっているエントランス中央の階段へと向かう。時折、敵の飛び道具が飛来してくるが、ニルヴァーナは難なく叩き落としていく。



 敵の盗賊たちが彼の存在に気付くと、その身軽さを用いて躍り出てくる。




『死ねやあああっ、人間めえええっっ!』


『今までの屈辱、苦しみを倍にして返してやるっ』




 狂気を孕んだ憎悪の雄叫びを放ち、シールカード達が容赦なくニルヴァーナを殺しに掛かる。身体の周囲には緑色の粒子が付着し、彼等の戦闘力を高める。



 ……なるほど、噂に違わずといったところか。



ニルヴァーナは異様とも言える強敵を前に、ただ冷静に分析していた。



 ――結果、予想内だという結論に落ち着く。



 これならば、自分でも対処できそうだ。



「甘いな、盗賊のシールカード達よ。このニルヴァーナ……貴様らよりは格上だぞ?」



 彼は余裕の笑みを浮かべ、紅蓮の剣を振りかぶる。



 剣先を天に掲げたと同時、とぐろを巻くように豪炎が剣の刃先全体を包み込む。やがて炎は強さを増し、ニルヴァーナが通った道には火線が残る。



 彼等とすれ違う瞬間――ニルヴァーナは剣を横に一閃させた。



 敵に直接刃を入れたわけではない。しかし、振り際に生じた爆炎が敵へと襲い掛かる。悲鳴など上げさせないし、死の感触さえ与えない。彼の炎は、敵を一瞬で塵にさせた。



 紅蓮の剣――『シルヴェリア』。竜の能力を宿した剣でもあり……亡き恋人が遺した、形見でもある。



 この剣によって、ニルヴァーナは人智を超えた敵と幾度も渡り合えることが出来たのだ。シールカードだからと言って、全く通用しないわけではない。いやむしろ、圧倒さえ出来る。



 六大将軍の一人である『不死の女王』の獄炎には到底及ばないが、彼の炎もまた常軌を逸している。



『な、何だこいつ……』


『聞いてねえぞ!まだこんな奴がいるなんて…………って、ぎゃあッ!!』



 敵のシールカードが戦々恐々とするタイミングを見計らい、その怯えた面にクナイを突き刺した人物がいた。――ラインである。



 彼は軽く欠伸をしながら呟く。



「全く、随分と呑気じゃないか。団長以外にも、ここには君達より格上が沢山いるよ?」



 そう言い終えると、ラインは手に持っていたクナイを今度は心臓に向けて投擲する。シールカードとはいえ、元は人間であった者達だ。弱点も同じであり、そこを突けば一瞬にして絶命する。



 彼だけでなく、他の団員も圧倒的な力を以てしてシールカードを討伐する。



 リリス、サナギ、ロザリー、彼女達もまた卓越した力でねじ伏せていく。ニルヴァーナやラインほどではないが、それでも十分な戦力となっている。他の団員たちも同様であり、流石はシルヴェリア騎士団といったところだろう。



 ――だが、やはり油断は禁物だ。



「!サナギ、後ろ!」



 ニルヴァーナが何かに気付き、サナギに対して注意を呼び掛ける。



 が、既に遅かった。



 彼女の背後で倒れていた敵が、突如起き始めたのだ。自我はなく、身体の周囲には粒子が纏わり付いている。それは他の連中より色濃く、その異様な力によって突き動かされているのかもしれない。



 ――危険。



 その場にいる全員がそう悟った瞬間、敵のシールカードは霧となって霧散し、霧は数本のナイフへと姿を変えていく。



 刃先をサナギの背中へと合わせ、ナイフが一直線に放たれる。



「ちっ……!!」



 サナギは状況を理解し、すぐさま振り返ろうとするが――間に合わない。



 利き腕にナイフ二本が突き刺さり、ナイフ一本が脇腹を抉っていく。ナイフのくせにその威力は計り知れず、脇腹の肉が近辺へと飛び散った。



「が…はッ」



 あまりの激痛に、サナギはその場へと崩れ落ちる。出血の量も凄まじく、こんな深手を負うのは想定外だった。



 ニルヴァーナは即座にサナギの介抱を命じ、更なる追撃に備えるが……もう来ることはなかった。他の遺体は完全にその役目を終え、また動き出す素振りも見られない。



 ……だが、窮地はまだこれからであった。



「団長、エントランスの下の階を見てごらんよ。――敵がわんさかいる」



 ラインの言葉に反応し、一同は下の階へと目を向ける。



 若干名のランドリオ騎士を取り囲むように、先程より二倍以上はいるシールカード達が包囲している。状況は最悪であり、このままでは本当に全滅してしまう。



「ぐっ……この量は流石に厳しいか」



 ニルヴァーナはこの危機を脱する方法を考えた。少なくとも各個撃破は非常に難しく、ここは一斉に処理できる方法を編み出した方がいい。



 そんな芸当を出来るのはニルヴァーナとラインだけであるが、ニルヴァーナは既に紅蓮剣シルヴェリアの能力を使い果たしている。あれは使用者の体力を奪い、もう一度使える自信はないのだ。



 ラインもまた全員を処理できるほどの力を有しており、その潜在能力は騎士団の中でもトップクラスである。



 素性は全く知れず、時にその強さに対して畏怖すら覚えたこともある。そんな彼だが、ここで無闇に力を使う気はないらしい。



 以前に彼が言っていたが、自分の持つ力は制御が効かないらしく、気を抜けば関係のない者達をも巻き込んでしまうようだ。今もシールカードの近くには騎士達がおり、もしかしたら一緒に殺してしまうかもしれない。



 それ故に、ニルヴァーナとラインは力を使えない。



「どうすれば――」



 と、彼が諦めかけた時だった。



 ふいにリリスがニルヴァーナよりも前に出て、自らの持つ細身のレイピアを構える。刃を自分の眼前へと差し出し、まるで王に忠誠を誓う騎士のような恰好を作る。



「――団長、ここは私にお任せ下さいな。このリリスが、奴等を一斉に排除してみせますわ」



「……出来るのか?」



 ニルヴァーナが眉を顰めながら尋ねると、彼女は薄く笑んだ。



「正直これは賭けに近いです。……だって私は、これから聖騎士流剣術を使うのですから」



「リリスそれは……」



 ニルヴァーナは目を見開き、驚きの声を上げる。



 彼だけでなく、シルヴェリア騎士団全員が驚きに包まれた。それも当然のことであり、聖騎士流剣術はこの世界でたった一人――白銀の聖騎士だけにしか扱えない至高の剣術である。



 代々白銀の聖騎士は、自分の後継者である者にしか技術を継承しない。何故なら聖騎士流剣術は、並みの常人では基礎さえ会得することも出来ず、精神的な圧力を受けて自我を崩壊してしまう可能性もあるのだ。彼等のそのために、この技術を公にしないよう努めてきた。



 よって、聖騎士流剣術は白銀の聖騎士――今ではゼノスにしか扱えない。



 リリスには使えないはずなのだが……。



「……」



 一同が驚く一方、ニルヴァーナは聖騎士という単語に……難しい表情を浮かべていた。



 彼の中にどのような感情が渦巻いているかは、この場の誰にも分からないが。



「とにかく!今は急を要するのですわ!――多くの人間の技を簒奪したリリスの実力、今こそ示す時です!!」



 彼女は近くの手すりを飛び越え、自ら敵陣の中へと飛び込んで行く。



 シールカード達がにじり寄るのも構わず、彼女はレイピアを天井へと掲げ、一心に乞い願う。傍で何十回も見てきたあの技を、どうかこの私にも、一瞬だけでもいいから使わせて下さいと。



 ――瞬間、世界は光に包まれた。



 彼女の願いが叶ったのか、はたまた偶然なのかは知らない。しかし現に、彼女は聖騎士流剣術の模倣に成功した。



 この凄まじいまでのオーラに、相手は恐怖へと堕ちていく。そうなるのも無理はなく、聖騎士流剣術から放たれる力の源泉は、あの神獣でさえも畏怖させる。



 リリスはそんな弱腰の敵に対し、情けをかけるつもりはない。



 光の世界でリリスは叫ぶ。



 驚き戸惑うシールカード達に向けて、レイピアで空を刺突する。その剣先から純白の羽が生まれ、光の中を駆け巡る。



 英雄の奥義。



 希望の象徴。



 そして――揺るぎない死の宣告。



 ありとあらゆる化け物達にそう呼称された奥義が、今解き放たれる。




「――聖騎士流奥義、『天啓』!!」


 


『――――――――――――』



 エントランス中の壁が重圧でひしめき、敵は舞い散る羽に呑みこまれる。



 痛みなど有り得ない、ただ待ち受けるのは一瞬の死。それは生きるべき者と死を受けるべき者を選定し、後者には抗いようのない黄泉への旅立ちを送る。



 ――さようなら、死すべき者。



 リリスは心の中でそう呟き、彼等へと背を向ける。



 彼女はここにおいて、正義を全うした。




『ぎゃあああああああッッ!』


『こんなのって、こんな事って……っ!』




 かろうじて奴等の無念の声が響き渡るが、それも衝撃の余波によって無残にも消えていく。一瞬にして、敵は消失していく。



 塵も残さず、彼等がいたという証拠を跡形もなく消し去っていく。もちろん、仲間であるランドリオ騎士は無傷であり、彼等は茫然と立ち尽くしていた。



 騎士団に被害を与えることなく、リリスはそれをこなしてみせたのだ。



「――ッ!う、ぁ……!!」



「リ、リリス!」



 途端、聖騎士流剣術で力を使い果たしたのか、リリスはその場へと崩れ落ちる。



 急いでサナギがリリスの元へと近付く。ゆっくりと彼女を抱えると、その顔が蒼白となっており、身体中が小刻みに震えていることに気付く。



 リリスはサナギに対し、自重にも似た笑みを浮かべる。



「ふ、ふふ……やはり聖騎士様は凄いですわ。私なんて本来の一割も効果を発揮できないし、一発放っただけで……こうなるなんて」



「気にするなリリス、お前も凄いよ……」



 サナギはそう言うが、心の奥底ではこう思っていた。



 今のが一割にも満たないのなら、聖騎士が駆使する聖騎士流剣術は……一体どれほどの威力があるのだろうかと。もしサナギが想像するものならば、恐らくここにいる全員が束になってかかっても、聖騎士には勝てないだろう。……絶対に。



 軽い寒気が走るが、サナギは首を振ることでそれを紛らわせる。そう、今やることは考えることじゃない。



「なあ団長。リリスについてなんだけど」



「分かってるさ、サナギ。ただ今戻ってはまた奴等と出くわすだけだ。このまま進み、リリスが休める場所を確保するぞ」



「了解」



 ニルヴァーナの意見に、シルヴェリア騎士団総勢が賛同する。



「なら団長、このまま皇帝のいる間に行った方がいいと思うよ。あくまで僕の推測だけど……あそこなら大丈夫な気がするんだ」



 推測というよりも、これは確信とも言えるだろう。



 ラインは戦闘だけでなく、こういった敵を察知する能力にも長けている。いわゆる隠密技術の一端であり、この事に関してはニルヴァーナも全幅の信頼を置いている。



「分かった、それならこのまま作戦を遂行しよう。……サナギ、リリスを頼む」



「ああ、任せてくれよ」



 サナギはリリスをおんぶし、気さくに答える。彼女はゼノスと関わらなければ、とても頼りがいのある存在なのである。



 ニルヴァーナは全員を確かめると、また作戦を続行させた。



 広い大廊下を突き進み、中庭を抜け、更にその先にある皇族エリアへと突入する。その際に多くの盗賊たちと遭遇したが、ニルヴァーナとライン、そしてロザリーを中心としてテンポ良く処理していく。



 ハルディロイ城上層部に位置する皇族エリアへとやって来ると、そこは異様なまでの静けさを放っていた。皇族エリアに繋がる外橋では多くの敵がいたのに……。



 ニルヴァーナはより一層警戒しつつ、仲間と共に皇族エリアにそびえる別棟へと向かう。下層部にある庭園や中庭とはまた雰囲気の違う、どこか整然とした子庭を抜けると、そこに別棟が佇んでいる。別棟の巨大な扉を開けると、目の前に礼拝堂が広がっていた。両脇に厳かなステンドグラスが張り巡らされ、奥には初代皇帝の像が祀られている。



 一階の礼拝堂の両隣に階段が設置され、右は円卓の間へと続き、そして左は玉座の間に繋がっている。ちなみに玉座の間の途中には、皇女殿下が住まう小さな離宮に繋がる回廊もある。



 ニルヴァーナ達はもちろん、左の階段を登っていく。



 騎士団が闊歩する音だけが聖堂に響き渡るほど、辺りは不気味なほど静寂である。だがニルヴァーナはより一層神経を尖らせつつ、警戒しながら奥の方へと向かう。



 聖堂の祭壇の丁度上に、玉座の間へ通じる扉が控えている。豪華な装飾が施されている以上、その事実は間違いないだろう。



 ニルヴァーナは仲間全員と頷き合い、一気にその扉を開け放つ。



「皇帝陛下!!」



 入ると同時、彼は声高くリカルドを呼ぶ。



 ――が、皇帝陛下の姿は見えない。



 ちなみに玉座の間は広く、まるでドーム状のような造りをしている。何本もの石柱によって支えられ、柱の間は大きなガラス窓と紅蓮色のカーテンが下ろされている。そして部屋の中央に玉座が悠然と構えられている。



 ……その部屋に、今は誰もいない。



 …………いや。



 玉座の前に、一本の剣が突き刺さっていた。



 もちろん人ではない。――だが何故だろう。



 この剣を見た途端、ニルヴァーナは想像を遥かに超える存在と出くわしたかのような……そんな錯覚を起こした。



「……そんな、まさか」



 ふと、リリスが有り得ないといった表情で呟く。



 それはラインも同様であり、それ以外の団員は全員意味不明の状態である。




『――嗚呼、主。主は一体どこに』




 気のせいか……いや、気のせいではない。



 突如、剣から声が響き渡る。美しい少女の音色であり、一瞬誰もが、その美声に心を奪われる。



 しかしその感情を掻き消すように、剣は白銀の炎を帯び、形状を変化させていく。炎は10代後半の少女を形作り、最後には人間同然の姿を映し出す。



 銀色の艶やかな髪、白く透き通った素肌。そしてその肌を覆うように、古の神々が纏ったというローブを艶めかしく着飾る。



 ――そしてその右手には、先程の剣が握られていた。



「――ッ!貴様、何者だ!」



 咄嗟に、ニルヴァーナはシルヴェリアを構える。



 他の団員も戦闘態勢に移ろうとするが、ニルヴァーナはそれを制す。



「待て、ここは自分が引き受けよう」



「で、ですが団長!相手は未知の存在です!ここは総員で戦った方が」



 サナギは念を押すが、それでも彼は首を横に振る。



「危なくなったら上手く撤退するさ。それよりも皆は、一刻も早く皇帝陛下と皇女殿下を救出するんだ。そして始祖も……ッ!さあ、行け!」



 その言葉に圧され、一同は『了解!』と声を揃え、ニルヴァーナから背を向けて玉座の間を後にする。だがリリスだけは、心配そうに佇んでいた。



「だ、団長。一応言っておきますわ。あれは……」



「ああ分かっている。この心のざわめきが……奴の関係者だと告げている」



 そう言って、ニルヴァーナは苦しそうに、そして恨めしげに少女を睨む。



 この苦しみは、今でも覚えている。



 かつて始祖竜として恐れられ、人間から恐怖の対象として見られていた――ニルヴァーナの元恋人、シルヴェリア。



 彼女が『奴』の手によって討伐された時にも、この痛みを感じていた。



 ――シルヴェリア。



 見ているか、我が愛しき恋人。



 ようやく……ようやくここまで辿り着いた。



 リリスが見つめる中、ニルヴァーナはふいに――激情を露わにした。



 彼女は止めることが出来ない、いや止めるべきではないと理解した。とても口惜しいが……ここは皆と同じように退くしかない。



 リリスは後ろ髪引かれる思いながらも、その場から立ち去る。 



 彼女が退出したと同時、ニルヴァーナは激昂しながら突撃する。



 あの憎き存在に関係する、少女へと。




「白銀の聖騎士の剣、リベルタスッ!!!――聖騎士の居場所を吐いてもらうぞッッ」




 すっかり復讐に呑まれながら、彼は少女と剣を交わす。



 軋む空間。激しく怒る男と、ただ冷静沈着に見据える少女。








 この戦いの行く末を知る者は、彼等以外誰も知らない。








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