第22話 黒幕は誰だ?
本来、あの決闘における勝敗の結果は、その後の学園生活における暗黙の序列を決めるための重要なファクターになる。
当然だけど、勝ったほうが一目置かれるようになり、負けたほうはその下という見方をされる。
あの勝負、カナデが普通に勝てば、少なくとも彼女に対する土人などと言う雑音は消えたと思う。この学園は実力至上主義だから、力のある者は出身など関係なく個人の尊厳を保つことができるようになる。
だがそれは、あくまでルールに則って決闘が決着した場合の話だ。
不正やアクシデントがあればその限りではない。特に第三者の乱入行為は神聖なる決闘の儀を汚した者というレッテルが張られ、負けるよりもさらに蔑まれるような扱いを受けるようになる。
元々はカーライルが元凶だった。
あの男が最初にルールを破ったから、僕はその制裁を加えただけ。スネイプも当然ながら同罪だったから、集めた仲間もろとも、ぐうの音も出ないほどに叩きのめしてやっただけだ。
なにも悪いことはしていない。
ちなみにデュネイ直伝の記録魔法、【聖録】でカーライルの不正の証拠はバッチリ押さえている。それを公開すれば僕の正当性は証明できる。
だが一手遅かった。
これは完全に僕の油断だ。あの時、観戦者もチラホラいたから噂で事実関係は勝手に広まるだろうと思い込み、証拠を学園内に知らしめるという行為はしなかった。
それが甘かった。
まさかこんなに早く、グリンガム通信を使って事実を捻じ曲げてくるとはね。
記事の内容は完全に僕とカナデが悪という構図。スネイプもカーライルも被害者という内容で書かれていた。僕の悪評をこれでもかと誇張した嘘八百のデタラメ記事。
スネイプに協力したカーライル。その裏で糸を引いている誰かがあの記事を書かせたのは明白だ。現状最も怪しいのは原作主人公のメルトで間違いない。
ゲッティの調査報告書にも名前があった。僕に破滅をもたらす男なのだからそう考えるのはごく自然なことだろう。
と、いうことで――
僕は今、メルト・ジャンルイジ・セルスフィアと対峙している。
◇
「いや、あの記事は本当にヒドイ内容だったね。事実とまったく異なることしか書いてなかった」
「そうだよね? 私のことも“悪魔の女”みたいに書かれてたし」
翌日の放課後――
僕はゲッティにメルトを校舎裏に呼び出すよう事前に手配していた。正直、すんなり来るとは思っていなかったが、彼はなんの躊躇もなく現れた。
今はまだ、破滅フラグの決着をつけるつもりはサラサラない。
と言うより、まだ勝てるかどうかもわからないのに戦いを挑むのは愚の骨頂だからね。そこはもう少し実力をつけてからにしたいと思っている。
彼をここに呼び出した目的は当然、あのしょうもない学内通信を撒いた黒幕が誰なのかを知るためだ。もちろん、正直に自分がやったなどと言うはずがないことくらいわかっている。
片鱗をつかめればいいくらいにしか思っていない。情報収集の一環だ。
ちなみに“悪魔の女”ことメアリーベル・アシュ・クリストフをここへ呼んだ覚えはなかった。今日はガストラダンジョンの周回はナシだから先に帰っていろと言っておいたはずなのだが……
いや、そんなことより。
メルトのあの台詞。まるで決闘の顛末をどこかで見届けていたような口ぶりだった。現地でこの男の気配はまったく感じられなかったのだが……
真意がまるで読めないな。
ここは少しカマをかけてみるしかないか。
「メルト。貴様とカーライルは旧知だそうだな」
「えっ! そうだったの!?」
いやちょっと黙っててくれる? メア。
「それがなにか?」
「ヤツはスネイプと組んでいた」
「ああ、そのようだね。あんな粘着質な魔法輪、操るのはカーライルくらいしかいないから」
メルトはカーライルと自身と関係があることを否定しなかった。
白々《しらじら》しいヤツだな。
「知っていたのか? 奴らが組んでいたこと」
「いや、知らないよ」
食えない男だ。そのニヤつきはなんだ。
否定してるのに肯定しているような態度に見える。
メルトってこんな含みのある、いやらしいキャラだったっけ? うまく駆け引きで情報だけ得ようと考えたが気が変わった。
ここは単刀直入にいく。
「貴様がけしかけたのだろう。カーライルを」
「ボクが?」
「そうだ。僕があの決闘の乱入者になるよう仕向け、叩かせた。記者を忍び込ませて記事を書かせ、バラマキ、僕の学園内での地位を低下させるよう仕組んだ。そうだろう」
「ええっ! あの記事、メルトが書いたのぉ!?」
うるさいな、メア。
いちいち反応しなくてよろしい。
そんな言い方はしていない。
「ふむ。それをすることで、ボクになんのメリットが?」
「アーク・ヴィ・シュテリンガーを処分するための、布石を打つためだ」
さぁどうだ。
ここまでハッキリ言えば狼狽えるだろう。
お前の魂胆は、全部わかっているんだよ!
「うーん。えっと、ボクがなんでキミを処分しなくちゃいけないんだい?」
「えっ?」
「むしろ逆だよ。ボクもあの決闘の記事には納得がいっていない者のひとりだ。カーライルは確かに旧知の仲だけど、あんな卑劣なやり方は絶対に間違っている」
……あれ?
なんか思ってた反応と違う。
「貴様ではないと言うのか。アレを仕組んだのは……」
「ボクは理不尽が大嫌いだ。キミがあの時とった行動は筋が通っていた。噂じゃキミは“悪逆卑劣なクソ豚極悪ゴミ野郎”なんて呼ばれていたようだけど、そうでないということをあの時ハッキリ理解したよ」
いや、そこまで酷いコト言われた記憶は今まで一度もないのだが。
なんか盛ってない?
ただ、この真剣で柔らかい眼差し。
とても嘘を付いているような態度には見えない。
嘘か真か。
その真贋。本当に見抜けなくて困る。
「アーク。メルトはとってもいいヤツよ。まだ入学して4日ほどしか経っていないけど、クラスの人たちはみんな彼のことを一目置いてる」
「メア……」
「私からも一言よろしいでしょうか?」
少し離れた場所から聞き慣れた声が聞こえた。ゲッティだ。逆光を背に、ゆっくりとした足取りでこちらに近づいてくる。
「先に帰れと言ったはずだが」
「申し訳ございません。ですが、アレからさらに調査を進めたところ、グリンガム通信にあの記事を書き、広めた男の正体を突き止めましたので、すぐにお伝えしようと思いまして……」
「なに?」
メルトでしょ? メルトがらみの誰かなんでしょ?
そうじゃなきゃ、僕はただ自分の妄想で犯人でもない男にイチャモンをつけるだけの、本当の悪役ポジの情けない男に成り下がってしまうじゃないか。
「おそらく、生徒会の副会長とかじゃないかな?」
なに?
今なんて言った? メルト。
「はい、そうです。……って、えっ? なんで知ってらっしゃるんですか?」
ほら! やっぱりメルトの関係者だったんじゃないか!
「やはりお前が……」
「いやいや。ボクは副会長とは面識がないよ。ボクのこと、そこの彼女を使って色々と調べてたんでしょ? そんな情報はないハズだけど」
「はい。メルトさんのおっしゃる通りです、アーク様」
ぐぬぬ……
じゃあなんで犯人がソイツだってわかったんだよ。説明しろよ。
てかゲッティに見張らせていたことに気付いてる時点で、やっぱりこの男がタダ者じゃないってことは間違いなさそうだ。
と、とりあえず前向きに捉えるんだ。
それがわかっただけも良しとしておこう。
「ボクにはボクなりの情報網ってのがあるんだよ。今、この学園で生徒会の副会長をやっている男。名をアリスト・ルエ・デリシャリスという。君たちにも関係がある男の名だと思うけど?」
「なにっ!?」
僕は驚きを隠せなかった。
そしてメアも、その名前を聞いた瞬間、明らかに身震いをしたように見えた。
原作改変どころの話じゃない。もはやシナリオには一切登場しない男の名だ。だが確実に、因果のあるそのセカンドネーム。
バンビーノ・ルエ・デリシャリス――
かつてメアを襲い、その罪で終身奴隷の刑に処された悪魔貴族の名。
その息子のファーストネームがアリストと言う。




